都道府県議会の2~4人区化をもたらした公選法15条8項ただし書の“裏技”
「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【22】
岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員
但書規定の変遷
この「からくり」に踏み込む前に、そもそも但書規定はどのような変遷を遂げて今日の条文となったかを見ていく。
占領下の吉田茂内閣期、議員立法で制定された公職選挙法(昭25法100)は、都道府県議会議員の各選挙区定数について、人口に比例して条例で定めることを原則(※)とした(※第15条第7項「各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議員の数は、人口に比例して、條例で定めなければならない。」)。但書規定は、この時点で存在していない。
ところが、佐藤栄作内閣のもと行われた、地方自治法の一部を改正する法律(昭44法2)に伴う改正で、附則第3項に但書規定が下記のごとく加えられた。
(公職選挙法の一部改正)
3 公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)の一部を次のように改正する。
第十五条第七項に次のただし書を加える。
ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。
さらに公職選挙法の一部を改正する法律(平6法2)で、第15条第7項を第8項に改められ、今日に至っている。なお、但書規定の立法過程については、筆者が論文を発表する予定(投稿済み)である。
条文解釈
但書規定には、都道府県の補完行政、広域行政の役割という統治の考え方と、地域の代表をそれぞれの地域の実情に応じて確保するという「地域代表」の考え方とが併用されている。特に前者の考え方については、前回紹介した特例選挙区でも色濃く反映されていた。
第15条第8項の逐条解説を参照すると、一般に次のように説明されている(黒瀬敏文・笠置隆範[編著]『逐条解説 公職選挙法[改訂版]』ぎょうせい、2021年、pp.152-153)。
昭和四十四年の法改正によりただし書の規定が入るまでは、各選挙区ごとに選挙すべき数は、必ず人口に比例して条例で定めることとされていた。ところが、人口の都市集中化の傾向に伴って郡部の人口は減少の一途をたどり、また都市部においても都心では昼間人口は増加しているのに、常住人口は減少し、周辺部の人口がこれと逆の状況を呈するようになり、常住する住民の数と地方公共団体の行政需要とが必ずしも対応する形とならない事例が相当程度生じてきた。特に都道府県行政の役割が補完行政、広域行政の推進にあることを考えると、従来どおり各選挙区間の定数配分を機械的に人口に比例して行ったのでは必ずしも都道府県行政の円滑な推進が期せられない場合も予想される。 第八項ただし書は、このような行政の実態を考慮して、特別の事情があるときは、ある程度人口比例の原則に特例を設け、それぞれの地域の代表をそれぞれの地域の実情に応じて確保し、均衡のとれた配分をすることができる途を開こうとしたものである。したがって、本項ただし書の特例は、あくまでもこのような特別の事情のある場合に限って適用されるものであり、「特別の事情」に当たるかどうかについては、当該地方公共団体における地域の実情等を十分考慮した上で判断すべきものである。なお、一般的には指定都市と一般市などの地方公共団体の権能差は、「特別の事情」には当たらないものと解されている(平二三、一、二六実例)。また、「特別の事情」のある場合においても、当該地域における従来の沿革等を十分考慮の上、地域間の実質的均衡を図るための最少限度の範囲内にとどめることが望ましい。
要は、「特別の事情」に当たるのか、但書適用の適用が最少限度の範囲内にとどまっているかにある。
但書規定の適用状況と選挙区定数への影響
実際、どれくらいの選挙区に適用されたのか。表1は、1975年4月~2019年3月期(8~18ターム)に但書を適用した都道府県議会と選挙区の数である。

表1
表1によると、全選挙区の1割が該当し、「地域代表」の考え方が一定程度適用され続けてきたことが分かる。
リンク先の表2は、1975年4月~2019年3月期(8~18ターム)において、但書規定を適用した個別の議会と選挙区の一覧である。
増員選挙区において、人口比の基数から増員幅が最も大きい選挙区は、奈良県吉野郡選挙区(10~13ターム、基数:3⇔選挙区定数:5)、愛知県名古屋市中村区選挙区(11ターム、基数:2⇔選挙区定数:4)である。増員幅はいずれも2である。
減員選挙区では大分県大分市選挙区が最も減員幅が大きかった。14ターム(減員幅:3.298、基数:16.298⇔選挙区定数:13)、15ターム(3.442、16.442⇔13)、16・17ターム(4、17⇔13)、18ターム(4.037、17.037⇔13)と、減員幅が拡大している。また、個別選挙区名を点検すると、県庁所在地、政令市内、(地方)都市のある選挙区を中心に定数が減らされている。
但書規定適用による選挙区定数への影響を調べるため、増員後と減員後の定数内訳を点検する。表3は、基数から増員後の選挙区定数(増員選挙区)である。

表3
表3を見ると、本来1人区でも良い選挙区を増員して2人区にしているパターンが圧倒的に多い。
一方、表4は、基数から減員後の選挙区定数(減員選挙区)である。

表4
表4を見ると、減員選挙区の選挙区定数は、増員選挙区よりも分散している。全体期間で見て、減員して1~4人区となったパターンが多い。直近の2015年4月~2019年3月期(18ターム)では、3人区と4人区へと減らされている事例だけで約4割も占める。
つまり、但書規定は都道府県議会選挙の2~4人区化を促す要因としても機能してきたのである。
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