都道府県議会の2~4人区化をもたらした公選法15条8項ただし書の“裏技”
「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【22】
岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員
「地域の均衡を図るため」の多様な解釈
但書規定を適用には、「特別の事情があるときは」と条文にあるとおり、積極的な理由付けが求められる。そこで各都道府県が「地域の均衡を図るため」を、どのように説明しているか、時期に関係なく、全国都道府県議会議長会『都道府県議会提要』(全国都道府県議会議長会事務局)を基に確認しよう。拙著の記述をそのまま引用する(岡野裕元『都道府県議会選挙の研究』成文堂、2022年p.138)。
青森県では、「選挙区別の議員定数を人口のみに比例させ、機械的に配分すると、都市部と広い面積を有する農村部に不均衡を生じ、県行政の円滑な推進を阻害するおそれがある」と説明するなど、産業構造と面積を組み合わせて勘案している。愛媛県では、「面積や地域性、有権者の分布或いは産業構造、過疎地の振興、更には東・中・南予ブロックの均衡等、種々の条件を勘案した」とある。ここでは地域ブロックの均衡もその理由となっている。兵庫県は、考慮する案件をさらに細かくしており、「議員1人当たりの面積、各選挙区における担税力、生産性、行政需要度、昼夜間の人口動態等の非人口的要素、人口急増減に伴いその都度選挙区別定数を改正することの地域住民に与える影響、地域の安定した代表性の確保等を考慮」と均衡変数がかなり複雑である。このように「地域間の均衡を図るため」には様々な理由を付すことが可能となっており、その裁量も広く、「特別の事情」が希釈されている。しかし、実際は岩手県のように「定数激変の緩和を図ること」が実態的な理由となっているところもある。背景としては、郡選挙区など農村地域の現職議員の議席を守り、他方で都市地域における非自民系議員の議席増大を阻害する効果があることが考えられる。
具体的にリンク先の表5を見てみよう。2015年4月~2019年3月期(18ターム)において、但書規定を適用して2人区に増員した選挙区の当選党派一覧である。2議席とも自民党、又は自民党と無所属とで分けて議席を得ているパターンが多く、多数派の再生産につながっている。自民党議員は、公明党からも推薦・支持を得ていることが多い。
各種規定の併用と一票の較差
あわせて考える必要があるのは、公職選挙法の各種規定を併用している点である。例えば「首都圏の保守王国」たる千葉県は、議会定数抑制、特例選挙区、但書適用を併用してきた。
これは、一票の格差の維持、拡大という問題とも密接に関係する。実際、都道府県議会選挙は、憲法第14条第1項(平等権)との関係から一票の価値をめぐる疑義が多数出され、特例選挙区と同様、但書規定も裁判の焦点となってきた。
岩崎美紀子『一票の較差と選挙制度』(ミネルヴァ書房、2021年、p.168)は、「地方議会選挙における定数訴訟と最高裁判決」を一覧表で紹介している。最高裁で扱われた都道府県議選を確認すると、東京都(1981年、1985年、1989年、1993年、1997年、2013年、2017年)、千葉県(1983年、1987年、1991年、1995年、1999年、2015年)、新潟県(2011年、2015年)、大阪府(1999年、2003年)、愛知県(1991年)、兵庫県(1987年)、岡山県(1987年)となっており、東京都と千葉県が圧倒的に多い。最高裁は、1987年兵庫県議選を除き、較差3倍を超えると違法を宣言する(岩崎美紀子、前掲書、p.170)。

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最高裁の解釈は
次に、東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例を扱った選挙無効請求事件について、最高裁がどのような解釈をしているか見てみよう(最一判平27・1・15)。
まず、「都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分に当たり公職選挙法15条8項ただし書を適用して人口比例の原則に修正を加えるかどうか及びどの程度の修正を加えるかについては,当該都道府県議会にその決定に係る裁量権が与えられていると解される」としており、都道府県議会に裁量権を認めている。
ただし、「条例の定める定数配分が同項の規定に適合するかどうかについては,都道府県議会の具体的に定めるところが,前記のような選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきものと解される」とし、裁量権が合理的に行使されたか問われる。
都道府県議会の裁量権が合理的な行使といえない場合とは、「一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達して」いること、あるいは「特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており,又はその後の選挙時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたとき」である。
合理性を有するものと考えられない程度とはどの程度か。千葉県の事例を扱った『判例時報』に、次の解説があった(「〇千葉県議会議員の定数及び選挙区等に関する条例(昭和四九年条例第五五号)の議員定数配分規定の適法性、合憲性」『判例時報』判例時報社、2296号、平成28年8月1日、p.24)。
①選挙区の人口と配分された定数との比率の最大較差、②人口比定数と現実の定数の隔たりの程度(現定数配分規定による投票価値の最大較差が人口比定数によるそれよりも拡大しているか、現定数と人口比定数が不一致の選挙区の数、人口比定数よりも複数定数が不足する選挙区の数)、③逆転現象(有数・例数、二人以上の顕著な逆転現象の有無・例数)を考慮して検討することになる(綿引万里子・最判解民平5・(下)九六八~九六九)。
かなり抑制的な判断となっている。
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