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都道府県議会の2~4人区化をもたらした公選法15条8項ただし書の“裏技”

「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【22】

岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員

県議会での審議の実態

 このように最高裁は都道府県議会に広い裁量権を認めているが、都道府県議会は選挙区を設置する際、但書規定の適用をどのように審議したのだろうか。これも千葉県議会を事例に見てみよう。

 2022年10月21日、2023年4月の第20回統一地方選挙(20ターム)に向け、改正された千葉県議会議員の定数及び選挙区に関する条例が公布された。選挙区42・定数94(19ターム)から選挙区41・定数95(20ターム)に変更された。具体的に、流山市選挙区を2人区から3人区に、勝浦市・夷隅郡選挙区(1人区)といすみ市選挙区(1人区)を合区(2人区)している。

 同条例は、令和4年9月定例県議会(2022年9月15日~10月14日)において、10月14日に本会議で提出、採決が行われている。県議の「発議案」であり(知事提出は「議案」と表記される)、発議案第1号(公明党提出)と発議案第2号(立憲民主・千葉民主の会提出)は否決、発議案第3号(自民党提出)は可決された。いずれも、委員会付託は省略されている。

 発議案第3号の本会議審議を会議録から確認すると、提出者である石橋清孝県議(自民党)の趣旨説明と(A4・2枚の紙に収まる)、みわ由美県議(日本共産党)の反対の討論のみ(A4・1枚ちょっとの紙に収まる)の二つしかなく、スピード採決に至っている。

 但書規定に関係する趣旨説明の発言は以下のみである。

 しかしながら、議員定数及び選挙区における考えにおいては、県民の声を最大限に受け止め、我々に課せられた責務を果たすためには、人口比例を重要かつ基本的な基準としつつ、地域の行政区画、地勢、交通等の事情などの地域の実情とともに地域間の均衡も考慮しなければならないことは言うまでもありません。

 県議会における審議が実質化しておらず(趣旨説明と討論だけでA4で3枚以内に収まる)、会議録から得られる情報も限られる。千葉県議会がどのような合理性から裁量権行使に至ったのか、判別しにくい。

県議会議員定数等検討委員会のやりとり

 委員会付託も省略され、スピード採決に至った背景には、「その他の委員会」として位置づけられる千葉県議会議員定数等検討委員会(委員数15人)で検討された経緯もあると考えられる。

 同委員会は、2021年6月23日から2022年6月8日まで6回開催したが、「各会派の見直し案を検討したところ、定数案については77人から95人、また、選挙区案については、27選挙区から41選挙区と幅に開きがあり、かつ区割りについても相違があるなど、各会派の考え方が異なっており、検討委員会として、意見の一致を見るに至らなかった」(千葉県議会議員定数等検討委員会「千葉県議会議員の定数及び選挙区等に関する報告書」令和4年8月18日、p.1)。このとき同委員会で提出された自民党案は、改正された条例の原案となっている。

 但書規定との関係で注目すべきは、第4回検討会(2022年3月1日)における次のやり取りである(同上、p.7)。

(自民党)
それぞれの案があると思うが、地域の声を県政に反映させるには地域に根を張ることが一番大事と考える。
(自民党)立千民、公明党、共産党案に対して
都市部に議員が集中し、地域間の均衡が考慮されておらず、地方の農産物、労働力、観光面と幅広い要望が聞き取りづらくなると思うが、どのように均衡を保つのか。
(立千民)
農村部の人口が減少することによって、議員定数の削減は公職選挙法上、行わなければならないことである。国も10増10減と議論があった中で、衆議院では一票の較差2倍は違憲と判決されたこともあり、民主主義の国である以上、その結果を尊重すべきと考える。我が会派案も農村部に関してできるだけ倍率が少なくならないよう配慮した。
(公明党)
一票の較差を追及すると必ずその課題が生じるが、一票の較差はある程度、是正しなければならない。地域の声をどう聴くかが重要であるが、各市町村にも議員がいるため、県議会議員は各自の選挙区はもちろんだが、千葉全体を見る気持ちで取り組んでいく必要があると考える。
(共産党)
千葉県における農村部が果たしている役割は大変重要と認識している。定数は減らさず、県全体で連携を取りながら均衡を保てればと考える。その上で、一票の較差の問題、1人区をできるだけ無くすよう提案した。

 千葉県の自民党案の考え方の根底にあるのは「地域代表」の考え方であり、「地方の農産物、労働力、観光面と幅広い要望を聞き取ること」であった。

拡大自民党本部=2022年10月4日、東京都千代田区、朝日新聞社ヘリから

筆者の提案

 以上、都道府県議会の選挙区構成について、3回にわたって論じてきた。そのうえで、選挙区設置について二つ提案したい。

学識経験者も入れた審議会等の設置

 第一に、都道府県議会選挙についても、学識経験者を入れた審議会等の設置を法定化する必要がある。

 選挙制度や区割りを扱う際、国政選挙と都道府県議会選挙で大きく異なるのは、審議会等設置の有無である。国政選挙の場合、選挙制度審議会(選挙制度審議会設置法(昭36法119))、衆議院議員選挙区画定審議会(衆議院議員選挙区画定審議会設置法(平6法3))がある。参議院については、参議院改革協議会(1977年11月に設置)があり(参議院HP「参議院改革協議会」)、選挙制度の在り方について専門委員会を設置して集中的に議論する取組みも行われる(「参議院改革協議会 選挙制度の在り方で専門委設置 集中的に議論」NHK NEWS WEB、2022年12月16日2023年2月8日閲覧)。

 他方、都道府県議会選挙については、千葉県の場合、法令等に基づいて設置される各種審議会から抜け落ちている(千葉県HP「審議会等」令和4(2022)年12月20日2023年2月8日閲覧)。千葉県議会議員定数等検討委員会は、委員全員が県議であった。専門家を交えた公聴会も開かれていない。

デジタル化で住民の議会監視の環境改善を

 第二に、デジタル化による住民の議会監視の環境改善を提案したい。

 都道府県議会デジタル化専門委員会「都道府県議会デジタル化専門委員会 報告書」(令和3年6月25日)によると、「会議録、議案、報告書、議事日程、請願等は多くの議会で、既にオープンデータとして提供されているが、修正案や答弁書等は、提供している議会が少ない」という現状がある(同報告書、p.11)。提供されているオープンデータの種類(議会数)を確認すると、会議録(47議会)、議員提出議案(34)、委員会の報告書(34)、議事日程(32)、請願(30)、公報(会議日程がわかるもの)(26)、執行部提出議案(予算、決算除く)(25)、予算、決算(20)、修正案(15)、例規集(15)、関係法規(12)、質問主意書、答弁書(9)、議員作成資料(1)、先例集(0)であり、改善の余地が相当ある(同上)。

 この報告書では、「海外の議会では、審議途中におけるプロセスが公開されているが、我が国の議会はホームページに決定済みの情報しか掲載されていない。将来の検証可能性を残すための情報公開のあり方について、検討する必要がある」と主張している(同上、p.26)。

 たしかに、紙媒体の時代と比較すると、アクセス環境は向上している。しかし、筆者が千葉県議会の同条例を調べるだけでも、かなりの時間を要した。ましてや、背景知識や専門知識のない一般住民にとってはハードルはより高く、利便性に課題がある。


筆者

岡野裕元

岡野裕元(おかの・ひろもと) 一般財団法人行政管理研究センター研究員

1989年千葉県佐倉市出身。学習院大学法学部卒業。学習院大学大学院政治学研究科政治学専攻博士後期課程修了、博士(政治学)。現在、一般財団法人行政管理研究センター研究員のほか、報道番組の司会者の政治アドバイザーも務める。元青山学院大学文学部・学習院大学法学部非常勤講師。専門は、地方政治、政治学。著書に、『都道府県議会選挙の研究』(成文堂)、『官邸主導と自民党政治――小泉政権の史的検証』(共著、吉田書店)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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