人口の「縮小」と「偏り」が都道府県議選に与える影響とは~2045年に政党は…
「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【21】
岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員
島部に限定した適用から拡大
そもそも特例選挙区は、昭和37(1962)年に島部に限定して導入された規定であった(昭37法112・一部改正)。
(都道府県の議会の議員の選挙区の特例)
第271条② 昭和三十七年一月一日現在 において一又は二以上の島の全部の区域をもつてその区域とする都道府県の議会の議員の選挙区については、当該区域の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員の定数をもつて除して得た数の半数に達しなくなつた場合においても、当分の間、第十五条第二項の規定にかかわらず、条例で当該区域をもつて一選挙区を設けることができる。
しかし、その後の改正により、島部の限定要件を除外して昭和41年(1966年)1月1日時点で設けられている選挙区にまで適用が拡大されるようになった(岡野裕元『都道府県議会選挙の研究』成文堂、2022年、p.128)。
適用が拡大されることになった国会審議の詳細については、拙著を参照していただきたい。当時の野党第1党の社会党は、①衆議院と都道府県議会の選挙を結び付けたゲリマンダーの可能性、②条例による特例選挙区設定の是非、③旧法との断絶、の三つを論点に、衆議院の公職選挙法改正に関する調査特別委員会で厳しく追及している。
対して政府側は、長野士郎・自治省選挙局長が、人口の急激な移動に伴う選挙区維持の対処方法として、行政の補完性の原則の考え方を用いて答弁している。分かりやすく言えば、「急激な人口変動に伴い、相対的に人口規模が小さい市町村が発生」→「県行政によって市町村を補完する必要性が増す」→「当該地域から代表者を選出し、有権者の声を反映させる特例選挙区を設ける必要がある」といったところである。

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政治要因によって左右も
個別具体的な特例選挙区の設定は、昭和37年当初から各都道府県が条例で定めることになっていた。政党間の駆け引きが展開され、政治要因によっても左右された。岐阜県議会史編さん委員会[編]『岐阜県議会史 第6巻』(岐阜県議会、1999年、p.221)には、次の記述がある。
武儀郡選挙区は、議員一人当たりの人口の平均の半分を割っており、選挙区の合区が議論された。しかし、その見返りの増員対象区をどこにするかをめぐって、自社両党の折り合いがつかず、結局、公職選挙法の特例を適用して武儀郡選挙区を残した。
また、自民党優位の55年体制が国政・地方で次第に揺るぎないものとなり、選挙区も固定化していくと、選挙区定数をめぐる議論が具体化されにくくなっていった。岐阜県の次の記述がある(同上)。
[昭和]五八年の地方選挙の県内一人区において、自民党は一人区全区を制し、定数五〇のうち三七議席を占めた。そのため、選挙区の定数是正問題は、議会でも、さまざまな形で議論されたが、政党の浮沈にかかわる問題でもあり、なかなか具体化されなかった。
特例選挙区の適用状況
表1は、1979年4月期~2019年3月期(9~18ターム)において、特例選挙区を適用した議会と選挙区の数である。
この表を見ると、1979年4月~1983年3月期(9ターム)に5議会・8選挙区であったが、1987年4月~1995年3月期(11・12ターム)では最高の13議会・22選挙区に達した。その後、特例選挙区は、平成の大合併によって従来の選挙区を維持できなくなったところもあり、減少した。
リンク先の表2は、特例選挙区の一覧と当選党派である。選出議員の党派は、そのほとんどが自民党または無所属である。9~18ターム間で頻出する選挙区は、10回(東京都島部)、9回(兵庫県佐用郡)、7回(千葉県海上郡、千葉県匝瑳郡、奈良県山辺郡)、6回(千葉県勝浦市、東京都千代田区、愛知県北設楽郡、愛知県南設楽郡、大分県西国東郡)であった。
2045年の自治体別人口の予測指数
特例選挙区は、人口の拡大と偏りの時代に、1票の格差との兼ね合いで顕在化した問題であった。今日、特例選挙区による1人区化の影響は、かなり限定的である。
次に、1人区化の第五の要因である県内基礎自治体間での人口の極端な偏りについて議論を進めたい。
その前に、今後の日本の人口推移について、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」(平成30(2018)年3月30日)の自治体別の人口変動予測を確認する。リンク先の表3は、2015年の総人口を100としたときの総人口の指数を用いて、2045年の予測指数を示したものである。
まず、都道府県別に確認する。かろうじて東京都(2045年の指数:100.7)が人口水準を保つのみである。首都3県の神奈川県(91.1)、埼玉県(89.8)、千葉県(87.8)においても、人口減少を免れない。指数を10刻みにした最頻値を確認すると、70台に位置する都道府県が26も該当する。
次に、基礎自治体別である。都道府県議会選挙の場合、都道府県ごとに選挙を実施しており、選挙区定数の変動が顕著になると予想される。2045年の指数の最頻値を確認すると、東京都特別区(指数:100台、該当自治体数:10個)、政令市(80台、10個)、中核市(80台、25個)、施行時特例市(80台、8個)、それ以外の市(60台、166個)、町村(50台、232個)である。それ以外の市、町村を中心に人口がより減少するため、県内基礎自治体間での人口の極端な偏りがより顕在化すると考えられる。
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