「支持政党なし」が多いのは、党内民主主義をおろそかにした政党ばかりだからだ
人口減少と成熟経済を前提に、有権者とのフィードバックで国家像を固めよ
田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授
主要政党で従来と異なる問題が起きている
最近、主要政党をめぐって、これまでの「政界の常識」とは異なる問題・状況が起きている。正確に言えば、これまでも起きていたと思われるが、政党内部にとどまらず、社会的に知られ、問題視されるようになっている。
国会で圧倒的多数の議席を有する自民党は、低支持率と強くない党内基盤を共存させつつ政権を安定的に維持するという、従来では見られない状況になっている。「朝日新聞」の世論調査によると、岸田政権は、2022年9月から不支持率が支持率を上回るようになり、同年12月の調査では支持率31%に対し、不支持率57%となった。
一方、岸田首相の岸田派(宏池会)は、党内派閥で安倍派、茂木派、麻生派に次ぐ第4位と言われており、強い党内基盤を有しているわけでない。安倍晋三元首相のように、強力なリーダーシップを発揮しているようにも見えない(例えば「朝日新聞」は「岸田首相は何がしたい」との特集記事を組んでいる)。統一地方選を控え、衆議院の任期も折り返しの2年が近づくなか、従来であれば「これでは選挙を戦えない」と、首相・総裁を引きずり降ろす動きが党内から発生しても不思議ではない。
野党第一党の立憲民主党では、複数のハラスメント問題が発生し、党の基本理念に反する行為として問題になっている。例えば、同党神奈川県連合会は、所属する自治体議員らが他の議員からハラスメントを受けていたとして、ハラスメントを行っていた議員を処分した。処分された議員は「女性だとかジェンダーだとか、ほざいている連中」と、他の議員を中傷していたという。
他にも、神奈川県や三重県などの地方組織において、自治体議員や候補予定者などからハラスメントが申し立てられたと報じられている。これまでならば、こうした問題は外部に知られずに内部処理されたと思われるが、同時多発的に党外へ広がる問題に発展している。
国会に議席を有する中では、もっとも古い日本共産党においても、党の政策と運営の見直しを求めた古参党員が除名させられ、社会を巻き込んだ議論となっている。同党の政策委員会安保外交部長などを務めた松竹伸幸氏は『論座』に「私、共産党の党首選に出ます!~「自衛隊活用論」を唱えてきたヒラ党員の覚悟」などを寄稿するなどした結果、党規約に反して「党を攻撃した」として2月7日に除名された。
一方、これについて「朝日新聞」が社説で「共産党員の除名 国民遠ざける異論封じ」と論じたところ、同党は「「結社の自由」に対する乱暴な攻撃」と強硬に反発した。同党の異なる意見に対する不寛容な姿勢は、同党のこれまでの民主主義や社会の自由の擁護の姿勢を疑わせるものとなっている。

松竹伸幸さん
また、れいわ新選組とNHK党は、参議院の比例名簿における当選順位について、名簿繰り上りに際して、次点候補者の任期を制限したり、名簿からの削除をしたりしようとしている。これまでも、次点候補者が本人の意思で当選を辞退したことによって、その以下の候補者が当選したことはあったが、党からの求めによって、任期を限ったり、当選を辞退したりすることは、寡聞にして知らない。それならば、なぜ当該政党は次点候補者を公認(名簿掲載)したのだろうか。政党の名簿に基づいて選挙を行う比例制度を根幹から揺るがす問題である。
他にも、公明党は女性に関する問題を所属議員が起こしながらも、政党組織としては大きな動揺が見られず、国民民主党は電力総連などの労働組合を主たる基盤としつつも、代表の個人政党のように見えると、これまでの「政界の常識」が通用しなくなっている。特に、公明党においては、議員による女性問題が起きるたびに、女性支持者を中心とした強烈な反発が起きていたが、最近の問題ではそのように見えない。
議会制民主主義にYesでも、政党システムにNo?
ところで、政治学においては、議会制民主主義と政党システムを一体不可分の関係としている。健全な議会制民主主義、すなわち権威主義体制における見せかけの議会でなければ、有権者の自由意思に基づいて結成された複数の政党が、公正かつ透明なルールに基づいて選挙され、議会に議席を得る。そして、議会の多数派が一定期間、議会運営の主導権を握り、法案や予算案などに影響を与え、成立させる。議院内閣制であっても、大統領制であっても、この仕組みに大差はない。
つまり、政党が存在しなければ、民意を国政に反映させられず、議会制民主主義は形骸化する。顔の見える人間関係で構成される小規模な自治体では、すべての議員が議案ごとに賛否の集団を形成することは考えられる。地域の方向性をめぐる基本的な考え方の違いよりも、それぞれの人間関係が優先されるからだ。
しかし、相互に見知らぬ人を多数含む社会においては、社会として何らかの決定を恒常的に行う際、考え方や利害関係を通じて複数の集団が形成される。多くの場合、小規模な自治体議会においても、民意を反映させるため、政党に相当する集団(会派)が形成される。
それにもかかわらず、政党への評判は芳しくない。「言論NPO」が海外の団体と協力して2021年に代表制民主主義を採用している55か国で行った世論調査によると、「国内には、あなたの意見を代弁する政党があると思いますか?」との問いに対し、55か国平均で「ある、多数の政党が自分の意見を代弁している」が30%、「ある、一つの政党が自分の意見を代弁している」が30%と、6割の人々が政党を自らの意見の代弁者と見なしていた。
ところが、日本では「ある、多数の政党が自分の意見を代弁している」が13%、「ある、一つの政党が自分の意見を代弁している」が24%と、政党を自らの意見の代弁者と見なしている人は4割にも達しなかった。同団体によると、これは「G7の中でも突出した傾向」という。
だからといって、民主主義そのものを否定しているわけではない。同団体は「各国でそうした民主主義の社会に対しては根強い信頼が見られるものの、多くの国で民主主義制度を構成する様々な仕組みが、信頼を失い始めている」と総括している。
要するに、日本の社会では、民主主義の重要性について理解されているが、政党システムが十分に機能していないと考えられている。「議会制民主主義にYesでも、政党システムにNo」とでも呼ぶべき傾向である。
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