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構想力を欠いた“省庁再編”~行政改革はなぜ本筋を逸れたのか

「論座」終了にあたり日本政治の望ましき展開を妨げている事由を論ず【2】

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 「論座」が幕を閉じるにあたり、日本政治の望ましい展開を妨げている三つの事由を指摘し、自らの見解を明らかにしている。その初回「衆議院小選挙区制の徹底検証を!~日本の劣化を深めた制度要因」では、衆議院に導入された小選挙区制度の弊害について論じた。今回は2001(平成13)年の1月6日に実施された「中央省庁再編」を取り上げる。

拡大各省のビルが並ぶ霞が関=2018年10月19日

小選挙区導入と同じ歴史的愚挙

 行政改革の一環として実施された省庁再編は、小選挙区制導入と同様、歴史的な愚挙であったと私は考える。なにより、その時点で「誰も頼んでいない」押しつけの改革であり、行政改革の本筋を逸(そ)らすものに他ならない。

 この改革は、当初から“理念なき改革”と批判されたが、その改革理由は今もって判然としない。それまであった22省庁を統廃合して、1府12省庁へとほぼ半減させたものだが、納得できる理由が示されたとは言い難い。あえて言えば、「行政改革のポーズ」が必要だったからであろう。

 当時、ある人は「縦割り行政の弊害是正」と言い、ある人は「大臣の数を減らして、経費を削減する狙いがある」と言った。

 縦割り行政が問題を抱えているのは間違いない。しかし、その一方で利点もある。省庁が暗闇で利害や政策の調整ができないから、省庁同士の主張の違いが可視的になり、メディア、ひいては国民に政策や行政の実態が分かりやすくなる。

 大臣の数を減らしてうんぬんという議論は、こじつけも甚だしい。経費を減らしたいのなら、たとえば大臣給与を半分にするとか、政党助成金を無駄に使わせないようにするとかすればすむ話だ。他国でも例があるように、大臣に複数の官庁を兼任させてもいい。

中身の改革ではなく器の改革

 そもそも、こうした説得力のない改革理由ばかりしか出てこないところに、構想力を欠いたこの改革の問題の核心が見え隠れしている。

 1998年6月9日、橋本龍太郎内閣のもと、22省庁を1府12省庁に改める中央省庁等改革基本法が成立したのを受け、朝日新聞は元通産官僚で作家の堺屋太一氏、私など4人による座談会を掲載した。私は「中身の改革でなくて器の改革に終わっている」として、この案に批判的な立場を強調したが、堺屋氏はほぼこの案に同調、賛成した。

 私は、不必要な省庁の統合が、行政の透明性を減じることを恐れた。小さな家は夫婦げんかの声も外に聞こえてしまうが、家の中で何が起きているかは周りに分かる。大きな家では、仮に大変なことが起きていても、中の様子が近所の人に分からないものだ。


筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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