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「原子力ルネサンス」は本当にあるのか?/先進国での新規建設は難航

竹内敬二

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 地球温暖化の時代に世界は原子力をどの程度選択するのだろうか。中国やインドでは大きく増えそうだが、欧州や米国では新規の建設がうまく進んでいない。米国ではブッシュ政権時代に強力な支援策が出されて「原子力ルネサンス」という言葉が生まれたが、今はもう聞かれない。日本は世界第3位の原発大国として順調に基数を伸ばしてきたが、最近は建設テンポが鈍り、原発輸出に期待をかけようとしている。「原子力ルネサンス」はあるのか?そして日本にとって有望な原発輸出市場はあるのか?

拡大トラブル続きのフィンランド・オルキルオト3号機。

 フィンランドの電力会社TVOのオルキルオト原発3号機(160万キロワット)は、欧州の新しい原発建設の象徴とされてきた。フランスのアレバ社が建設を請け負い、仏が中心になって開発した欧州加圧水型炉(EPR)を建設している。EPR1号機だ。

 しかし、05年に始まった工事は遅れに遅れ、09年5月に完成する予定が3年半の遅れになっている。

 最近の朝日新聞の記事では、アレバ側の公表数字でも建設費は当初の30億ユーロから、ほぼ同額の27億ユーロの追加が必要になっている。「もっと高い、もっと遅れる」ともいわれ、TVOが追加費用の支払いを拒否する事態になっている。一昨年には、このトラブルが原因で独のシーメンスがアレバとの提携を止め、アレバは一時経営危機に陥った。

 EPR2号機は、フランスのフラマンビル原発でも建設中だ。ここでも工事が遅れ、建設費は当局発表で33億ユーロから50億ユーロに跳ね上がっている。仏企業による仏国内の建設でもうまくいかないことに関係者は驚いている。

 一般的な傾向としては、温暖化時代になって原発は見直されている。かつて欧州の脱原発国といえばスウェーデンだった。1980年代から「2010年に原発全廃」の方針をもっていたが、12基のうち2基を廃棄した段階で、この方針は凍結状態だ。ドイツでは政権交代がきっかけになって、「廃棄までの運転期間を延ばす」議論がでている。

拡大原子力エネルギー機関(NEA)の将来予測。上が高シナリオ、下が低シナリオ。これほど差がある。

 英国の原発の主流はガス炉で、加圧水型炉(PWR)は1基しかない。ガス炉は寿命が短く、約40基建設されたうちの約半分がすでに閉鎖された。このままでは20年代初頭にはPWR1基が残るだけになる。ブレア政権時代は新しい原発を建設する方針を打ち出したが、まだ具体的な動きにはなっていない。

 イタリアは1986年のチェルノブイリ原発事故後に「稼働中の原発停止と新規建設の中止」を決めた。慢性的な電力不足を解消するため4基のEPR建設を計画している。

拡大日本エネルギー経済研究所の予測ケース(IEEJ-ref、実線2本のうちの下側)による2030年までの新規建設を各国別の棒グラフで示した。上位6カ国で85%を占める。

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 米国では1979年のスリーマイル島原発事故後、原発建設が途絶えている。ブッシュ政権が債務保証など支援策を打ち出したことから「原発ルネサンス」といわれるブームがおきた。

 計画数は約30基まで伸びたが、最近、計画の見直し、遅延が続いている。最大の理由は、シェールガスなどの「非在来天然ガス」の生産が増えたことだ。天然ガスの価格が下がり、今後新設される発電所の多くが天然ガス、風力発電になるだろうといわれている。

 米国エネルギー省(DOE)は昨年、「エネルギー概観2010」という報告書を発表した。温暖化対策があまり進まない前提では2035年の米国の原子力設備量は現在の1・06億キロワットから1200万キロワットほど増加するだけ。増加のうち400万キロワットは既存原発の出力増加なので新規建設は800万キロワットにとどまるとした。原発数基分でしかない。

 エクソンモービル社も予測を発表した。「温暖化政策がある程度進みCO2排出1トンあたり30ドルのコストがつく」という原発に有利な前提で、「原発は約2500万キロワット増えて1・3億キロワットになる」と予測した。これでもルネサンスというほどではなく、風力発電(1・6億キロワット)より少なくなるとしている。

拡大世界の発電所新設コスト。韓国、中国、ロシアなどでは原子力は安いが米国(Vogtle, STP)など先進国では陸上風力などより高い。(日本エネルギー経済研究所による)

 米国では新規原発の建設コスト高騰が予想され、キロワットあたりで陸上風力などの方が安くなるとみられる。発電コストでいえば、DOE報告書は20年の時点の新設発電所の場合、1キロワット時あたり、天然ガス火力8セント、風力9・5セント、原子力11セントほどになるとしている。一方で既存原発のランニングコストはどんどん安くなり、どこの国でも「新しい原発は造りにくいが、既存原発はできるだけ長く使おう」という流れにある。米国は従来40年運転を考えていたが、現在は60年への延長許可を出しつつあり、さらに80年間の超長期の運転を考えている。

 日本の「エネルギー基本計画」では、2020年までに原発9基増設、30年までに14基建設を計画している。日本は先進国の中ではまだ増える国ではあるが、この数字は過大だろう。

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 温暖化防止の時代になって、CO2をださない原発を見直す機運はあるが、先進国では新規建設の壁は高い。欧州はやはり、チェルノブイリ原発事故以降の反原発感情が大きく、米国では建設コストの高騰と、建設期間の長期化が嫌われている。

 現在、世界で約430基の原発が運転されているが、完全に横ばいの状況にある。原子力ルネサンスは途上国市場では生まれるかも知れないが、先進国では全く不透明だ。

 世界の原発市場の動向は、日本の原子力メーカーの浮沈のカギを握る。日本は新成長戦略で原発輸出を柱にすえ、三菱重工、日立、東芝の3メーカーに、東電などの電力会社が輸出促進会社をつくり、官民一体となって国際市場に打ってでている。

 ただ、中国、インドは伸びは大きいが、中国は海外からの導入と国産化の2本立てで進む方針であり、インドへの輸出にはまず政府間の協定整備が必要だ。ベトナムの原発受注競争には勝ったが、東南アジアの市場は小さい。最も安心して仕事ができる市場はなんと言っても米国だが、先行きは明るくない。米国市場が伸びないと苦戦することになる。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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