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自然エネルギーの停滞は電力制度に問題がある

竹内敬二

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

日本の再生可能(自然)エネルギーの現状と議論はかなり世界とかけ離れている。まず導入量が少なく停滞していること。もう一つは、世界で主流になっている風力発電が異様に少ないことだ。(世界風力エネルギー協会=WWEAの表1参照)。日本の自然エネルギー政策は「太陽光発電以外は別に増えなくてもいい」ともいえる内容だ。なぜなのか。スペインの送電会社「REE」のサイトをのぞけば、自然エネルギー先進国のあっと驚く実情と日本の特殊さがわかる。
写真1.スペイン・ジブラルタル海峡近くの風車群。関口聡撮影

 まずは日本の現状。再生可能(自然)エネルギーには太陽光、風力、バイオマス、小型水力などがあるが、日本では風力発電も太陽光発電も0・3%程度。合計でも電力の1%ほどしか発電していない。先進国の中では圧倒的に少ない。大型水力は8%ほどで、これを含めれば9%ほどだ。

 一方、欧州連合(EU)は、水力を含む自然エネルギーを「 2010年までに電力の21%以上にする」として増やしてきた。今後の目標は「20年に1次エネルギーの20%」だが、EUは昨年、「達成する見込み」と発表した。

 EUではドイツが有名だが、スペインにも注目したい。スペインでは発電会社と送電会社が分離されている。送電会社はレッド・エレクトリカ(REE)と呼ばれ、マドリード郊外に自然エネルギー制御センター(CECRE)をもつ。CECREは天気予報などで前日から全国の風力や太陽光発電を予測し、直前1時間前にも調整し、全国への送電を制御している。

表1.2010年7月段階の各国の風力発電の導入量。日本は09年末で2060メガワット、13位。

 そのデータは原発や火力など通常の発電所の送電を制御している全体の制御センターに送られる。その二つの制御センターは同じ部屋にある。つまり、スペインでは自然エネルギーを含めた発電と送電網の管理が一カ所で行われている。(写真2)

写真2.スペイン全土の送電網を制御する部屋。左の机が自然エネルギーを扱うCECRE、右の机で電力全体を扱う。竹内敬二撮影

 私がセンターを訪れたのは2009年11月。REEの広報担当者は「11月8日、全国の電気に占める風力の占有率が一時、53%になった。もっと高い率になっても問題なく送電できる」と話していた。風が強すぎたり、発電の偏在が過ぎたりして送電に支障が生じそうになれば、その場所の風力発電を止めることもできるが、「まだそれをしたことはない」との話だった。

 スペインでは毎日どの程度の自然エネルギーが利用されているかが、インターネットで簡単に分かる。

 REEのサイトhttp://www.ree.es/に入り、英語表記を選び、「power demand」という右上の発電グラフをクリックすれば、その日その時間の発電状態がわかる。

 大きく波打つグラフは需要予測と、それに合わせた発電を示す。右側の円グラフは電源種類。この文章を書いている1月21日13時10分(スペイン時間)時点では、風力は全国需要の29・6%、1100万キロワット(原発11基分)を発電している。かなり多い。風が強い日なのだろう。さらに円グラフの風力をクリックすれば右下に風力発電の推移グラフがでる。国全体でみれば風力発電は安定した強さで推移している。(図1)

図1.スペインの発電状況をリアルタイムで示している。REE

 左下のカレンダーをクリックすれば過去のデータも出てくる。また、「プレスリリース」から2010年12月30日の発表文をみれば2010年の電源別発電が出ている。コンバインドサイクル23%、原子力22%、風力16%(日本は0・3%ほど)、水力16%と続き、太陽光発電でも2%になっている。(図2)。水力もあわせ「自然エネルギー発電は35%」としている。ここまで進んでいる。

 スペインでは原子力と風力を「ベース電源」として扱っている。需要の変動にあわせて供給側を制御する必要があるが、それはコンバインドサイクルで行っている。既存の電力会社も自然エネルギーに進出して成長し、ガメサなど世界有数の風車会社も育っている。

図2。2010年の発電の内訳.REE

 ただ、政策の失敗もある。04年、太陽光による電気を高く買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を始めたところ、巨大なメガソーラー発電所が急激に増える太陽光バブルが起きた。買い取り価格が高すぎたことが原因だった。08年だけで270万キロワットという現在の日本の全量にあたる太陽光発電所が建設された。政府はあわてて買い取り価格を大きくダウンさせるなどの制御政策をとり、09年の新規建設が7万キロワットに激減する混乱が起きた。

   ◆

 スペインを見ると、日本で自然エネルギーが増えない電力制度の違いが浮かんでくる。制度はそれぞれの国の歴史を担うとはいえ、日本の制度はかなり特殊だ。

 1【分割された送電網では地域偏在の電気を運べない】スペインの風力発電の大半は風の強い北西部のガリシア地方に集中している。この電気を効率よく中部のマドリードなど大都市に送るように、送電線をつくり、運用している。どこの国でも風が強く山が多い地域には人口は少ない。

 日本の風力資源も人口が少ない北海道、東北、九州など地方に偏在している。しかし、日本の送電網は9社(沖縄を入れると10社)の電力会社ごとに分割されており、隣の会社の送電網とは基本的に電気を融通しない「独立主義」なので柔軟性が低い。地方の風力の電気を東京や大阪に引っ張ってくる送電網や運用の仕組みもない。この仕組みのままでは、風力が大きく増えることはない。「北海道の風力を東京へ」という計画もあるが、まだ小さな試みだ。

 2【発電、送電が分離されていない】ほとんどの先進国では送電会社は発電会社から分離され(発送電分離)、さまざまな発電所が送電会社に電気を売り込む競争をしている。その中で自然エネルギーを優先的に送電線に送る「優先接続」制度がある。日本では電力会社が発電所と送電網の両方をもつ。明確な国の政策がなければ、変動する電源である他社の新規の自然エネルギーを多く受け入れる動機が薄い。

 3【優先接続、ビジネスが成り立つ価格が必要】自然エネルギーはそもそもコストが高いので、最初は増やす政策をとらないと増えないし、安くならない。今回、国会に提出される固定価格買い取り法案で、どの程度の買い取り値段になるかどうか、送電線への接続の容易さ(優先接続)が確保されるかがカギになる。

 4【理念が必要】EUは、自然エネルギーを増やす理由を「エネルギー自給率を上げ、ロシアのガスへの依存を低下させる」「温暖化対策」「地域の雇用創出」と位置づけている。日本でも「なぜコストを負担してまで増やすのか」についての社会的な合意が必要。

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