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孤族に陥りやすい技術者(2)-最先端技術者に待ち構える罠-

湯之上隆

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

 技術者の中でも最先端技術者は孤族に陥りやすい。その技術が最先端であればあるほど、孤族に陥る危険性は高い。そう考える理由を、半導体技術者を例にとって説明する。

 最先端半導体技術者の活動テリトリーは狭い。国際学会で活躍するごく僅かの研究者や技術者を除けば、開発センターや量産工場の多くの技術者は、自分の所属する事業所、自分の所属する部門、自分の所属するグループの閉じた世界で生涯のほとんどの時間を過ごす。

 社外の学会などに年に1~2回でも行ければましな方で、それも不況時には厳しく制限される。その結果、最先端半導体の“普通の”技術者が、外部に人脈を築くことは極めて難しい。

 量産工場に在籍していた際、定年退職を間近に控えた技術者がつぶやいていたことを思い出す。「湯之上君はいいなあ。ダイビングや水泳の仲間がたくさんいて。仕事一筋だった僕には趣味もないし、会社の外に出たら友人なんて一人もいないよ」と。

 半導体技術は、設計とプロセスに分けられるが、これらが細分化されている。設計技術は、アーキテクチャ設計、論理設計、回路設計、レイアウト設計と分割されている。プロセス技術には、成膜、リソグラフィ、ドライエッチング、CMP、イオン注入、洗浄、検査などがある。更にこれらを組み合わせて500~1000工程にも及ぶ製造フローを構築するインテグレーション技術がある。

 上記の細分化された技術が恐ろしい速度で最先端を突き進んでいる。それぞれの技術が極度に専門化し先鋭化している。その結果、リソグラフィ技術者は、一生、リソグラフィ技術者であり続ける。リソグラフィ以外の技術に鞍替えすることは、よほどの事情がない限りあり得ない。

 私は、16年半の間、ドライエッチング技術者だったのだが、もし、日立を辞めなかったら、おそらく今もドライエッチングをやり続けていただろう。また、それ以外の技術をやれと言われても適応することは困難だったと思う。

 このような最先端の半導体技術者が、会社から肩をたたかれたらどうなるか?自分の専門性とキャリアを生かして転職することは極めて難しいものになる。

 実際に、2001年の半導体不況の際、早期退職勧告を受けた私は、

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