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 私事ながら3月11日になったばかりの深夜、 私は羽田発の便で、家族とともにカリフォルニアに戻った。そのわずか半日後に、この度の大震災が起きた。 とても他人事とは思えない。

 

 本稿も緊急寄稿ということで、およそ論の体裁を成さないし、検証している余裕もない。また私見に過ぎない。が、米国でも軒並み大きな扱いを受けている報道を見ながら、緊急性の高い順にあえて提言してみたい。「もしまだなされていないなら、提案したい。」いずれもそういう趣旨だ。

 

 まず第一に、情報操作とパニックについて。政府や関係筋の発表を見ていて、気にかかる点がある。住民のパニック反応を恐れるあまり、被害や危険を過小に響くように、抑えすぎていないか。

 

 懸念はわかるが、中国紙や欧米各紙が賞賛をはじめたように、日本国民、特に避難民は、すでに驚くべき忍耐力と自制力を示している。それよりむしろ、政府発表は信用できないのではないか、本当はもっと危ないのではないか。そうした不安が、マスコミを介して広がることを恐れる。

 

 周辺での逼迫と相まって、こういう疑心暗鬼が蓄積することこそが、それこそ水素爆発のように、ささいなきっかけでパニックの導火線となるからだ。

 

 逆にマスコミは、(同じ理由で)いたずらに不安を煽る政府批判を止めなくてはならない。不幸にして今のところ、政府関係筋とマスコミは、それぞれ逆の役割を演じてしまっているかに見える。

 

 第二に政府首脳、災害対策首脳はすみやかに交替制をしき、休息をとって欲しい。災害地域の対策首脳も同じだ。当面、トップを含めて三チーム編成にしてはどうか。

 

 そしてマスコミは、これを批判するべきではない。過労が判断力を鈍らせるのは自明だ。そして今や重大な意思決定が、間断なしに要求されている。

 

 第三に、対策を緊急度に応じ、おおよそ三段階に分けてはどうか。最緊急は言うまでもなく、救命。これは誰もが指摘するように、一両日が勝負になろう。第二段階は被災民、避難民のライフライン。水、食料や暖、これは2、3日から一週間がヤマとなる。それ以降が、救済と復興の段階となろう。この段階で、心理ケアが重要性を増してくる。

 

 これに合わせ、稼働可能な意思決定/遂行の戦力を三つに分け、時間順に、前者から次第に後者に移すやり方で投入する。これが最適戦略と考える。

 

 第四に今も述べた、心理ケアの問題。遠からず専門の心理職が、各地に派遣されよう。

 言わずもがなだが、普段慣れている環境、普段慣れている食事、普段慣れている顔ぶれ、そして普段慣れている娯楽が、ストレスに対応する有効な手段となる。そしてこれこそが、阪神神戸震災などで鍛えられたボランティアたちの出番となろう。

 

 最後に、緊急とは言えないが一点。「想定外」という語が、公式に乱用されている。これは欺瞞に満ちている。

 「想定外」という想定が、実は「想定」の時点でなされている。つまり「想定外という想定は、敢えてしない」という想定が。

 

 なにも言葉遊びをしている訳ではない。「想定外」の状況になったとき、意思決定権はどの順で、誰に帰するのか。対策遂行の体系は、「想定外」の度合いの応じて、どうするのか。

 

 つまり「想定外」に対してすら、そのおぞましい想定に目を背けず、段階的にシミュレーションがなされなくてはならない。

 

 これこそは、この度の大震災が全国民に課した宿題と言えるのではないか。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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