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オピニオン3・11――東日本大震災を考える(2)【無料】

朝日新聞3月16日付オピニオン面(住田健二さん、前川和彦さん)

◆すべてが後手後手に回る

住田健二さん(大阪大学名誉教授)

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 長年、原子力の研究・開発に携わってきた人間として、今回の福島第一原子力発電所の事故には、何よりも国民の皆様に申し訳ないとの思いを抑えきれない。

 大地震が起きた時、原子炉は「止める・冷やす・閉じこめる」の三つが大原則だ。第一段階で制御棒を入れ、核反応を止めたことでは成功したといえる。ただ、制御棒はしっかり入っているのか。計器上ではそうなっていても、別の方法でダブルチェックすべきなのだが、その情報がない。核反応がきちんと止まっているかどうかは一番重要なことなのに、制御棒位置についての発表が何もないことが気になる。

 海水を注入して原子炉を冷却するという前例のない方法に、廃炉覚悟で踏み切ったことは、設置者の判断としては正しい。だが、判断のタイミングはいかにも遅かった。すべてが後手後手に回っている。発表はさらに遅れていた。

 2号機の燃料棒が、核反応停止から2日経った後とはいえ、数時間も完全に露出したのは、絶対にあってはならないことだ。設置者の危機管理能力の欠如が露呈した。

 弁を開いて、多少の放射性物質を含む蒸気を放出したことは、容器が完全に壊れてしまうことを防ぐためにはやむをえない。問題は、放射性物質を閉じ込める圧力容器と格納容器がどうなっているかだ。周囲の放射線量だけでは判断できないとはいえ、明らかに閉じこめ機能が瞬間的には危うくなっているといえる。2号機の圧力抑制室が損傷した可能性があるという発表があったが、おそらくそこから漏れているのではないか。容器が壊れ、内部の物質が大量に出てくるところまではいっていないようだが、非常に深刻な状況だ。

 私は、1999年に茨城県東海村で起きた核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故の際に、原子力安全委員会の委員長代理として、現場で臨界を止める作業にあたった。その時と比較して、唯一評価できるのは官邸の対応だ。首相や官房長官が積極的に前に出ているのは評価したい。

 一方、原発を監督する立場にある原子力安全・保安院は、十分に機能していないようにみえる。私は、原子力を規制する保安院が、推進する立場の経済産業省の傘下にあることが問題だとかねて主張してきた。その弊害が、今回も出てしまったように思えてならない。

 JCO事故の時は、多くの研究機関がデータ収集で協力してくれ、各電力会社も放射能を測定するモニタリングカーを派遣してくれた。原子力関係者が総力をあげて助言やバックアップしてくれたおかげで、危機を乗り切ることができた。

 今回は、東京電力と保安院がすべて抱え込んでしまっているために、残念ながらそうしたバックアップがほとんど活用されていないようにみえる。原子力安全委員会などの協力も得て対処すべきだったのに、自分たちだけでやろうとした。そのやり方が適切だったのか。東電の危機管理体制の弱体ぶりと同時に、日本の原子力安全行政の制度的欠陥という、一番心配していたことが露呈してしまった。(聞き手・尾沢智史)

     ◇

 すみた・けんじ 30年生まれ。専門は原子力工学、放射線計測。原子力安全委員会委員長代理などを歴任した。

◆首都圏から避難、必要ない

前川和彦さん(東京大学名誉教授)

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 福島第一原発の事故が深刻な状況になっているのは事実ですが、少なくとも現時点では、多数の住民の健康被害につながるような状況ではないと考えます。

 総量で100ミリシーベルト以上の放射線を浴びると、発がんの可能性が高まるなど将来的な健康被害が出るとされています。さらに、150ミリシーベルト程度で、男性の生殖能力の一時的な不全など急性の身体症状が起こり始めます。

 3号機付近では1時間あたり400ミリシーベルトの線量を記録しましたが、あくまでも原発敷地内の観測値ですし、「1時間その場に居続けた場合、400ミリシーベルトの放射線を浴びる」という意味です。現場の作業員でもそんな危険な場所に長時間いることはありません。

 作業員は、一般の住民に比べればはるかにリスクの高い環境で作業していますが、個人線量計を身につけ、被曝線量の限度を決めて作業時間を限り、交代しながら作業をしています。爆発で負傷した作業員のように不測の事態が生じた時は別ですが、一般的にはリスク管理はできているはずです。

 被曝というと、1999年に茨城県東海村のJCOで起きた臨界事故のことを思い出す人もいるかもしれません。私はあの事故で被曝・死亡した大内久さんの治療にあたりましたが、大内さんはウランが臨界反応を起こしたその場にいて、16~20グレイという大量の放射線を浴びました。3号機付近に1時間いて浴びる放射線量の40倍以上を一瞬で浴びてしまったのです。

 今回の事故は放射線が外部に漏れてはいますが、格納容器が爆発したわけではない。東海村の臨界事故以降、原発周辺にある医療機関の被曝医療の体制も整いつつあります。

 それに、400ミリシーベルトというのはあくまでも原発の敷地内での話であり、距離が離れるにつれて放射線の濃度は薄まります。今回のような事態で原発の健康被害を防ぐ最良の方法は避難することです。

 すでに20キロ圏外に避難している住民には、将来の発がんを含めて今回の放射線による健康被害が出る可能性はありません。半径20~30キロ圏内の住民は屋内退避ですが、現代の家屋は密閉性が高く、屋内退避でも十分に被曝を防ぐことができます。国や自治体の指示通り、不用意な外出を避けてください。 現時点では半径30キロ圏外の住民に健康上の問題が生じる可能性は低いと思われます。今回、東海村で一時、1時間あたり5マイクロシーベルトと自然量の100倍の放射線量を記録しましたが、たとえ1時間その量の放射線を浴び続けても、健康被害が出るとされる100ミリシーベルトと比べれば、2万分の1の線量です。

 「放射線を避けるため」としてすでに首都圏から離れる人が出始めているそうですが、不要だと思います。放射線の影響を受けやすいと言われる子どもを含め、避難の必要はまったくありません。食料や水を買い占める動きと同じで、社会不安をあおるだけです。冷静に、出来る限りふだんと同じ生活を送るのが最善だと思います。(聞き手・太田啓之)

     ◇

 まえかわ・かずひこ 41年生まれ。92年、関東中央病院長。98年、放射線医学総合研究所の被ばく医療ネットワーク委員長。

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