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 今回の大地震が日本に及ぼす影響は、いまだ予測不可能な状況を呈している。テレビ、ラジオ、新聞、インターネットなどを通じてさまざまな情報が流れているが、それらに対して意見を書いてみたい。時間的な問題もあり、舌足らずな表現となっている部分はあらかじめご容赦いただきたい。要は「批判より提案を」である。

 

1)原発に対する対応はまさに時間との戦いである。政府や東京電力の対応にある程度の問題があることは事実であるが、今はそれを批判することよりも、次にどうすべきかを一丸となって考え、協力して進めることが本質である。この時期にいたっても、批判や怒りをぶつけるだけしかできない記者やコメンテーターが少なからず見受けられる。それらは現状が完全に落ち着いてから好きなだけやればよい。

 計画停電の情報の周知についても混乱があるのは事実であるが、自分が担当者であったとして本当にうまくこなすことができるであろうか。なにせ、誰も経験したことのない非常事態なのである。今は、担当の方々をサポートし、建設的な提案をし、早くベストな方法が確立するように協力すべきた。でなければ邪魔しないように黙っていたほうがよい。実際に停電となった地区の方々は、直接被災された方々のことを思い、少しでも苦労を共有しようとしている。大声で批判をしている方など未だ聞いたことがない。

 

2)すでに、下條信輔さんが書かれた素晴らしい提案の通り、命を張って対策を講じていらっしゃる責任者の方々には、ぜひとも十分な休養をとることを忘れないでほしい。この非常時に司令官が倒れてしまっては取り返しがつかない。首相は何をやっている、官房長官はどうした、と安易に批判をする人がいるが、現時点ではそのような批判から得るものはない。彼らに長期的に合理的判断をしてもらうためにもぜひとも、党派を超えて有能な人材でチームをつくってほしい。この非常時に対応できる、有能な人材は限られている。

 

3)テレビやラジオさらには新聞も含めて、重複した取材・報道をする意味があるだろうか。インターネットでは、テレビの報道はNHK以外には民放一局のみで十分だという意見が多く、少なくとも放映されている内容を見る限り完全に同意する。とくに通常のワイドショー形式を維持したままの、地震について明らかな素人たちの意見のやりとりは無益どころか有害ですらあり得る。

 ただし、テレビがすべて地震報道のみでよいかというとそうでもなかろう。とくに子供たちにとって、悲惨な現状ばかり繰り返し見せられることによる精神的なストレスは無視できまい。少しでも子供たちに安らぎを与えられるような良質な子供向け番組を放送しつづけることには大きな意味があると思う。NHKと民放一局は報道、別の民放は子供向け、といった役割分担をする価値は高い。もしそれが個々の放送局の事情のために実行できないとするならば、少なくとも上記2のような「党派を超えて一丸となって危機管理を」といった意見を口にする資格はない。

 

4)新聞・テレビなどの報道について言えば、やや扇情的に過ぎる見出しやサブタイトルが目立つのではあるまいか。報道する側に立てば、事実を十分周知させたいという気持ちはよくわかる。ただし、事実であってもある特別な一面だけを強調すれば、それは本来の平均的な状況をゆがんで伝えてしまう危険性をはらむ。

 たとえば、都内のあるコンビニで、パンと米の棚が空になっているところを大々的に伝えたとする。これは、まぎれもない事実である。にもかかわらず、その横にある棚には別の食料品が十分な量あったり、少し離れた場所のスーパーではパンやカップラーメンも存在する、というのもまた事実である。何が平均的な事実であるかは難しい。にもかかわらず、前者は報道され、後者は報道されない。その結果、被災地とは遠く離れた人々までもが食料品を買いに走ることを助長する。その報道の際に「被災地以外の方は食料品を買い占める必要はありませんから安心してください」といった意見を付記したり、放送するのが常であるが、そもそもの報道自体を精査する必要がある。

 事実を歪め隠せと言っているのではない。個々はすべて事実であるにもかかわらず、そのとり上げ方によっては、より広い全体像としての事実が歪められてしまう危険性を憂いているのである。ましてや今のような状況下では、それが一部の異常な事態を深刻化させてしまうこともある。報道関係者の方であれば、このようなことは最初に十分教育を受けているはずだ。にもかかわらず、残念ながらそれが遵守されていないと思われる事例が少なくないため、あえて書かせていただいた。

 

 とにかく当面は、批判をする前に前向きな提案に努めよう。今回の1から4も批判と言われてしまうかもしれないが、少なくとも同時に提案をしたつもりである。残念ながら、われわれは、地震を含めた天災を防止するだけの力を持ち合わせていない。しかし、その被害を最小に食い止めるうえでもっとも有効なのは人々の協力である。個人ができることはわずかでも、それらがネットワークとして協調的に機能すれば、その効果は桁違いとなる。近所を歩いていると、互いに会釈したり話しかけたりといった交流が目立って増えてきたような印象を持つ。困難を乗り越える勇気を与えてくれるのは、相互の思いやりである。

 

 

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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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