メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

 日本の原子力発電は、「資源のない国」の有力な電源として、とくに石油危機後の日本のエネルギー利用の主要な柱となってきた。電力エネルギーとしての原子力の特徴は、原子炉のみならず、ウラン燃料の利用加工から、核燃料利用、使用済み核燃料の再処理、放射性廃棄物処理、などというシステム技術として存在している。さらに核燃料物質を安全に扱うための、補助システムとして、非常用電源やECCS(非常用炉心冷却装置)などが必要である。

 日本原子力発電の特徴は、54基の原子力発電所の多くが、都市から離れた海岸に多く立地するというパターンをとってきた。例えば、東京電力の原子力発電所は、東北電力のエリアである福島第1、第2発電所、柏崎刈羽に海岸集中立地している。大都市における立地困難を避けるために、電源3法による電力価格上乗せ分で、立地補助金が原発立地地点に支払われてきたが、立地地域もその補助金づけによる財政規模拡大による赤字に見舞われている。

 原発立地の前提は、「原発は安全」「原発は安い」という神話であった。地震国である日本になぜ、原発なのかという問いに対しても、想定される地震と津波に耐えられ設計であるというものであった。しかし、実際には海岸における立地が地震と津波による壊滅的被害を集中的に受けることになった。今回の地震と津波を「想定外」の規模という弁明が繰り替えされているが、例えば、1896(明治29)年の「明治三陸沖地震」では、高さ38メートル以上の津波が起きている。柏崎刈羽原発も地震の被害を受け、一部停止中であったが、原発の地震対策を抜本的に見直すことを先送りして、原発を再起動し、稼働率を上げることを急いだ結果が今回の事態である。

 閣議決定された「エネルギー基本計画」、環境省「ロードマップ」ともに、原子力発電所の増設(2020年9基、2030年14基)と稼働率の向上(2020年約85%、2030年90%)を目標に掲げてきた。たしかに世界でも「原子力ルネサンス」といわれ、アジアを中心に原子力発電所の増設計画が相次いでおり、原発商戦も盛んである。しかし、足元の日本を見れば、原子力発電所の設備利用率は約60%(2008年)から65%(2009年)であった。2003年以降、設備の高齢化と安全文化の軽視を背景に、電力会社によるデータ改ざん、地震などの事件、事故による運転中止が相次ぎ、原子力発電所全体の稼働率が低下したのである。しかし、例えば東京電力は、2020年の非化石電源エネルギーの比率を50%とする計画を立て、青森県に東通原子力発電所一号機(138万kW、国内最大規模、国内最長500kmの送電)などを建設し、かつ海外への原子力発電所発電事業などへの投資を拡大するとしてきたが、今回の事態で抜本的な見直しは必至である。

 今回のような地震・津波による被害のみならず、原子力発電に伴う廃炉、放射性廃棄物、高レベル廃棄物処分の立地問題は未解決で、日本は使用済み核燃料の再処理方針を決めたものの、再処理施設は稼働せず、また高速増殖炉運転の目途は立っていない。事実上、再処理路線は破たんの危機に瀕している。また短期的には安いコストに見える原子力発電は、すでに研究開発に国の莫大な投資と立地に関する交付金が支払われており、「持続可能性」の観点から再検討が必要である。

 その点で、1986年のチェルノブイリ原発事故を受けて、EUとくにデンマークやドイツでは、脱原発の動きが強まり、石油石炭などへの化石燃料への依存を減らし、エネルギー自給率向上を目指し、再生可能エネルギーの風力、太陽光、バイオマスの利用を拡大するFIT(全量固定価格買取制度)などの政策枠組をつくり、この分野で集中的に投資を行い、世界をリードする戦略を立て、新たに再生可能エネルギー産業を創出する成果を生み出しつつある。まさに「制約なくして革新なし」を実証してきた。

 これに対して、日本の電力会社にインタービューしても、「原子力は安い」「原子力は安全」「温暖化対策の切り札」といい、風力や太陽光などの再生可能エネルギーは「質が悪いエネルギー」「頼りにならない」という発言を繰り返してきた。条件の悪さを克服してこそのハイテクではないのか、スマートグリッドもそのために構築されるでのはないか、と問うても、電力会社の電力供給責任を強調し、日本には不要というばかりであった。

 しかし、今回の事態は、これまでの日本のエネルギー政策と電力会社の「結果責任」を厳しく問うていることは間違いない。日本のエネルギー政策を再構築するにあたり、大切なことは、透明性と受容性であり、資源エネルギー庁長官が東京電力に天下りするような日本の経済産業省・資源エネルギー庁・電力会社の一体となったエネルギーと地域支配構造の抜本的改革が求められている。

 

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

吉田文和の記事

もっと見る