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 東日本大震災の被災者、そして東北地方の人々を応援しようと、「THE OAK TREE(ナラの木)」(Johnny Ray Ryder Jr.作)という英語の詩を東北各地のことばに訳す活動が、静かに広がっている。

 呼びかけたのは、シカなどの野生動物を研究している麻布大学教授の高槻成紀さん。現在は神奈川県内の大学にいるが、仙台市にある東北大学に25年間在籍し、金華山(宮城県)や五葉山(岩手県)へ通ってシカの研究に明け暮れた経験を持つため、「東北地方の様子に、心おだやかでいられなかった」と話す。

 そんな時、日本での震災を知った米国人研究者から、クマ仲間のメーリングリストへこの詩の紹介があった。高槻さんは読んで感激し、すぐ日本語に訳して投稿した。「この詩で、被災者に少しでも力を持ってもらえたら」と思ったからだ。(元の詩と詳しい経緯は、高槻さんのブログ「がんばれナラの木」に掲載されている。)

 

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拡大ミズナラの林

ナラの木 (高槻成紀訳)

 

たいそう強い風が吹きました

昼となく夜となく

ナラの木のすべての葉っぱを吹き飛ばし

枝をびゅんびゅんと揺らし

木の皮も引きはがすほどでした

ついにナラの木は丸はだかになってしまいました

それでも地面にしっかり立っていました

ほかの木はみんな倒れてしまいました

くたびれてしまった風は

あきらめて言いました

「ナラの木よ、どうしてまだ立っていられるのだい?」

ナラの木は言いました

「あなたは私の枝を折ることも

すべての葉っぱを吹き飛ばすことも

枝を揺らすことも

私をゆさゆさと揺することもできます

でも私には大地に広がる

根っこがあります

私が生まれたときから

少しずつ強くなりました

あなたはこの根っこには決してさわれません

わかるでしょう

根っこは私のいちばん深い部分なのです

実は今日まで

私はよくわかっていませんでした

自分自身がどれだけものごとに耐えられるかを

でも、今おかげでわかりました

自分が知っていたよりも

私はもっと強くなったのです」

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 「強い風で枝や葉や樹皮までもはがされ、なおも立っているばかりか、その風に感謝さえして自分を信じるナラの木に、今の東北の人々の強さや優しさを重ねた」と、高槻さんは言う。まもなく、この訳を読んだ人から庄内(山形県北西部)ことばの訳が送られてきた。高槻さんは東北のことばの持つ力に驚かされ、「被災各地のことばにしてラジオなどで流してもらえたら、被災者をもっと元気づけることができるのではないか」と考えた。

 そこで野生生物に関するメーリングリストで呼びかけてみたら、半月あまりの間に、青森県の津軽、福島県の浜通りなど、茨城県内も含めて14の地方ことばで訳が寄せられた(4月14日現在)。私も山形県で2年半ほど勤務し、東北地方には友人や知人も多い。一つひとつを読んでいくと、なつかしいことばの響きが耳によみがえってきた。

 ここには、ひとつの例として、仙台から届いた訳を紹介してみよう。被害が大きかった宮城県の石巻市や女川町などとも近いことばだ。完成させるにあたって、仙台市シルバー人材センターの人たちが、「ああだこうだ」と言って「監修」をしてくれた作品だそうだ。(他の地方ことばによる訳は、やはり「がんばれナラの木」の中で読める。)

 

 

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拡大コナラの若葉

ナラの木 (仙台版)

 

ずいぶんと強い風が吹いだっちゃ

昼間(しんま)どなく夜中(よなが)どなく

ナラの木(ち)のみんな葉っぱばふっと飛ばす

枝(いだ)っこをびゅんびゅんと揺らがすて

木(ち)の皮もひきはがすんではねいがとおもった

ついぬナラの木(ち)はすっぱだかになってすまった

そんでも地面(ずめん)さすっかり立っていだっちゃ

ほがの木(ち)はぜんぶ倒れてすまった

つかれてすまった風は

あぎらめで言ったっちゃ

「ナラの木(ち)よ、どうすてまだ立っていられんのしゃ?」

ナラの木(ち)は言ったつちゃ

「あんだはおればのいだっこをへしょるごどもも

ぜんぶの葉っぱばをふっと飛ばすごども

枝(いだ)っこを揺らすごども

おればをゆさゆさと揺するごどもでぎっちゃ

んでも おれぬは土(つづ)さ広がる

根っこがあるす

おらが生まれた時(とじ)から

少すずつ強くなるすた

あんだはこの根っこさ決すて さわれねっちゃ

わがんべ

根っこはおれの一番(いずばん)深げいどころっしゃ

実(ずづ)は本日(ほんずつ)まで

おれはそんごとがよくわがんねでいだっちゃ

おれ自信(ずすん)がどんだけかがまんでじるがを

んでも、今すがたおかげでわかりすた

おれが知(す)っていたよりも

おれはずっと強くなったのしゃ」

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 東北地方で「ナラの木」と言えば、ミズナラやコナラ、カシワといった木を指す。東北大学教授の中静透さんにきくと、「雪の多い日本海側にはブナが多いが、(震災で被災した)太平洋側の自然植生としてはナラを考えるのがよい。標高の高い所はミズナラ、低い所はコナラ、海岸部にはカシワが多くなる」と説明してくれた。

 そうしたナラの仲間は、まきや炭に使うために、地域の人々から重宝されてきた木でもある。切り倒されても切り株から新しい芽生えが伸びて、またそれを利用することができた。ナラの根はとくに若いうちは大きく、光合成産物を養分として貯蔵し、たとえ地上部がだめになったとしても、生き残りを図れるように進化してきたためだ。

 「ナラの木」の詩からは、まさにそんな生きざまが伝わってくる。そして被災した各地のことばに訳されたことで、いっそう力強さを増したようにも感じる。

 ナラのもたらす恵みとともに生きてきた人たちは、きっとナラのようによみがえってくるにちがいない。

 

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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞記者(科学医療部)

朝日新聞科学医療部記者。「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長などを務め、2018年4月から再び朝日新聞の科学記者に。ナチュラリストを夢見ながら、とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せて取材活動を続けている。

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