メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

自然エネルギーをいかに普及させるか

吉田文和

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 日本の発電量に占める太陽光などの自然エネルギーの割合を「20年代の早い時期に20%超に引き上げる」と、菅首相はG8サミットで表明した。問題は、そのための制度である。

 東日本大震災の3月11日に閣議決定された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」が、そのための制度で固定価格買取制度の枠組を決めるものである。

 固定価格買取制度とは、初期導入費用が高い再生可能エネルギー導入のブレークスルー段階において効果を発揮するもので、市場原理に任せておいたのでは、安い化石燃料に太刀打ちできないので、買取価格と買取期間をあらかじめ保証することによって、再生可能エネルギーに対して投資を呼び込み、普及を図る制度である

 日本では、すでに太陽光発電に対して、補助制度、減税制度が導入されている。これは住宅と業務を対象とした余剰の太陽光のみの固定価格買取制度で、買取価格は導入当初、住宅用(10kW未満)は48円/kWh、それ以外は24円/kWh、自家発電設備等を併設している場合は、それぞれ39円/kWh、20円/kWhである(2011年3月までに太陽光発電を導入した場合)。

 2011年度については、住宅用が48円から42円に引き下げられ、それ以外は40円に引き上げられた。また、自家発電併設の場合は、住宅用34円/kWhに引き下げられ、非住宅用32円/kWhに引き上げられた。一般の電気料金に上乗せされる太陽光サーチャージによる標準的な家庭の月々の負担は、数十円~百円程度になる見込みである。

 だが、この制度は、余剰の太陽光発電のみの買取制度であり、各種の再生可能エネルギーを全量買取する場合については、抜本的な再検討が必要である。そこで、資源エネルギー庁は、「再生可能エネルギー全量買取制度の導入に当たって」(2010年8月)を公表し、3月11日に、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」を閣議決定し、4月5日に第177国会に提出したが、自民・公明の反対で審議に入っていない。

 法案によれば、買取対象は、太陽光発電(発電事業用まで拡大)だけでなく、風力発電(小型も含む)、中小水力発電、地熱発電、バイオマス発電である。全量買取の範囲は、発電事業用設備であるが、住宅用太陽光発電は、余剰買取を基本とする。新設を対象とすることを基本に、買取価格は、太陽光発電を除いた買取価格は15-20円/kWh程度とし、一律の買取価格とする。買取期間は15―20年を基本とし、太陽光発電の買取期間は10年とするという。地域間でサーチャージの負担に不均衡が生じないよう必要な措置を講ずる。

 北海道の風力発電の事例のように、これまでの買取制度では全量が買い取られるわけではなく、また買取価格が低く抑えられているために、設備利用率が全国平均18%を上回る好条件であっても、補助金や環境問題への意識の高い企業による買取などに支えられて、はじめて風力発電事業が運営可能である。

 これについて風力発電事業関係者によると、初期投資に対する補助金なしで採算を確保するには、20円/kWhで20年間買取を保証することが最低ラインで、さらに環境アセスメント法改正などに伴う開発・設備費用増加を勘案した場合には24円/kWhで20年間買取保証が必要と見込まれるという。

 「15-20円/kWhで15-20年間買取」という今回の案では、現在最も経済的優位にある風力発電でさえ採算ラインぎりぎりであり、環境アセスメントや施設基準の強化などの事業リスクを考えると、再生可能エネルギーの飛躍的増加を図ることは難しいと考えられる。

エネルギー効率にとくに優れた熱電併給に高い価格やボーナスを付けることがデンマークやドイツでは実施され、分散型バイオマス発電の普及促進に効果を上げている。

 これに対して、日本の再生可能エネルギーは電力利用に偏っており、熱電併給利用促進の制度が遅れている。天然ガス源で熱電併給の燃料電池と太陽光発電とを組み合わせた住宅用ダブル発電は、世界から注目される日本の環境先進技術であるにもかかわらず、天然ガス利用という理由で、太陽光の余剰買取価格42円/kWhに比べて、買取価格が34円/kWhと安い。これでは、エネルギー政策としても問題がある。

 今回、一律の買取価格が提案された理由は、エネルギー間の競争による発電コスト低減を促すためであるとされる。しかし固定価格買取制度はそもそも、初期導入コストの高い再生可能エネルギーの普及拡大というイノベーションのためであるとの基本を忘れてはならない(吉田文和・吉田晴代「北海道の風力発電の経験から見た再生可能エネルギーと全量固定価格買取制度」『環境経済・政策研究』第4巻第1号、2011年)。

 住宅用太陽光発電のような余剰買取についても問題がある。全量買取が「再生可能電源による発電量」を評価するのに対して、余剰買取は「売却した電力量」のみを評価するものであり、屋根に設置するパネル面積が狭い場合、日中の自家消費電力が多い場合などでは、余剰電力のみを一律の価格で買い取る方式では投資回収が難しい。

 そのため、普及を促進するという観点からは、自家消費分を含めて発電電力量の全量を買い取る制度が望ましいであろう(環境省中央環境審議会中長期ロードマップ小委員会、エネルギー供給WG中間報告、2010年9月30日)。

 これに対して余剰分のみを買い取るとする提案の理由は、

1)家庭における昼間の省エネルギー効果の促進、

2)エネルギーの自給自足の促進、

3)国民負担の増加を避ける、

4)全量買取にはメーターの移設や追加的な配線工事が必要、

5)近い将来に、太陽光発電の買取価格が家庭用の電力料金を下回った段階では、余剰分のみの方が設置者に有利、

であるからとされている。

 なお、これ以外に太陽光発電等の再生可能エネルギーが大量に導入された場合の系統安定化対策として、柱上変圧器の増設などの電圧上昇対策に加え、蓄電池の設置や出力抑制等の余剰電力対策が必要となるとして、太陽光発電の出力抑制のない場合には、巨額の負担が必要になると経済産業省は計算している。日本におけるスマートグリッド導入の主な関心はここにある。

 日本の場合、買取対象の中心が太陽光発電であり、風力やバイオマスの割合が少なく、そのために、太陽光による余剰電力の発生、出力の急激な変動、電圧上昇などへの対応が必要になっている。したがって、太陽光発電のみでなく、風力、バイオマスなど多様な再生可能エネルギーの導入が不可欠となっている。原子力への依存を減らし、多様な再生可能エネルギーを抜本的に拡大していくうえで、全量固定価格買取制度の全面的普及がますます重要となってきた。

 今回提出されている再生可能エネルギー法案の第5条では、電力事業者は電力供給者からの「接続を拒んではならない」とされているが、「電気の円滑な供給の確保に支障を生ずるおそれがあるとき」は、除外される。これでは再生可能エネルギーの普及で障害となるので、この除外規定をなくし、政府の支援を含めた送電網の整備と再生可能エネルギーの受け入れを促進すべきである。

・・・ログインして読む

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

吉田文和の記事

もっと見る