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「影響は認められない」をどう考えるか――放射線のリスク論

長瀧重信

長瀧重信 長崎大学名誉教授(放射線の健康影響)

 放射線の人体に対する影響の研究のために、人体を対象にした実験は不可能である。だからと言って、動物実験や試験管内の実験から人体への影響を予測しようにも、そこには大きなギャップがある。したがって、この研究では、過去の経験や情報をもとにした放射線の影響の分析が中心となる。

 放射線の影響には、「急性」と「晩発」がある。急性は、被曝後数週間以内に現れる影響であり、晩発は、急性影響の後、長期にわたって発生する影響である。原爆被爆者が、今でも晩発影響に悩んでいるのはその典型である。原発事故では、原発内部の人に対しては急性影響が心配されるが、周辺住民に対しては晩発影響について考えることが多い。

 晩発影響が、科学的にどこまでわかっているかを議論するとき、まず前提とすべきは、個人をいくら調べても放射線の影響かどうかわからない、ということである。たとえば、目の前の一人の肺がんの患者さんをいくら調べても、その原因が放射線かどうかはわからない。

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