辻篤子
2011年06月20日
また新たに、20ミリシーベルトを目安に、「避難勧奨地点」も指定されることになった。今やすっかりおなじみになった数値だが、なぜ20なのか、どういう考え方に基づくのか、十分に説明されてきたとはいえない。
私たちはこれからもこうした放射線量に関する何らかの基準とつきあっていかなければならないことを考えれば、今後のためにも、その考え方を改めて整理しておく意味はあるだろう。
これらの数字の根拠となっているのは、いうまでもなく、国際放射線防護委員会(ICRP)2007年の勧告である。おさらいをしておくと、一般公衆に対して、自然放射線や医療による被曝(ひばく)を除いた、平常時の放射線被曝限度は1年に1ミリシーベルト、原発事故のような「緊急時被曝状況」では、それを越えた場合に避難など何らかの対策を取ることが必要な参考レベルを20~100ミリシーベルト、そして、緊急時が終わってから平常時に戻るまでの「現存被曝状況」では、やはり対策が必要な参考レベルを1~20ミリシーベルトとしている。
100ミリシーベルトは、確率的な影響が科学的に認められる最低の被曝線量であり、がんによって死亡するリスクが0.5%高まるとされる。それ以下では、影響があるという科学的な証拠はないが、放射線防護の観点からは、影響があると仮定してできるだけ低く抑えるという立場を取る。その点では、実は、20ミリシーベルトという数値自体に明確な根拠があるわけではない。
計画的避難区域を設定する基準として政府が4月11日に発表したのは、緊急時に対する参考レベルの中で最も厳しい値としての20ミリシーベルト、続いて4月19日、今度は福島県内の学校での屋外活動を制限する目安として発表したのは、現存被曝状況での参考レベルの中で最も緩い値としての20ミリシーベルトだった。
現在の状況について、片や緊急時、片や現存被曝状況、一方、参考レベルの幅の中で、片や最も厳しい値、片や最も緩い値である。形だけみれば、これほどちぐはぐなものもないだろう。しかも、子どもを対象とした目安の方で、最も緩い数値が選ばれた。
むろん、事故対策のための緊急時がこれまでになく長期化していることが背景にあり、対応を難しくしていることは事実だ。
文部科学省は
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