メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

意味のある節電がしたい

須藤靖

須藤靖  東京大学教授(宇宙物理学)

 いよいよ7月に入り、本格的な節電の時期となった。何にせよ、無駄なエネルギーの使用をやめ、節約することは良いことだ。私はかねてより、日本の建物や公共施設における過度の照明や、24時間営業のコンビニ、乱立する自動販売機などは行き過ぎではないかと考えてきた。我々の生活スタイルを少し変えるだけで、それら無しでもほとんど不便を感じることなく過ごせるはずだ。

 一方、過度の節電のために、たとえば熱中症の患者が増えるような事態を生むことは決して看過すべきではない。つまり「とにかく節電しましょう」ではなく、「どのような節電をするのが有効なのか」、さらには「どのような節電は無意味なのか」という理解が大切である。しかし、そのために必要な基礎情報が適切に与えられていないように思えるのだ。

 以下、私の疑問3点を箇条書きにまとめ、その疑問の意図を付け加えておく。新聞やインターネットを検索してもこれらについての情報は見当たらなかった。今の世の中で、そのような検索で引っかからないとすれば、仮にどこかにひっそりと公開されていたとしても、役には立たない。東京電力のホームページにそのような情報がわかりやすく掲載されていてしかるべきであろう。

 定量的な情報を与えても理解は困難だから結論(数値)だけを発表する、というのでは明らかに国民を愚弄している。信頼できる情報を最大限与えることが専門家の使命である。その結果をどう解釈し行動するかにまで立ち入った結果、公開する情報を操作したり制限したりしているとするならば、筋違いである。

1) ピーク時供給力の意味

 東京電力のホームページから、でんき予報のページに入ると、毎日のピーク時供給力と予想最大電力、さらに15分毎の使用状況のグラフが公開されている。この予想最大電力に合わせて、毎日ピーク時供給力を調整して発電を行っていることは想像できる。しかし、ピーク時供給力とはそもそも何なのか。それを超えると何かまずいことが起こることだけは想像できる。では、東京電力管内の総電力使用量がそれを、たとえば0.1%でも下回っていれば何も問題はないものなのか、逆に0.1%でも上回ればどこかで停電が起こってしまうものなのか。

 もちろん、不慮の停電が起こるかもしれないぎりぎりの総使用電力値と、ピーク時供給力とは異なる概念である。例えば、今日の予想最大電力に対して停電が起こる確率が0.01%以下とするための電力を「ピーク時必要電力」と定義してみよう。その上で、その「ピーク時必要電力」をまかなうために、具体的にどこの発電所をどの程度稼動させるかを決定し、実際に供給可能な「ピーク時供給力」を公表する(ただしこれは、「ピーク時必要電力」が東京電力管内のすべての発電所をフル稼働して得られる最大値以下である場合を仮定している)。これは、東京電力が実際に採用している定義とは異なっていることであろう。しかし、本当に正しく節電をするためには、「ピーク供給力」とは何かを正確に理解しておくべきだ。

2) ピーク時供給力の詳細な内訳の公開

 さらに大切なのは、ピーク時供給力の具体的な内訳である。東京電力は、そんな詳細な情報は不要だろうというかもしれない。しかし、これは現状の認識と信頼性という意味において重要である。本来はさらに供給が可能であるにも関わらず、意図的に数値を小さく発表することで、原発の必要性を強調しているのではないか、という疑念を払拭するためにも。それとも、具体的にどこの発電所がどれだけの電力を供給しているかという詳細な一覧表は、テロなどの危険上、公表できないような機密情報なのだろうか?

 大学で物理学実験を選択すると、誤差のない数値は無意味だ、ということを徹底的にたたき込まれる。あらゆる測定や予測は誤差を含んでいる。その誤差評価がないままの数値はどの程度信頼できるかわからないから使ってはならない、というわけだ。ピーク時供給力の定義とその具体的な積算根拠の公表があって初めて、それに対してどう対処すべきかが判断できるようになる。

3) ピーク時以外の電力供給量

 ところで、公表されているのはピーク時供給力だけのようだが、それ以外の時間帯の電力供給体制はどのようになっているのだろう。どの程度状況に応じて発電量を調節しているのかという疑問なのだが、これは一日を通じての節電のやり方を大きく左右する。電力使用量がピーク時供給力を超えなければ問題ないとされている一方、とにかく節電することが善、といった雰囲気があるのも事実である。しかも、それに対して異議を唱えるのは不見識といった風潮もある。しかしその結果が実際の発電量を減らすことに反映されないとすれば、せっかくの節電も精神的な意味しか持たない。

 大学でも、ピーク時以外にも可能な限りの節電を実行中である。エレベータを1基のみの運転にし、蛍光灯は半分はずしている。3月以来、私の研究室のすべての冷蔵庫は空にしてコンセントもはずしたままである。しかしその効果は「節電意識」の向上にとどまらず、本当に発電量を減らすことに役に立っているのだろうか?

 でんき予報によれば、まだ「ピーク時供給力」に比べると18%の余裕があるとする。この場合、冷房を控えることによる現実的なメリットはあるのか? もしも節電には関係なく同じ量だけ発電しているのであれば、電力を無駄に捨てるよりは有効に利用したほうがよい。電力に余裕がある時間帯にも節電することが、ある程度リアルタイムで発電量に反映されなければ、せっかく節電に貢献しているつもりでも実は意味がない。例えば「照明を暗くして1500世帯分の電力を節電した」と言う場合、発電量がその分減らなかったのであれば、実は「1500世帯分の電力が発電されたのに使われないまま残った」という無意味な結果になってしまうかもしれない。

 熱中症などの危険を避けるべく「夜には、必要に応じて遠慮なく冷房をしたほうがよい」と周知する場合、夜は冷房しても節電には貢献していないことがはっきりしなければ、どうしても気になってしまう人もいるだろう。このあたりは、マスコミでも正確に理解した上での報道がなされているとは思えない。とくに高齢者の方々に心理的負担なしに冷房を使ってもらうためにも、何が意味のある節電なのか明確に伝えるべきである。

 過酷な状況下で現在の原発の安全を確保してくれている多数の現場の方々の献身的な努力に対して、東京電力の情報公開はまだ不十分である。せっかくの我々の節電に対する協力が真に有効な意義を持つものとなるように、正確な情報の提供を望む。

・・・ログインして読む

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

須藤靖の記事

もっと見る