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「家庭のエアコン我慢」は不要だったのでは

竹内敬二

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

今年の夏、家庭を対象にした大々的な節電キャンペーンが繰り広げられた。あたかも家庭の節電次第で停電がおきるかのような雰囲気だった。しかし、それほど家庭をターゲットにして騒ぐ必要があったのだろうか。その際に使われた「家庭の電力使用」のデータには疑問がある。あいまいなデータにもとづいたキャンペーンだったが、私は「家庭のエアコン我慢」も、その激しいPRも不要だったのではと思う。

 東京電力管内の今年の夏の電力需要ピークは、お盆前の数字では4900万キロワット強(8月10日午後)だった。供給力でいえば約90%。10%も余裕があった。

拡大1家庭のピーク時電力消費量。資源エネルギー庁の想定と実測値はかなり異なる

 やはり猛暑だった昨年夏の東京電力管内の電力需要ピークは約6000万キロワット。今年の激減は節電の結果だ。ちまたには、「減らせば減るもんだ」「これまで無駄な電気が多かったということだな」の声が多い。今夏の節電レベルを維持すれば、日本は「あまり電気を使わない社会」に変身できる。

 節電を進めた主体は、間違いなく、大きな工場やビルなど大口の需要家だ。「電力使用制限令」が東京、東北電力管内の大口需要家に出され、「ピーク電力を昨年より15%削減する」が命じられたことが大きい。また、大口需要家は電力ピークを管理する設備をもっているし、ピークを抑えることで安い電力料金の設定も得られる。これによって「計算できる節電」ができたと思う。

 さて問題なのは、家庭だ。資源エネルギー庁や東京電力は、「家庭でもピークの15%削減を」というPRを展開した。「社会全体が15%減らすにはだれもが15%を」という説明だった。ここから「エアコンを我慢しても熱中症にならない工夫」や「ゴーヤなど緑のすだれをつくれば部屋の温度が下がる」などの情報がマスメディアから流され、あたかも、家庭のエアコンが社会の停電に大きく関係するような雰囲気がつくられた。

拡大家庭の電力消費。昼には少なく、夜に多い。

 しかし、私の疑問は、「健康に影響するような家庭の節電の必要性をそれほどPRする必要があったか」ということだ。

 これを考えるためにまず必要なのは、「暑い日の午後1~4時に家庭ではどのくらい電気を使っているのか」という基礎データである。しかし、東京電力などは、こうしたデータを「もっていない」という。サンプリング調査などで消費傾向を調べていないとはとても思えないのだが、そういっている。

 その一方で、大口、中規模需要家、家庭の需要が「ほぼ3分の1ずつ」、という説明をしている。資源エネルギー庁もこの「ピーク時の3分の1は家庭」の考えに基づいて、節電キャンペーンを行った。東電管内では、暑い日のピークでは6000万キロワット、家庭全体でその3分の1弱の1800万キロワット、各家庭(在宅、留守の平均)で843ワットが見込まれる。ここから15%の節電をというPRだ。

 実際はどうか。いくつかの研究がある。暑い日の1家庭のピーク需要について、住環境計画研究所が実測した値は、資源エネルギー庁のモデルより、ずいぶん少ない。また、家庭の一日の需要カーブについても、住環境計画研と日本生活協同組合連合会が、モニタリングなどで傾向を表している。この二つと資源エネルギー庁の想定をグラフで比較すると、その差が極めて大きいことがわかる。

 こうした研究などを参考にすれば、暑い日のピーク時の各家庭の電力消費も、家庭全体での総消費量も、資源エネ庁がいうより、2~3割は低いだろうと思われる。中規模や大口の需要家の消費が相対的にもっと多いとみられる。そうであれば、家庭の貢献はもともと小さく、エアコンを少々止めても、節電量全体にはあまり影響しないことになる。

 家庭の電力消費カーブを見て驚くのは、ピークが昼ではなく、夜にあることだ。最近は昼の在宅率が低く、夕方帰宅してからエアコンを入れる家が多いので、当然なのだが、あまり知られていない。

 したがって、家庭の電力消費は「社会全体がピークになる昼過ぎには少なく、社会の需要が減る夜に多い。家庭全体としてピークを緩和する形になっている」といえる。その昔、「家庭がエアコンをかけて甲子園大会の決勝戦を見るので社会の電力消費がピークになる」という話があったが、都市伝説のようなもので、本当ではない。

 いえることは、家庭の電力消費については、とにかくデータが少ないということだ。今年は、橋下徹大阪府知事や保坂展人世田谷区長から、「電力会社はもっと情報を出して欲しい」という声があがった。

 保坂区長は5月末、東京電力に「節電に協力したいので、世田谷区、あるいは世田谷の傾向がわかる地域の電力消費量をリアルタイムで教えて欲しい」と申し込んだ。リアルタイムで分かると、「世田谷区内は今日は高い水準で進んでいます。減らしましょう」のPRがインターネットなどで区民にできるからだ。停電防止には、効果的だし、何より節電活動への参加感、達成感もわく。

 しかし、答えは「ダメ」。「公開するシステムをつくるには8カ月の時間と4億円かかる」が理由だった。世田谷区を含む変電所は20カ所しかないので、保坂区長は「区が20カ所に電話を入れて書き取ってもいい」といったというが、断られた。

 ということで、よくよく考えてみると、「家庭でもピーク時には昨年の15%削減を」は、基準もデータもなく、検証もできない、ただの「かけ声」でしかない。

 「私の家の昨年のピークは何ワットですか?」「分かりません」「家庭全体のピークは?」「分かりません」「今年の家庭全体や私の家の節電努力の結果は後で分かりますか?」「わかりません」――となる。

 節電を求めるのであれば、もっと詳しい需要情報を出すべきだろう。「暑い日の家庭の消費カーブ」を明らかにし、節電の必要性の度合いと、努力の効果が見えるようにして欲しい。今夏の節電について、正しいデータに基づいた分析、評価は出るのだろうか。

 この夏の節電キャンペーンを通じて、私は次の二つのことを感じた。

 一つは、大口の節電で目標量が確保できたので、家庭にはそれほど期待していなかったのではないか――ということだ。

 大雨で火力発電所が被害を受けた東北電力や、猛暑の時期に火力発電が故障した関電などはギリギリになったが、東電管内などは、「家庭のエアコン我慢」などをPRするほどではなかったように思う。節電の雰囲気づくりのために必要以上に強調されたのではないか。

 実際、資源エネルギー庁の節電説明資料には「国民各層へ積極的な啓発活動を行い、節電に取り組む動きを国民運動として盛り上げる」という表現がある。不十分なデータなのに「国民運動」である。その狙いは功を奏して、私の周囲でも多くの人がまじめにエアコンを我慢していた。健康にも影響するのに、敏感に反応し過ぎたのではないだろうか。

 二つめは、電力会社は、昼少なくて夜に多い、という家庭の消費傾向を知られたくないのだろう――ということ。

 発電コストは、需要が多い昼には高く、需要が少ない夜には安いはずだ。大口よりずいぶん高い家庭の電気代は、もっと安くてもいいという議論が出てくるのを嫌がっているのかも知れない。

 節電にからむ今回のような問題ははじめてではない。東電による「原発トラブル隠し事件」が起きた翌年の03年夏も、東電管内は電力危機になった。そのとき、筆者(竹内)自身が書いた記事「節電へ環境づくり急げ」(2003年5月12日)の中に、「地域ごとの詳しい電力の需給情報を消費者に公開して欲しい」「電力会社はこれまで、(家庭の)需要データの詳細なデータを提供せず、節電の呼びかけだけを繰り返してきた」という表現がある。8年経ってもあまり変わっていないのである。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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