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「節電の夏」に考える環境と医療(下)――進化医学の知見と今後の展望

広井良典

広井良典 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

 そもそも病気とはいったい何だろうか。これについて、いま言及した「進化医学」と呼ばれる見方が90年代頃から浮上している。それは病気というものを、ほかでもなく、人間あるいは個人をとりまく「環境」とのかかわりにおいてとらえる見方である。

 大きく振り返ると、人間の遺伝子つまり生物学的な特性は、私たちの祖先である現生人類が地球上に登場したおよそ10万年前頃からほとんど変わっていない。言い換えれば、私たちの身体は、当時の環境、つまり比較的ゆっくりした時間の流れの中で、狩猟かせいぜい農耕を営んでいた生活環境にちょうど適した形につくられている。たとえば当時は食糧が慢性的に欠乏しがちだったので、食物の摂取量が多少不足しても血糖値を高く保つような仕組みが人間の身体には備わっている。

 ところが現在のような飽食の時代には、そうした人間の身体的特性はかえってマイナスに働き、逆に糖尿病や肥満など様々な病気の原因になっている。

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