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 オール・ジャパン体制という名の下で、京都大学山中伸弥教授が開発したiPS細胞研究が劇的な進展を見せている。「iPS細胞」もしくは「万能細胞」という言葉が、近頃では頻繁に新聞紙上に登場するので、普段は生物学に全く興味を持たない人たちの間にも、この細胞の存在がかなり知られるようになってきた。

 簡単におさらいしておくと、iPS細胞とは日本語で「人工多能性幹細胞」と呼ばれる細胞で、体細胞(私たちの体をつくる、生殖細胞以外の細胞)、平たく言えば皮膚の細胞などに、ある特定の遺伝子を導入することで「皮膚の細胞だったことを忘れさせ」、体のどんな細胞にもなれる可能性がある状態にしたものである。「万能」細胞とはそういう意味だ。

 iPS細胞はそういう性質を持っているので、自分の皮膚の細胞からiPS細胞を作っておけば、将来どこかが病気になって移植が必要になったとき、そのiPS細胞から目的の組織や臓器を作り出し、自分自身に移植すれば、拒絶反応もなく治すことができると期待されている。他にも、オーダーメイドの疾患モデル細胞としての医学応用でも期待されている。

 これまでにも「ES細胞」という万能細胞が存在していたが、こちらは皮膚の細胞ではなく、「これから赤ちゃんになるはずだった」細胞から作られるため、倫理的問題が常に付きまとい、さらに技術的難易度も高かった。一方iPS細胞は、すでに大人になった自分の体の細胞から作ればいいから、ES細胞における倫理的問題は存在しない。だからこそ注目されているという面もある。

 最近、京都大学の斎藤通紀教授のグループが、マウスのiPS細胞から精子を作り、その精子からマウスを誕生させることに成功したとする研究を、米国の著名な科学誌『セル』に発表した。

 8月5日朝日新聞朝刊の解説では、「〈皮膚の細胞から精子をつくり、それで子どもをつくる〉。マウスの段階とはいえ、ひと昔前なら空想科学小説でしかありえなかったことが、また一つ現実になった。」という文章と共に、ヒトへの応用に関しては倫理的な問題を含めて、課題が山積していることを述べているが、果たしてその課題とは何だろうか。

 ここでは、これまであまり話題に上ってこなかった観点から、改めて問題提起をしておきたいと思う。その観点とは、私たちの体の細胞を「生殖細胞」と生殖細胞以外の「体細胞」に分けることができる、その生物学的意味を考えることで明らかとなっていくものだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

武村政春

武村政春(たけむら・まさはる) 東京理科大学准教授(生物教育学・分子生物学)

東京理科大学大学院科学教育研究科准教授。1969年三重県生まれ。1998年名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。名古屋大、三重大の助手等を経て現職。専門は生物教育学、分子生物学、細胞進化学。著書に「レプリカ~文化と進化の複製博物館」(工作舎)など多数。【2015年10月WEBRONZA退任】

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