朝日ニュースター
2011年09月15日
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朝日グループのジャーナリズムTV「朝日ニュースター」は、通信衛星などを利用して24時間放送しているテレビチャンネルで、ケーブルテレビ局やスカパー!などを通じて有料視聴することができます。4月から始まった新番組「科学朝日」は、高橋真理子・朝日新聞編集委員がレギュラー出演する科学トーク番組です。WEBRONZAでは、番組内容をスペシャル記事としてテキスト化してお届けします。
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ゲスト 宇宙航空研究開発機構IKAROSチームリーダー 森治さん
高橋:こんばんは。科学の最先端にひたる「科学朝日」、案内役の高橋真理子です。本日のテーマは、こちら「宇宙ヨットIKAROS」です。この宇宙ヨットが今宇宙空間を太陽の光を受けて航行しています。海の上を風の力で進むヨットと同じように、この宇宙ヨットはエンジンも燃料も必要ありません。太陽の光を受けて加速される、そう聞いて本当かなと思う方も多いかもしれません。ですがこのIKAROSは、本当に光の力だけで進むことを身をもって示したのです。本日は宇宙航空研究開発機構JAXAでIKAROSのチームリーダーを務めている森治(もり・おさむ)さんをお招きしました。森さんよろしくお願い致します。
森:こんばんは。よろしくお願いします。
高橋:まずはこのIKAROSという名前ですが、ギリシャ神話に出てくる少年の名前をもじっているんですよね?
森:はい、そうです。
高橋:あの物語は羽根を蝋で体に付けて太陽に向けて飛んでいって、太陽に近づき過ぎたために蝋が溶けてしまって地上に落ちてしまうという、どちらかというと飛行失敗の物語の主人公なんですけれども、どうしてその失敗した主人公の名前を付けたんですか?
森:はい。まず正式名称からお伝えしますと、これは「小型ソーラー電力セイル実証機IKAROS」といいます。このIKAROSというのは、Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation OF the Sunの頭文字を取ってIKAROSとしています。Interplanetaryというのは、惑星間という意味です。
高橋:はい。
森:Kite-craftというのは、凧の宇宙船。
高橋:カイト、凧ですね?
森:そうですね。Accelerated by Radiation OF the Sunは、太陽の光を受けて加速されるという、そういうものを略してIKAROSとしています。
高橋:なるほど。
森:ご指摘のとおりギリシャ神話の少年イカロスから取っているというところなんですけれども、わたしたちは失敗の物語というよりはそのイカロスが斬新な方法で失敗を恐れずに宇宙に向かって飛んでいった、その挑戦心をかってこの名前を付けたというところなんです。
高橋:だけど太陽に近づいていって羽根がなくなって地上に落ちてくるというのはちょっと変なんですよね、よく考えてみると。
森:そうですね。宇宙で飛び出してしまうと、重力がないので落ちるというのはちょっと変な感じですね。
高橋:そうですね。そういう意味では、落ちる心配はないということであえて名前を付けたということも?
森:そうですね。はい。もう飛び過ぎちゃって、飛び過ぎちゃってそれで落ちるものなら、もうむしろわれわれとしては本望だというふうに思っております。
高橋:分かりました。カイトとついていますが、一般的にはこれを「宇宙ヨット」と呼ぶんですね?
森:そうです。どちらもコンセプトは同じで、太陽の光を受けて燃料を使わずに速度を速めたり遅くしたりすることができるということで、燃料を使わないという意味で「夢の宇宙船」というふうにも言われたりします。
高橋:実はわたしがソーラーセイルのことを聞いたのは、もう30年以上前になるんですけれども、その時は本当にもう直ぐにも宇宙ヨットが宇宙に浮かぶというようなお話だったんですね。でもこのIKAROSが世界初ということは、あれからずっとどこも成功してこなかったということなんですか?
森:そうですね。IKAROSが初めて、世界で初めてになります。そもそも、このソーラーセイルのアイデイアは100年ぐらい前にロシアの科学者ツイオルコフスキーという人がいまして、その人が提案したというふうに言われています。
高橋:はい。
森:SF小説やアニメなどではしばしば取り上げられてきていますので、もしかしたらご存知の方いらっしゃるかもしれません。でも実際にはいろいろ技術的に難しくて、実現できなかったんですね。1990年ぐらいになってからいよいよできそうだということで、世界中で開発がやられるようになりまして。
高橋:ようやく本格化したわけですね、その頃から。
森:そうです。それで何というんですかね、一番乗りを目指して競争するというような状況になりました。
高橋:ええ。
森:海外で幾つか失敗もありまして、その中でIKAROSが一発で成功して世界初になったと。
高橋:IKAROSは、1990年代から始めていたんですか?
森:IKAROS自身は、その前の検討を始めた1番最初のところは2001年とか2002年とかからですね。
高橋:じゃ、ちょっと遅れて出発して抜き去ったと、そういうことなんですね?
森:まあ、そうですね。
高橋:はい。じゃ、CMを挟んでもっと詳しいことをお伺いします。一旦CMです。
~CM~
高橋:「科学朝日」本日のゲストはこの方、宇宙航空研究開発機構JAXAでIKAROSのチームリーダーを務める森治(もり・おさむ)さんです。改めてよろしくお願い致します。
森:よろしくお願いします。
高橋:このIKAROSですけれども、1番の特徴というとどういうところになるんでしょうか?
森:IKAROSのこのセイルの膜に、薄い膜の太陽電池が貼り付けられています。
高橋:この紫色に見えているところが太陽電池なんですね?
森:そうです。太陽の光を受けて加速するだけでなくて、こちらで太陽光発電もできますので、一石二鳥ということになります。こういったアイデイア自身はこれは日本オリジナルなもので、われわれはこれを「ソーラー電力セイル」というふうに呼んでいます。
高橋:今までの宇宙ヨットで考えられていたのは、この帆だけで。
森:そうです。
高橋:太陽電池はなかった?
森:そうです。それで帆だけの場合はソーラーセイル、われわれはその帆に太陽電池を付けたので電気を発電できるということで、「ソーラー電力セイル」というふうに呼んでいる。
高橋:なるほど。二つを組み合わせるというのが、ハイブリットですよね?
森:はい、そうです。
高橋:日本のトヨタのプリウスも世界で初のハイブリッド車ということで大変売れたわけですが、日本はハイブリッドが得意なんですかね?
森:そうですね。われわれ自身何でこういうことを思いついたかといいますと、太陽から遠く離れた惑星、例えば木星等に行こうと思った場合に、一つは遠くに行くために燃料が沢山必要になります。
高橋:はい。
森:それともう一つは、太陽から離れるので太陽光発電しようとすると電気が。
高橋:弱くなりますね。
森:弱くなりますので、沢山の面積の太陽電池を貼らなければならないということで、もう大きな膜を拡げれば一挙両得で、そこに太陽電池を貼っておけば二つ同時にできる。燃料の問題と電力の問題を同時に解決するということで、こういったアイデイアを出したんです。
高橋:このセイルの材質というのは、どういうものなんですか?
森:これはポリイミド樹脂です。
高橋:難しい言葉ですね。
森:具体的に今おもちしたんですけれども、こういったものです。
高橋:こういう薄い?
森:はい。
高橋:これ丈夫なんですか?引っ張っても。
森:はい、丈夫です。引っ張っても破れないです。これ自身は厚さは7.5μm。人間の髪の毛がだいたい100μmと言われていますので、その10分の1以下の薄さということになります。これ自身はちょっと黄色ですけど、殆ど透明で向こうが透けて見えますよね。
高橋:はい。
森:これだと太陽の光を跳ね返すことができないので、実際にはこういった形ですね。これ裏なんですけど、これが表。
高橋:金紙ですね。
森:はい、こちらになりますね。
高橋:裏は銀紙。
森:はい。これ銀というよりは、正確にはアルミですね。アルミが吹き付けられている。
高橋:アルミホイルの色なんですね?
森:そうですね。
高橋:アルミホイルを吹き付けたけど、こっちはこの。
森:黄色い。もともと黄色い。
高橋:黄色の色が見えるので、金紙のように見えると。
森:はい。これは裏ですね。
高橋:こっちが裏?
森:はい。
高橋:これで太陽の光を受けて光で進むというのがね、なかなかピンとこないんですけれどもね。
森:はい。鏡のようにちょうどこれだと自分の顔が映りますけれども、ちょうど光を受けてそれを鏡のように跳ね返すので、その反作用で進んでいくんですね。
高橋:ねー、僅かな力でも宇宙空間では推進力になるんですね。
森:そうですね。24時間365日ずっと太陽の光を受け続けられますし、また宇宙には空気抵抗がないので、一旦加速するともうそれはずっと蓄積されていくので、最終的にはどんどんどんどん加速して、理論的には光の速度まで達します。ポテンシャルとしては、世界で最も速い宇宙船になるというポテンシャルは持っています。
高橋:太陽から遠ざかっていっちゃったら駄目ですよね?
森:うん。でも光がある限り押されるので、最終的には光の速度になるまで加速されますよね。その意味で光よりも速いものはないということで、これは宇宙で最も速い宇宙船になると考えられます。
高橋:なるほど、そうなんですね。この宇宙セイル自体は、こうやって薄くて軽くて丈夫で、しかも光を反射すると、そういうものであれば何でも良いんですか?
森:そうです。そういうものがあれば何でも良いです。但し、実質的には特に宇宙の厳しい放射線とか紫外線とかの環境に耐えられる膜という条件が特に厳しくて、このポリイミドの膜以外には現実には見つかっていないなあというところです。
高橋:これは放射線にも強いんですか?
森:そうです。例えばプラスチックとか薄くできますけども、ああいうのをもっていってしまうと紫外線とか放射線にやられて直ぐにボロボロになってしまう。
高橋:何でこれはボロボロにならないんですか?
森:これはそういう丈夫な膜があるということなんですね。実は、この生産が日本は世界でも圧倒していまして。
高橋:日本製なんですね?これ。
森:これ日本製です。日本のシェアは世界一になっておりまして。
高橋:じゃ、地上では普段どういうものに使っているんですか?
森:例えば電子回路なんかの絶縁基板なんかでよく使われます。例えばノートパソコンとかで折れ曲がったところのハーネスなんかで。
高橋:こういうのが使われているんですか。丈夫だから?
森:はい、そうです。
高橋:このIKAROSが打ち上げられたのは2010年の5月で。
森:はい、そうです。
高橋:金星探査機「あかつき」と一緒だったんですよね。当時はやはり世間の関心というのは金星探査機のほうに向かっていまして、IKAROSについては報道もあまりされなかった。
森:そうですね。
高橋:これ実証機という位置づけで、報道する側からすればですね、ちょっと「あかつき」に比べれば一格落ちるという感じがしたんですけれども、当事者としてはいかがでございましたでしょうか?
森:はい。もともとIKAROSが打ち上がる経緯がそうなんです。「あかつき」をM-Ⅴロケットという固体ロケットで打ち上げる計画でした。ところがこのM-Ⅴロケットが廃止されることになってしまいまして、その後もっと大型のH-ⅡAロケットで打ち上げが決まりました。
高橋:はい。
森:H-ⅡAロケットですと能力的にもっと大きいので、何か別の宇宙機が載せられるということで急遽決まったのがこのIKAROSなんです。
高橋:あー、「あかつき」のおかげなんですね。
森:はい。もともとおまけミッションという位置づけになります。
高橋:IKAROSの打ち上げる目的はどういうことだったんでしょうか?
森:こちら四つのミッションが今出ていますけれども、この四つをやることでソーラー電力セイルを実証しようということになります。まず一つ目が、大型で薄いセイルを宇宙で展開・展張するというものです。
高橋:拡げるということですね?
森:そうですね。その拡げた状態を維持するのを展張と呼んでいます。大型というのは、これ実際にはIKAROSのセイルの膜は一辺14mの正方形になります。打ち上げる時にはこの真中の本体ですね、これ円柱型をしていますけど、円柱の側面に巻きつけられていまして、これを打ち上げた後宇宙空間でこれを拡げるというのを展開と、その拡がった状態を維持するのを展張といっています。
高橋:はい。
森:2番目が薄膜太陽電池による発電ということで。
高橋:先ほどのお話ですね?
森:はい、そうですね。この薄い太陽電池で発電をして、その発電性能を評価するというものです。
高橋:はい。
森:3番目がソーラーセイルによる加速実証。これは実際に太陽の光を受けて進んでいくか、そのことを確認しようというものなんです。最後にソーラーセイルによる航行技術の獲得。これは帆の向きを傾けると、太陽の光から受ける力の強さが向きが変わります。そうすると傾けることによって軌道が変わって行きたい方向に行けるんですね、これで。
高橋:ええ。
森:そうすることでまずその制御の技術を獲得して、更にその後それが本当に軌道が変わったかということを軌道決定して確認するという、この一連のプロセスを経てこのソーラーセイルによる航行技術を獲得するというふうに考えています。
高橋:実際に打ち上げられて、最初の試練はこの最初の拡げるというところですね?
森:はい、そうです。
高橋:拡げ方、どうやって拡げたんですかね?
森:はい。まずこの四つのミッションの中で最も難しいのが、この拡げるものだというふうに考えていました。
高橋:はい。
森:最初にポイントをお伝えしますと、IKAROSのこのセイルの膜にはマスト、いわゆる支柱がないんです。
高橋:ヨットだと支柱があって帆がこうなりますね、海のヨットだとね。
森:はい、そうです。それはないのでIKAROSはどうやって帆を張っているかというと、実はこれは回転しています。ぐるぐるぐるぐる回転していると。その回転の遠心力で帆が張られています。先に錘が、ちっちゃい錘が付いていますけれども、この錘で膜を引き出していて。
高橋:本当だ、小さな錘が付いています。はい。
森:はい。その遠心力で引っ張って、ちゃんと膜を張っている状態を維持しています。それをどうやってじゃ拡げるかということですけれども、まずどうやって畳んでいるかというのを紹介しますね。これIKAROSの。
高橋:模型なんですか?
森:簡単な模型ですけれども。
高橋:拡げると、これと同じ形になる。
森:はい、同じになりますね。これをどうやって折っているかというと、山・谷、山・谷と、山折・谷折、山折・谷折と続けていくと、こういう形で短冊状に4つの短冊状のものができますね。
高橋:本当ですね。
森:これをこの円柱の本体の側面にぐるぐるぐると巻き付けるということをします。
高橋:ええ。
森:これで収納状態、畳んだ状態になります。
高橋:はい。
森:この状態で打ち上げられます。
高橋:はい、はい。
森:これを宇宙空間に行って回転しながら展開するというものなんですけれども、それを動画で見ていただきましょうか。
高橋:はい。
森:こちらですね。まず最初に錘を切り離しまして、これ何もないとバラバラと解けていってしまうんですけど、ここにガイドがあってこれでこれ以上展開が進まないように止めています。
高橋:あー、だから錘がある一定の場所にいてくれるわけですね?
森:はい、そうです。それでスピンをしていって、段々段々このガイドを少しずつ進めていくと、その分だけ膜が繰り出されてくるというものなんです。
高橋:あー、なるほどね。
森:これでゆっくりゆっくり開いて。
高橋:これは、CGですよね?
森:そうです。
高橋:現実に撮ったわけじゃないですよね?
森:はい。現実にも写真はちゃんと撮っているんですけれどもこれはCGで、これで最終的に十字の形まで来る、ここまでを一次展開と呼んでいます。
高橋:はい。
森:それで実際写真を撮って、これもCGなんですけれども、実際にはIKAROSの横にモニターカメラという四つのカメラが付いていて、その4方向それぞれ見渡せるようになっています。
高橋:はい、はい。
森:それで膜が繰り出されていく様子の写真を撮って、少しずつ確認しながら展開を進めました。段々段々伸びていっているの、これ分かりますかね?
高橋:はい、はい。
森:それで今十字の形までなったという。
高橋:後は拡がっていくんですね、この後は?
森:はい。このバーを、ガイドを倒してあげると、パターンと今倒します。そうすると膜がバラバラバラと出てきて、最終的にはこういった四角い膜になるというものなんです。
高橋:これは、こういう畳み方が良いんだということは、どうして分かったんですか?
森:これはですね、もういろいろ実験をやって、このところまで辿り着きました。
高橋:最初から分かっていたわけじゃないんですね?
森:はい、そうです。これはとても難しくてですね、今スピン方式で展開するというふうにお話ししましたけれども、他の国でやられている、海外でやられているのは、主にマストを伸ばしていくタイプで、マストを伸ばしながら段々膜を拡げていくということが検討されています。
高橋:ええ。
森:それでマストを伸ばしていくと均等に伸ばしていけるので、こちらは比較的簡単なんですね。ただ、これをやってしまうとマスト自身が重いので、将来大きい膜を作ろうとすると不利になってしまうんですね。スピン型は軽量なので、大きい膜にも対応できて有利だというふうにされています。なので、われわれは敢て難しいこのスピンの方式を採用しました。
高橋:ええ。
森:それでスピンの方式が難しいのは、展開するときに少しでもバランスをアンバランス、対称じゃないふうに開いてしまうと、コマも同じですけどバランスを崩しますよね。
高橋:あー、はい、はい。
森:何というんですかね、首振り運動をして倒れてしまいますよね。そうならないために、完全に対称である必要があるんですね。それを遠心力だけで、あとを全く使わずにやるということで、これはもうひたすら実験で試すということをやりました。具体的にはですね、まずはこういう紙でいろいろ折りました。
高橋:あー、いろんな案があったんですね?
森:はい。
高橋:これ全然形が違いますね。
森:はい。五角形のようなものであったり、こういったものであったり、あとこんな変わった形のものもありますね。
高橋:あー。拡げてこういう形になるものも考えられた?
森:そうですね。はい。IKAROSは最終は四角の形になったんですけども、これに行き着く途中でこういった五角形のものあったりこういったものであったり、こちらも面白いので拡げてみて下さい。
高橋:これ、引っ張るだけで、あー、すごいですね。こんなふうに拡がるんだ。
森:そうですね。
高橋:でもこれは四角じゃなくて六角形の。
森:はい、そうですね。なので形とか折り方とかいろいろ試行錯誤を経て、まずはこういう形で折り紙を使って試しました。
高橋:これ、引っ張るだけでいい。それは遠心力があれば広がる。
森:はい。綺麗にばーと最初に拡がると。
高橋:ちょっと上手く元に戻せない。閉じるのが難しいですね。拡げるのは簡単ですけど。
森:はい。もうこちらの、こちらも同じように拡がりますね。
高橋:これもいきますか。じゃ、これで引っ張るだけど、おー、これも六角形タイプですね。
森:はい、そうですね。
高橋:じゃ、六角形が良いか、四角が良いのか、四角プラス何か変なのが良いのか、いろいろ考えられていたわけですね?
森:はい、そうですね。この時に日本の伝統文化である折り紙が非常に役に立ったなあと思います。
高橋:そうなんですね。面白いですね。これは丸でした。
森:はい。それで、まずいろいろ候補を出した後に、今度は実際に薄い膜を折って回転させて拡げるという実験をやりました。その実験の映像を幾つか見ていただきたいと思います。
高橋:はい。これはどういう場面ですか?
森:これはですね、真空槽で上から落っことしている、今下から見ているんですね。上から落っことして、落ちてくる間に無重力になりますので、しかも真空槽ですので空気抵抗もなく無重力でばっと拡がる実験をここでやっていると。
高橋:これはもう拡がっているから、実験成功ですね?
森:はい、そうです。まあ、何とか拡がるということで。これはサイズでいうと、端から端までが80㎝ぐらいのものになります。
高橋:はい。
森:それで扇子の形のような折り方のもので実験した映像なんですけれども、80㎝ぐらいということで、まずはこういう小さいサイズでエクササイズしました。ただ、最終的には一辺14mの膜ですので、これだとまだまだ不十分ということで段々大きくしていきます。
高橋:はい。
森:次に考えたのが、真空槽ではなくて今度は大気球。気球を使って上空までもっていって、それで落下させる実験を行いました。その動画を見ていただきたいと思います。こちらですね。今グルグル回していて下にばーと落としていくと。
高橋:あー。
森:これ下が海なんですね。気球の上から見ていて、下に落っことしていくと。これも最初ばっと拡がって、あとグシャグシャって解けて。
高橋:そう、くしゃくしゃになっています。
森:あとは空気抵抗を受けちゃうんですけど、しばらくの間は空気抵抗がない。しかも落下している状態なので無重力状態で拡げられるということで、こういった実験をやりました。このサイズは、端から端までが4mになります。
高橋:だいぶ大きいんですね。
森:はい、ここの端からこの端までが4mで、かなり大きい実験ができました。更にもっと大きくするために、今度はロケットを使います、小型のロケットです。高さが7~8mの高さのロケットで、これを飛ばすと数分間宇宙空間にいられて、あと落ちてきてしまうんですけど、その数分間の間に拡げる実験をやりました。これは先がロケットの先端で、今ロケットの1番下側から見ているんですね。
高橋:はい。
森:今太陽の光を受けていて、グルグル回っているのは太陽の光が入ったり入らなかったりしているからですけども、これで膜をどんどんどんどん拡げていっているところです。
高橋:ほー。拡がってきましたね。
森:はい。
高橋:ここまで拡がるんですね。
森:はい、これクローバー型です。今こちらの膜と同じものですね。こういったものを拡げる実験をやりました。
高橋:はい。
森:これでここからここまで、端から端まで10mということで、だいぶ大きくなってきました。
高橋:あー。これだけ伺っていると、すごく順調に実験が。
森:上手くいったのだけをご紹介しているわけで、失敗は山ほどしています。
高橋:そうなんですか。
森:はい。
高橋:拡がらないのもあったんですか?
森:はい、いっぱいありますね。そうですね。
高橋:それは形が悪かったとか?
森:そうですね。形が悪いやつだと、もう左右アンバランスに拡がってしまうので、姿勢を崩したりしてしまいますね。そういったものも幾つもやって、ある程度候補は絞られていくんですね。
高橋:ふむふむ。
森:それで候補を絞ったんですけど、全部短い時間の実験なんですね。無重力で実験をやろうとすると。
高橋:短い時間しかできないものですからね。
森:そういう制約が出てしまうので、やっぱり大きい膜をゆっくりと拡げたいと、そういうことをやると幾つか工夫が必要です。ちょっと工夫してやった実験がこちらです。
高橋:はい。
森:こちらですね、スケートリンクの上で拡げました。
高橋:スケート場ですか?これ。
森:はい。この先に付いているのが、これはカーリングのストーンなんですね。オリンピックで有名になったストーンです。これは殆ど摩擦なく滑ります。
高橋:よく滑るんですね、氷の上をね。
森:これは先端マストの錘の代わりになっていて、これでグルグルこの遠心力で引っ張りながら膜を拡げていくという実験をやりました。
高橋:へー。
森:これは実際の四角のこの形ですね。
高橋:もうこれが良さそうだと分かって?
森:はい、もうだいぶ最後のほうの実験ですね。
高橋:スケート場でやってみたと?
森:はい、そうです。端から端までは、だいたい10mぐらいのものです。
高橋:そんなに大きいんですか?これ。
森:はい。もうだいぶ大きくなってきました。
高橋:スケート場でやって、初めて分かったことはあるんですか?
森:はい。いっぱいあります。例えばですね、一例をお伝えしますと、先ほど展開する時にこれですね、何もないとばーと一気に拡がっちゃうのでガイドで止めていて、それでこのガイドを少しずつ動かすことで展開するというふうにお話ししました。
高橋:はい。
森:ところがですね、これよく考えると分かるんですけど、これ引きずっちゃうんですね。分かりますかね?
高橋:あー。
森:膜が出て来ずに引きずっちゃうんですね。
高橋:ええ。
森:なので、ここをなるべく摩擦を減らしてあげるとか、あとはこの半径を上手く調整してあげないと駄目ですね。そうすると綺麗に引き出されますよね。そういうことを一つずつ潰していったんですね、こういう実験で。これは5分ぐらいの実験なんですけれども、準備するのは2週間ぐらいかかるんですね。
高橋:2週間ですか?
森:はい。スケート場が夜しか借りられなくてですね、夜中で本当に寒いですし、これ殆ど失敗なんですね。
高橋:そうなんですか。
森:30回ぐらいやっても2回ぐらいしか成功しなくて、もう殆ど泣いて帰っていました。
高橋:まあ、そういうご苦労があったんですね。だけど実際に打ち上げたら、打ち上げから2週間後ですか?この展開をさせたのが。
森:はい、そうです。
高橋:そして、見事に成功したと。
森:はい、そうですね。もちろん散々失敗して改良に改良を施してありましたので、宇宙という一発勝負の舞台では見事に成功することができました。
高橋:その時に写真も撮ったんですか?
森:そうです。その時に写真を撮ったので、その画像を見ていただきたいと思います。
高橋:今度はCGじゃなくて。
森:はい、これは本物です。
高橋:宇宙空間で。
森:実際に撮った写真ですね。
高橋:このIKAROSにカメラを積んでいったんですね?
森:そうです。
高橋:これ、確かに四角く。
森:はい、同じ形に見えますよね。これどうやって撮ったのかというふうに思うかもしれないですけども、これはですね、カメラを切り離して飛ばしているんですね。飛ばしたカメラが自分を振り返って撮っています。要するに、携帯カメラか何かで自分撮りとかしますよね。
高橋:あー、こうやって手を伸ばして。
森:はい、あれと同じような感じですね。実際には飛んでいく間に何枚も写真を撮っていますので、連続写真になっています。これですね、こういった形で離れていく時にどんどん写真を撮って、それを送っていっているんです。最後は段々段々遠くなっていっているんですね。
高橋:ちっちゃくなって。
森:最後見えなくなりますけれども。
高橋:で、そのカメラは「さようなら」なんですか?
森:そうなんです。
高橋:データだけは地球に送ってきて。
森:そうですね、はい。わたしはもうこの画像を撮るのがすごくインパクトがあるだろうと最初から思っていまして、これは何としても成功したいなと思って、実は2個カメラを載っけているんですね。
高橋:あー、そうなんですか。
森:必ず成功したいと。これが撮れれば、もう世界は10年は日本に勝てないんじゃないかと思わせられるということで、もう会心の一撃の写真でした。
高橋:なるほど。
森:本当に、惑星間のこういう宇宙空間で、何ていうんですかね、膜がキラキラ光っていますね、ここだけ。真っ暗な闇の中でここだけキラキラ光っていて、これを見た時は本当に感動しました。
高橋:これ私は、ガスレンジのアルミホイルを思い浮かべちゃうんですけども、(笑い)女性だとそういう方が多いんじゃないですか?
森:そうかもしれないですね。
高橋:すみませんね、夢を壊すようなことを言って。
森:いえ、いえ、いえ、いえ。
高橋:もう一つのミッション、2つ目が太陽電池がちゃんと動くかですね?
森:はい、そうです。
高橋:これは直ぐ確認できて。
森:そうですね。拡がると薄膜の太陽電池が出てきますので、この辺に付いていますけれども。これが出てきますので、直ぐに発電が確認できました。それで定期的に発電をしていまして、宇宙でどういうふうに劣化していくかという、そういうデータもちゃんと取れています。
高橋:ずっと発電しているんじゃないんですか?定期的というのはどういう意味?
森:ご免なさい。ずっと発電しているんですけども、データを取るのを定期的にしています。それで発電の性能が少しずつ変わっていくのを、ちゃんとデータとして取っていくと。そうすると宇宙空間でどういうふうに劣化していくかといったことも正しく評価できる。
高橋:それから3番目のミッションは何でしたっけ?
森:3番目は、太陽の光を受けて実際に加速するかというものなんです。これを開いた直後から、このIKAROSの速度が変わっていっているのが確認できます。開く前までは一定の速度で動いているんですけれども、開いた後から少しずつ速くなっていっているんですね。その速くなっていっているところからどのくらいの力で押されているか逆算できますよね。
高橋:はい。
森:その逆算した値が、具体的には0.1gという弱い力なんです。
高橋:へー。
森:0.1gというのは、1円玉1個が1gですので、0.1個分という非常に弱い力なんですけれども。実は一辺14mの帆で太陽の光を受けると、0.1gの力を受けるということは分かっていたんですね。
高橋:計算で分かっていた。はい。
森:なので、見事にそれに一致したということで、間違いない世界初のソーラーセイルだということが分かりました。これで三つですね。最後に四つ目で、更にこの向きを傾けて、向きを傾けると軌道が変わります。それを実際に軌道を決めてあげて、確かに軌道が変わっていっているなということが確認できて、一連のプロセスが全て確認できて、この航行技術を獲得できました。
高橋:そうすると昨年10月に打ち上げて、この四つのミッションを全てできたと確認できたのが。
森:12月ですね。
高橋:12月ですか。まあ、「はやぶさ」君ほどのドラマはありませんでしたけれども、世界で初めてこれが達成できたというのは、もうちょっと知られていいですね。
森:是非いろいろなところで知ってもらえると、嬉しいなあと思っています。
高橋:ただ、これができると確認できたのでIKAROSのミッションは達成なんですけども、われわれ一般国民としてはそれでいったい何をするのというところが関心の的ですよね。
森:はい、そうですね。
高橋:宇宙ヨットを使って何をしようとしているんですか?
森:これを使って、次にこの帆を10倍の面積にしたソーラー電力セイル探査機を作ろうとしています。
高橋:実証機じゃなくて、今度は探査機。
森:そうです。それで向かう先は木星と、更にその先にあるトロヤ群小惑星というところに行きます。トロヤ群小惑星というところは、まだ人類がどこの国も行ったことがないという未踏の地です。
高橋:あー、そうなんですね。
森:はい、そこを目指します。
高橋:木星は今までNASAの探査機がいろいろ行っていましたよね、ガリレオとか。
森:はい、そうです。
高橋:それと比べて、このIKAROSの良いところはあるんでしょうか?
森:これはですね、ガリレオとか他にもボイジャーとかいろんな探査機が。
高橋:はい、最初はパイオニアでしたっけね。
森:そうですね。いろんな探査機が行っていますけれども、全てガスジェットで行っています。ガスを噴かして、その反動で進んでいるんですね。
高橋:はい。
森:ですので、沢山のガスジェットを積んでいるので、その分質量をそこに取られてしまうんですね。ですけども、こういった宇宙ヨットの仕掛けがあると、そもそも燃料を使わずに飛んでいけるということで、すごくメリットがあります。更に次の計画では、イオンエンジンも搭載します。
高橋:イオンエンジンは、「はやぶさ」君に積んでいったエンジンですね?
森:そうです。あれも非常に燃費が良いエンジンなんですね。普通のガスジェットに比べて、「はやぶさ」の場合は10倍燃費が良いイオンエンジンを使います。なので、10分の1で燃料が済むんですね。
高橋:はい。
森:次の木星の計画では、その「はやぶさ」よりも更にもっと効率の良いイオンエンジンを積んで、ソーラーセイルで進む効果とイオンエンジンで進む効果のハイブリッドな推進。
高橋:またまたハイブリッドですね。
森:それで行くことで、殆ど燃料を使わずに行けるんです。なので、木星だけでなくて、その先の小惑星まで行けるという仕掛けなんです。
高橋:なるほど。
森:木星に行くと電気を使いますよね。電気をどうやって獲得するかという問題があります。
高橋:それは太陽電池なんですよね?
森:はい。太陽電池なんですけど、木星というと遠いので広い面積の太陽電池が必要になってしまいますね。
高橋:はい、はい。
森:ですので、昔は太陽電池ではなくてですね、ガリレオとかボイジャーとかは原子力電池でやっていました。太陽電池を積んでいないんですね。
高橋:あ!そうなんですか。
森:但し、最近は安全性の問題とかもありまして、2011年8月に打ち上げられた木星探査機ジュノーというのがあるんですけれども、これはアメリカで打ち上げました。
高橋:NASA ですか?
森:はい、NASA です。こちらでは大きな大きな太陽電池を積んでいったんですね。ですが、大きな太陽電池だと大変ですよね。われわれはもともと大きいソーラーセイルを拡げるので、そこに薄い太陽電池を貼っておくと。こういった計画にすることで、電気にも困らないと。しかも燃料は太陽の光とこちらに積んでいるイオンエンジンで進んでいく。これがわれわれの日本流の木星探査だというふうに考えています。
高橋:それはいつ頃できるんですか?時期的に。
森:今のところ2019年の打ち上げを目指しています。
高橋:かなり先になりますね。ちょっと素朴な疑問なんですけども、一旦拡げたら閉じるということはできないんですよね?
森:はい、今の仕掛けではできないですね。
高橋:それで困らないんですか?
森:よく遠ざかることしかできないんじゃないかというふうに思われますけれども、これはですね、ちゃんと膜の向きを傾けてあげれば、太陽に近づくこともできるし遠ざかることも両方できるんですね。なので、勝手に遠くへ行って困るということはないです。上手く向きを傾けてあげれば、両方できますのでそれはないんです。どうしても光が要らなくなったら切り離してしまえばいいんですけど。
高橋:あ!帆を取っちゃう。
森:帆を切り離しちゃうということも考えられますけれども、こちらの場合は太陽電池を貼り付けてあるので、切り離すとちょっと困ってしまうんですけれども。
高橋:あー、そうですね。
森:その代わりイオンエンジンを使ってそこを上手く・・
高橋:調整する。
森:もっと細かい部分、きめ細かい制御はイオンエンジンでやってあげるということができるんです。
高橋:IKAROS 君はまだイオンエンジンがないから、そこの細かい制御はまだ苦手という感じですね。
森:そうですね。ですが、次の計画ではイオンエンジンを使うことでもっと大きな推力も得られますし、更にイオンエンジンは点けたり消したりができますし、更に向きも少し変えられますのできめ細かい制御ができるというものです。
高橋:これは先行していた外国のプロジェクトを追い抜いて1位になったということでしたけれども、先行していたプロジェクトは何が上手くいかなかったんですか?
森:主に打ち上げですね。
高橋:あ!最初のところで失敗しちゃうんですか?
森:そうですね。最初に打ち上げられたソーラーセイルは、2005年にアメリカの惑星協会がコスモスⅠというのを打ち上げました。この時に打ち上げに失敗してしまうんですね。更にその後に2008年にはNASA がナノセイルDという、やはりソーラーセイルを打ち上げるんですけれども、こちらも失敗します。
高橋:ほー。
森:そうこうしている内にIKAROSが先に成功しました。米国の惑星協会もNASAもどちらもリベンジを考えていまして、NASA は昨年その2号機を打ち上げたんですね。ナノセイルDⅡというものを打ち上げました。これも最初上手くいかなかったんですけれども、今年1月になりましてなぜか動きだしたということで、それで展開に成功しまして世界で2番目のソーラーセイルになりました。
高橋:大きさは同じようなものなんですか?IKAROSと。
森:もっとずっと小さいですね。IKAROSはだいたい200㎡になりますけれども、ナノセイルDⅡは10㎡なので、面積でいうと20分のⅠになります。
高橋:ずっとちっちゃいですね。
森:そうですね。
高橋:はー。何となく気持ちが良いですね、やっぱり。(笑い)まだしばらくお話を伺いたいと思いますけども、一旦ここでコマーシャルを入れます、コマーシャルです。
~CM~
高橋:「科学朝日」本日のゲストはこの方、宇宙航空研究開発機構JAXAのIKAROSプロジェクトチームリーダーの森治(もり・おさむ)さんです。ここまで宇宙ヨットIKAROSのお話いろいろ伺ってきましたけれども、このIKAROSの技術というのは地上でエコにも役に立つということなんですね?
森:はい、そうです。このセイルの膜に搭載されている薄い膜の太陽電池なんです。
高橋:はい。
森:このIKAROSでは、アメリカ製の太陽電池で厚さは25μmなんですね。
高橋:あれ?太陽電池はアメリカ製なんですか?
森:はい、そうなんです。ですけれども、次の計画に向けて国内メーカーと一緒にもっと薄くてもっと効率の良い、そういう薄い膜の太陽電池を開発しています。
高橋:太陽電池って、薄いほうが良いんですか?
森:そうですね。地上で使う場合は、あまりそういう使い方をこれまでしてこなかったんですけれども、逆にそういう薄いものが地上で出回るようになれば、そこら中に貼っておけますよね、貼っておいて発電できるようになるということで。
高橋:あー、そういうことですね。
森:はい。そうすると太陽電池に対する考え方が全く変わってくるというふうに思います。
高橋:つまり窓ガラスなんかにも貼っておくと?
森:はい。もっと、変わったところ、例えばランドセルに貼ったりとか、曲面ですね。そういうところにも貼っておいて自由自在に発電できるようになると、全然考え方が変わってきますよね。
高橋:それ面白いですね。どんなところにでも貼れるようになるわけですね?
森:そうですね。
高橋:今のこのIKAROSに使っている薄い太陽電池、アメリカ製の太陽電池もそういうふうに曲げたりして使えます?
森:できます。ただ、効率が悪いので、それをもっと効率良くしたりですとか、もっと薄くしたりですとか、更にもっと安くして大量に出回るようになれば、産業や環境に大きく貢献できるんではないかというふうに考えています。
高橋:それは楽しみですね。最初からわたしちょっと気になっていたんですけれども、森さんはチームリーダーでいらっしゃって大変お若いんです、見た感じ。
森:ありがとうございます。
高橋:失礼ですけども、お歳お幾つでいらっしゃるんですか?
森:今年で38歳です。
高橋:38歳ですか。肩書きをお伺いしたら、正式には「月惑星探査プログラムグループ助教」なんですね?
森:はい、そうです。
高橋:助教というのは、昔の大学でいうと「助手」というのにあたるわけで。
森:そうです。
高橋:それでプロジェクトリーダーというのは、JAXAとしても画期的なことだったんじゃないんですか?
森:そうですね、他ではないですね。
高橋:やっぱりそうですか。
森:はい。ただ、IKAROSは比較的小さい計画だったということもあると思います。
高橋:チームメンバーは何人ぐらいいらっしゃるんですか?
森:チームメンバーは、中心メンバーとしては10人弱ですね。
高橋:ふーん。
森:それに学生が10人強加わっていまして、だいたいその20人ちょっとぐらいで主にソーラーセイルの開発をしてきました。
高橋:学生さんというのは、大学院生ですか?
森:そうですね、大学院生です。
高橋:幾つかの大学?
森:そうですね。はい、いろんな大学の学生さんが参加しています。
高橋:20人ぐらいをまとめるって、やっぱりいろいろ大変なんじゃないですか?
森:そうですね。ただ、このIKAROSに限らず、実は大学の学生さんたちが手作りしたちっちゃい衛星が既に宇宙に飛んでいる時代なんですね。そういった意味では、年齢の垣根というのはどんどん低くなってきているのかなあというふうに思います。ただ、若い人ばっかりがやってつまらないミスをすると、それは元も子もないので、やはりベテランの職員が後にいまして、それで技術的なチェックを常に受けられると、そういう態勢でやっていました。
高橋:予算も何か非常に乏しかったそうですけれども?
森:そうですね。はい。もともと先ほどもお話ししましたように、おまけのミッションということなので、予算が通常の科学衛星のだいたい10分の1ですね。更に、「あかつき」の打ち上げが決まった後に急遽この計画が決まりましたので、この計画の開始から打ち上げまでが2年半と、他の計画に比べてものすごく短いんですね。それでお金も少くて時間も短くて、じゃ簡単かというと、もともとこれはソーラー電力セイルという木星計画を考えていたんですね。それが非常に難しいということで実験機で最初にやろうと、小さくやろうということで出てきたのがIKAROS計画なのです。すごくチャレンジングなことをやろうとしたので、非常に苦労の連続でした。
高橋:森さんご自身は、その2年半のもっと前から研究されていたんですね?
森:研究自身は10年間ぐらいやっていましたけれども、それは先ほどお話ししましたように、木星に行く計画を最初に考えていて。
高橋:大きな計画だったんですね?
森:はい。それでそれを最初は立ち上げようと思っていたんですけども、技術的に難しいということもあって、まずは小型計画でIKAROSをやろうということなので、非常に難しいことに挑戦したというところなんです。安く早く作るために、まずソーラーセイル以外の他の機器の開発は極力避けました。例えばヒーターですとか、バッテリーですとか、そういったものは極力他のプロジェクトからの流用品を使いまして、そういうところはもう労力を割かないという作戦をとりまして。更に宇宙機の場合通常いろんな試作機を作って、それで本番のフライトモデルというものを作るんですけれども、その試作モデルはもう基本的には作らないと。
高橋:本番で一発勝負?
森:はい、そういうことです。ソーラーセイルの膜とかは少し試作モデルを作りましたけれども、探査機本体は試作のものは作らないということで、時間とお金を節約してこのIKAROSに臨みました。
高橋:その10年前に大きな計画を考えてきたチームのリーダーは、どなたですか?
森:これはですね、「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーである川口淳一郎教授になります。
高橋:川口先生が、そのリーダーもやっていらした?
森:そうです。
高橋:実際に小さいのをやるぞといった時に、森さんに白羽の矢が立ったわけですか?
森:はい、そうですね。小さい計画なので、まあ一つは若手の育成というそういう目的もありましたね。
高橋:へー。手を挙げられたんですか?リーダーやってみたいって。
森:自然に決まっていきました。
高橋:自然に、そこは阿吽の呼吸?
森:はい。
高橋:そうですか。宇宙開発はいろいろ沢山のプロジェクトがあってですね、これから日本はどうしたらいいのか、よく議論になりますよね。先日スペースシャトルが退役して、宇宙ステーションをどうするのかというのは目の前の問題だと思いますし、それから山崎直子さんがJAXAを退職されて、ちょっと有人宇宙飛行も踊り場というか、ちょっとフェーズが変わっていくのかなと私は外で見ていて思います。今後の日本の宇宙開発をどうしたらいいのか、ちょっと大きな問題ですけれども、現場の第一線でプロジェクトをやっていらっしゃる森さんとしては、どんなふうに考えていらっしゃるんですか?
森:まずこのIKAROSの成功を、われわれは太陽系大航海時代の幕開けというふうに位置づけています。要するに、昔コロンブスとかが新しい大陸を発見していろんなところに旅していった、そういう大航海時代をもじってそれを太陽系大航海時代というふうに言っています。こういうIKAROSのような、こういう宇宙船がどんどんできていって、それで太陽系をもっと自由に行き来できる、そういう時代になればいいなあというふうに思います。そのためには、いろいろ挑戦しないと駄目だなあというふうに思っています。IKAROSはやはり世界で初めての宇宙ヨットを実現するというモチベーションが皆で共有されていましたので、いろいろ大変でも頑張れました。そういった高いモチベーションを持って、開発を進めていきたいなあと思います。そして、最終的には例えば宇宙ヨットなんかで実際に乗って、宇宙の。
高橋:人間が乗るんですか?
森:はい。乗って、ヨットのクルージングの旅に出かけられたら楽しいなあというふうに思います。
高橋:でもグルグル回っているんですよ、これ。
森:回さないようにすることはできます。
高橋:できるんですか?だって展開する時回らなきゃいけないんでしょう?あの時の遠心力って結構強いんじゃないんですか?
森:ご免なさい。正確にいうと、次の計画では真ん中は回らないんです。
高橋:え!そうなんですか。
森:周りだけは回ります。次の計画ではちゃんとイオンエンジンを積んでいるので、いろんな観測もするので全体が回るのは具合が悪いので、周りだけ回るようになっています。
高橋:なるほど。じゃ、楽しみですね。本日は、どうもありがとうございました。「科学朝日」この辺で失礼します。
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