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大気中に浮遊する放射性物質の減り方は早い

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

大気中に漂う放射性物質の量は、福島原発事故から1か月で大幅に減った。事故直後から観測態勢を強化し、国立環境研究所と協力して正確な分析結果を公表してきた高エネルギー加速器研究機構(KEK)の測定データを見ると、6月の時点で事故直後のざっと10万分の1になっている。
グラフ1 3月15日以降の放射性物質ごとの大気中濃度(Bq/cm3)の変化=6月30日に高エネルギー加速器研究機構が発表

 KEKのホームページで公表されている左のグラフ1は、縦軸が1目盛りごとに十倍になる対数目盛りだ。一番上の横軸は1立方センチ当たり1×10のマイナス4乗ベクレルの濃度で、一番下が10のマイナス10乗ベクレル。ベクレルは、放射性物質の数を表す単位と考えればいい。放射性物質の総量(黒い線)は、10のマイナス4乗のレベルからマイナス9乗以下のレベルまで、10万分の1になったことがわかる。

 半減期が6.4時間のテクネチウム99m、3.2日のテルル132、33日のテルル129mは早めに姿を消し、半減期8日ながら大量に出たヨウ素131は5月末に見えなくなった。残っているのはセシウムだ。

 もう一つ、このグラフを見て気づくのは、全体として下がってきているものの、その過程では激しく増減を繰り返しているということだ。

 各地のその後の観測値を細かく見ると、地点ごとの大気中の放射性物質の量は急に100倍程度大きくなることがある。茨城大や東京大などの研究チームによると、これは空気の乾燥度と風向きが影響しているという。土ぼこりが舞い上がると、そこに吸着している放射性セシウムも一緒に舞い上がり、風に乗って流れてくる。これが再浮遊だ。セシウムは日本の土壌には吸着しやすく、いったんくっつくとなかなか離れない。だから、地下水にはほとんど出てこない。その代わり、土壌が動けば一緒に移動する。樹木についている放射性物質も、風や雨で居場所を変える。

 こうした気象現象による放射線量の変化を予測するのは、難しい。気象予報そのものが、大量の観測データをもとに高性能スパコンを駆使してもなお、必ずしも当たらないことを見ても、その難しさは十分に想像できる。

 筑波大学大学院の羽田野祐子准教授のグループは、

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