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TPPを脱原発の文脈で語りたい

尾関章 科学ジャーナリスト

 私は科学記者であって、経済記者ではない。だから大きな声では言えないのだが、この秋のTPP(環太平洋経済連携協定)をめぐる動きを見ていて、ずっと違和感を抱いていたことがある。それは、どうしてこの議論に脱原発の話がかかわってこないのだろう、という疑問だった。

 それとこれとは別のこと――その一言で、玄人筋からは一笑にふされるかもしれない。TPPは、今年3月の東日本大震災やそれに続く東京電力福島第一原発事故よりもずっと前から、国論を二分してきた通商問題であり、産業問題であり、外交問題だ。分けて考えるのが常識ではあろう。

 だが、だが、である。「福島第一」の衝撃は、日本社会の行く末を大きく揺さぶろうとしている。かりに私たちが、原子力依存、化石燃料依存から離脱して、自然エネルギー中心の社会を築こうというなら、生産、流通、消費の構図も大きく変わる。そうなれば、グローバル経済との接し方もおのずと違うものになってくるのではないだろうか。

 とりわけTPP参加不参加の議論で最大の論点となっているのは、国内の農業をどう守るかだ。もし自然エネルギー中心の社会をめざすのなら、農業の守り方、あるいは盛り立て方は、その社会設計と密接不可分のはずだと思われる。

 野田佳彦首相は、前任者の菅直人氏ほどに鮮明ではないものの、脱原発の方向性を引き継いでいる。そうであるならば11月中旬、TPP参加に向けて関係国との協議入りを表明したとき、ただ「日本の伝統文化、美しい農村は断固として守り抜く」と反対派に目配りするだけでなく、その美しい農村を脱原発社会のなかに位置づけるという決意を語ってもよかった。

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