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シューカツとソツギョー

須藤靖

須藤靖  東京大学教授(宇宙物理学)

 今年から就職活動の解禁日が10月1日ではなく12月1日になった。その結果、企業側も学生側も短期集中決戦となり、優秀な人材を確保できるか、あるいは本当に自分がやりたい会社が見つかるのか、双方が不安感を持っているというのが、報道の基調らしい。一方、なぜか教育する大学側の意見はあまりとりあげられていないようだ。そこでその立場から考えたことを述べてみたい。

 ただし、あらかじめお断りしておくと、私自身はいわゆる就職活動をした経験がない。しかも現在の所属である理学部物理学科では、2010年度の卒業生および民間企業・官公庁へ就職した人数は、学部は67人中0人、修士課程は106人中36人となっている。このように、学部卒業生のほとんどは大学院進学(2010年度はとくに例外的だったが、通常でも就職するのは毎年2、3人程度)だし、大学院修士課程卒業後も6割程度が博士課程へ進学する(博士課程卒業後の進路については、いわゆるポスドク問題に絡むので今回は触れず、別の機会に譲ることにしよう)。その意味では、学生のシューカツの実態をほとんど知らない世間知らずの教員に分類されよう。それを認めた上で、逆に大学の立場から考えた正論として、臆面もなく自説を唱えさせて頂こう。

 数年前に自分の研究室の学生が修士課程卒業後、金融関係に就職するためのシューカツを横で眺めていて驚いた。シューカツのために修士1年生の秋以降半年以上、研究は二の次だというのである。大学院の修士課程は2年間。したがって、入学後まずいろいろな基礎勉強をし、修士1年生の後半にテーマを絞り、その後1年間かけて何とか修士論文を完成させる。これが平均的なスケジュールである。そのまさにこれからという時期に半年以上にわたり、シューカツをせざるを得ないならば、何のために修士課程に入学したのかわからない。むろん学生には何の責任もないわけで、私も「内定をもらうまではシューカツ最優先で頑張ってね」と激励することになる。

 考えてみれば、理学部のようにほとんどの学生が大学院に進学する分野をのぞくと、学部3年生が主たるシューカツ対象学年。そして、一般に大学では学部を問わず、3年生こそ専門教育の中でもっとも重要となる基礎科目を学ぶ大切な時期のはず。何のために大学に入学したのか、ということにすらなりかねない。

 大学の立場からはこのようなシューカツの現状に危機感をもつのは当然であり、たとえば2008年に大学協会等が経団連に宛てた要請書にも明確に示されている。おそらくこのような背景のもとに今回のルール改正に至ったものと想像するが、世の中では新ルールは学生と企業の双方にとってマイナスという意見が主流のようだ。

 これは結局のところ、世の中が大学における教育をほとんど評価していない、という事実に帰着するのであろう。さもなくば、大切な講義やゼミを半年以上開店休業にしてまでシューカツを優先させることを是とする文化が定着するはずがない。この状況は大学人の一人としては大いに反省すべきものを含んでいる。しかし逆にいっそのこと、シューカツを公式にシステムとして組み込む方向に改革することもあり得るのではなかろうか。

 私は、最近どこかの大学が真剣に検討しているという噂のある「秋入学」に積極的に賛成するつもりは毛頭ない。今のところあまりメリットが見えないからである。しかし、シューカツ問題解消とセットにするのなら有意義かもしれないと思うに至った。たとえば、次のような案はどうだろう? ・・・ログインして読む
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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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