吉田文和
2011年12月13日
京都議定書の延長問題では、延長期間は5年間か8年間とされ、選択の余地を残した。延長は決定文書の中に位置づけられており、正式な改正手続きは来年末のCOP18(カタール)で完了させる。日本は、京都議定書の延長には反対し、数値目標の設定を拒否している。これにより、日本は議定書延長への参加を拒否し、一時的に削減義務の国際体制から離脱することになる。
米中の2大CO2排出国の動向
京都議定書の現状は、世界1位のCO2排出国となった中国が削減義務を負わず、第2位のアメリカが京都議定書から離脱するという状況になり、世界のCO2排出の4割以上を排出国に何らの制約が掛けられていない。しかし、なぜ中国とアメリカがCO2の世界2大排出国になっているかを冷静に分析し、その排出削減に向けた方策を考える必要がある。
社会主義市場経済の中国が、グローバル化した世界資本主義の中心となるという逆説が現実となり、いまや「世界の工場」となった中国のCO2排出は世界一だ。製品を作るときに排出されたCO2という視点から見ると、中国のCO2排出の20%以上は輸出に起因し、日本の国内排出量約12億トンに匹敵する。中国からの貿易を通じた日本自体のCO2の輸入は年間2億トンで、アメリカの7億トンに次ぐ(Steve Davis, and Ken Caldeira, Consumption-based accounting of CO2 emissions, Proceedings of National Academy of Science, March 8,2010)。
アメリカのエネルギー生産性の停滞
他方で、世界第2位のCO2排出国であるアメリカについて、第一の指標である総エネルギー生産性を見ると、エネルギー消費の水準を固定したと考えた場合の生産量は1950年代から1960年代にかけて一定しているが、とくに1970年代後半からの上昇が顕著である。これはアメリカのエネルギー効率が過去数十年で改善されてきていることを示しており、おそらく1970年代の石油危機の影響であると考えられる。
しかし第二の指標、産業エネルギー生産性をみると、同じようなエネルギー効率の上昇は見られない。一つの解釈としては、アメリカの産業構造の変化、すなわち全産業に占める工業の割合が下がり、それらの多くを輸入に代替したというものである。アメリカ経済の平均エネルギー効率は改善したように見えるが、たんにエネルギー効率の悪い工業分野が中国などの外国に移転した結果、輸入製品の製造に使われたエネルギーがこれらの指標に反映されていないだけにすぎない。
むしろ鍵は、CO2排出削減の動機付けを提供する環境規制と、グリーン投資との協働にあり、経済をグリーン開発の方向に誘導することにある。2009年に議会で審議されたクリーン・エネルギーおよびエネルギー安全保障法案(ACESA)では、低炭素経済を確立し、再生可能エネルギーへの投資を促進する環境規制の枠組みが示されたが、共和党の反対が強く、成立しなかった。
このように見ると、問題は、世界の工場としての中国の位置と役割、そして、アメリカや日本、EUが安い中国製品を輸入する構造がある。アメリカ自身も自動車をはじめ石油製品を多用する経済を低炭素経済へ向けて移行しなければならない。
したがって、2050年に温室効果ガスの排出を半減するという目標で一致するならば、日本とEUの立場は、先進国が必要とされる2020年までに25~40%の削減という目標を降ろさず、米中などの主要排出国の削減を促し、協力する枠組づくりに努力することである。
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