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事故と隣り合わせの修学旅行ダイビングツアー~このままではダメだ

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

 11月末、沖縄の離島に、SCUBAダイビングに行った。本当は、3月末に行く予定だったが、震災の影響で延期せざるを得なかった。また、夏は会社を解雇されたり、放射線検出器の会社を立ち上げたりと、バタバタして予定が立たず、結局、この時期になってしまった。

拡大沖縄の海を泳ぐバラクーダ(オニカマス)の大群とダイバー=提供写真

 天気にはあまり恵まれなかったものの、久しぶりの沖縄の海はやはり美しく、合計9本のダイビングを堪能できた。しかし、見たくない光景も目にしてしまった。それは、「ダイビング業界の闇」が顔をのぞかせた瞬間だった。ダイビングと沖縄の海を愛する者として、見過ごすことができない思いで筆を執った次第である。

 筆者がダイビングを楽しんでいたその島に、どこかの高校の修学旅行生たちがやって来た。数百人しか住民がいないその島は、若者たちで溢れ、一気に賑やかになった。

 ところが、彼らが来た翌日は、朝から暴風雨の荒れた天気になった。民宿のご主人は、「修学旅行生が来ると、いつも海が荒れるんだよね。ジンクスみたいだ」と言った。彼らにとっては一生に一度の修学旅行なのに、気の毒なことだ。

 筆者は、その朝の暴風雨を見て、お世話になっているダイビングサービスに電話をかけ、「午前中のボートダイビングは中止したい」と伝えた。雨が降ってもダイビングには支障はないが、問題は風である。海には大きな白波が立ち、小さなダイビングボートの操船は難しくなる。また、ダイビング開始時のボートから海へのエントリー、終了時のエクジットの瞬間は、ボートが大波に煽られ、非常に危険となる。また、ダイビング中の強風によって、ボートのアンカリングがはずれ、ボートが流される懸念もある。

 ところが、修学旅行生たちは、この悪天候の中を、ボートでスキンダイビングツアーに出かけたのである(スキンダイビングとは、タンクを用いず、マスク、シュノーケル、フィンのみをつけて行う、いわゆる「素潜り」である)。

 ダイビングボート一艘あたり、約15人の高校生をギュウギュウに詰め込み、大荒れの海に、次々と出航していった。しかも、船長以外の引率者がいないボートも多かった。つまり、船長がガイドダイバーを兼任し、15人の高校生スキンダイバー(間違いなく全員ピッカピッカの初心者だろう)を引率するのである。これはいくらなんでも無茶苦茶である。

 SCUBAダイビングにおいては、1人のインストラクター(またはガイドダイバー)が引率するダイバーは6人、アシスタントを1人つけたとしても多くて8~10人が限度だろう。良識あるダイビングサービスなら、その上で、船の上からのウオッチャーをつける。しかも、ダイバーは、講習を受けて認定証を持っている者に限られる。そうした上でさらに、天候が悪くて海が荒れれば、ダイビングは中止するのが常識である。

 もしかしたら、スキンダイビングは、SCUBAダイビングより危険性が少ないから、「問題はないのでは?」と思われる方もおられるかもしれない。潜在的な危険性からすると、その理屈にも一理ある。なぜなら、SCUBAでは、本来なら人間が生存できない水中に長時間潜るため、何かの拍子に呼吸装置(レギュレータ)が口から外れたり故障したりすれば、死亡事故へ直結するからだ。

 しかし、それが故に、ダイバーになるためには座学を10時間行い、プールや安全な海域で潜水のトレーニングを積み、潜水器具の取り扱い方法を体得し、アクシデントへの対処方法を学ぶのである。

 ところが、スキンダイビングは、トレーニングも認定証取得も必要なく誰でも気軽にできる。そこが怖いのである。その上、海洋は大荒れだ。彼らは、ボートからのエントリー、エクジットの際、マスク、シュノーケル、フィンのスムーズで正しい脱着ができるか?シュノーケルに水が入ったときのクリア方法(二種類ある)を知っているだろうか?マスクに水が入ったときクリアできるだろうか?海水面で泳ぐための正しい姿勢が取れるか?正しいフィンキックができるか?

 海洋では、ほんの些細なアクシデントで、人はパニックに陥る。誰か一人がパニックになったら、ガイドはその人の救助に付きっきりになるだろう。そして、さらにもう一人パニックになったら、もう助けることはできない。重大事故は、そのようにして起きる。

 幸いこの日、100人規模の初心者高校生スキンダイバーに、事故者は出なかった。しかし、これは、「単なるラッキー」だったとしか言いようがない。このようなことを続けていたら、いつか必ず事故は起きる。

 もし、事故が起きたら、まず、引率していた高校の教員たちの責任が問われる。それと共に、甘い海況判断でボートを出し、プアな安全体制で高校生たちにスキンダイビングを行わせた島のダイビング関係者(*)に重い責任が課せられるのは間違いない。そして、事故の風評が、この島のダイビングを廃れさせてしまうだろう。この島を気に入っている筆者としては、それはとても悲しいことだ。

 修学旅行とは何だろうか? 単に遠くまで出かけて、予め決められた(遊びの)スケジュールをこなせばいいのか? そうではないだろう。多くの高校生が初めて離島を訪れ、天候が悪化した。このような時は、「自然の脅威に敬意を払って予定を変更する」することも「修学」の一つではないのか?学校関係者および島のダイビング関係者に猛省を求めたい。

(*)このような修学旅行生の受け入れに反対しているダイビング関係者も存在することを明記しておく。ただし、一旦事故が起きれば、島全体が風評被害を受けると思われる。

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筆者

湯之上隆

湯之上隆(ゆのがみ・たかし) コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

1987年京大修士卒、工学博士。日立などで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、各種雑誌への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。 【2016年8月WEBRONZA退任】

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