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【科学朝日】これからどうなる?土地の放射能汚染 (collaborate with 朝日ニュースター、12月22日放送)

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 朝日グループのジャーナリズムTV「朝日ニュースター」は、通信衛星などを利用して24時間放送しているテレビチャンネルで、ケーブルテレビ局やスカパー!などを通じて有料視聴することができます。4月から始まった新番組「科学朝日」は、高橋真理子・朝日新聞編集委員がレギュラー出演する科学トーク番組です。WEBRONZAでは、番組内容をスペシャル記事としてテキスト化してお届けします。

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ゲスト 筑波大学教授 恩田裕一さん

高橋:こんばんは。科学の最先端にひたる『科学朝日』。案内役の高橋真理子です。本日取り上げるテーマは、「これからどうなる?土地の放射能汚染」です。福島原発事故で外に出た放射性物質は、周囲の森林や畑に降り積もりました。どこに、どの程度、どのような形で存在しているのか、それらは、その場所にとどまり続けるのか、あるいは居場所を変えていくのでしょうか。こうしたことは大規模で綿密な調査をしないと分かりません。本日は、福島原発事故以来、森林を含むさまざまな地域で放射性物質の調査をしていらっしゃいました、筑波大学教授の恩田裕一さんにお越しいただきました。恩田先生、よろしくお願いいたします。

恩田:よろしくお願いいたします。

高橋:先生は、ご専門が「水にからむ地形学」ということですね。あの「水文学」という術語がありまして、「水」という字に文章の「文」と書いて学問の「学」と書くんですが、ちょっと一般の方にはそう聞いてもどういう学問なのかピンとこないと思うんです。まずそのあたりからご説明いただけますか。

恩田:残念ながら日本では水文学というのはなじみがない言葉なんですが、天文学、あの天体のことを調べる学問ですね。

高橋:そうですね。

恩田:それで水文学というのは水に関する、水の循環とかあり方に関するものを調べる総合的な学問でして、アメリカとかでは水文学の訳語としてハイドロジーというのがありまして、非常によく使われているんですが、日本では残念ながらまだまだというところです。

高橋:天文学と同じような言葉なんですね、水文学というのは。

恩田:そうなんです。

高橋:具体的には、先生はどういうご研究をされてきたのでしょうか。

恩田:その水の循環の中で、水と土砂の循環とその相互作用、両方をやっておりまして、特に放射性物質を使いまして、使いましてといっても自然中にあるものを追跡することによって、水とか土砂の移動を調べていくというような研究をしておりました。

高橋:ここに図が出ましたけれども。

恩田:この事故以前から原水爆実験によりまして、我が国にセシウム137とかが降り積もっていたんですね。我々小さい頃、放射能の雨が降るというふうによく言われておりまして。

高橋:そうですね。1960年代は大気圏内核実験がたくさん行われました。

恩田:そうですね。そのものが残っておりまして、それが土壌粒子に吸着しておりますものですから、これが移動するときには土壌とともに移動するということになります。結局それで、土壌の浸食とか再移動の研究に使われるということで、そんなような研究をしてまいりました。

高橋:そうすると放射性物質がどこにあるかというよりも、それを利用して土壌がどこに動くのかということを研究されてきたんですね。

恩田:そうなんです。今までそういう形であったわけなんですね。

高橋:これまでのご研究で分かっていたことっていうのはいろいろあるわけですよね。

恩田:そうですね。例えば、放射性セシウムは細粒な土壌粒子に吸着しやすいということが分かっていまして。

高橋:細粒ということは細かい、小さいっていうことですね。

恩田:細かいっていうことですね。例えばこの直径1mm砂だと、濃度としては1だとすると、粘土成分になりますと89ぐらいとか、いわゆる粒径によって付きやすさがずいぶん違うということです。それが多分、今話題になっているセシウムの濃度が高いマイクロホットスポットと言われるようなことと絡んでいる可能性も高いんですね。細粒物質が集積するところがマイクロホットスポットになる可能性がある。

高橋:土壌が粘土の場合は、そこにセシウムがたくさん集まってしまう。

恩田:そうですね。降っている量は同じとしても、再移動の結果、粘土が集まると、そこの濃度が上がっちゃうということになります。細かいものが集まる場所ではですね。

高橋:そういうことがこれまでの研究からも十分予想ができるというわけですね。

恩田:そういうことですね。

高橋:今回、福島原発事故以来、もう大変精力的に調査なさったと伺っていますけれども、その結果分かったことはどういうことなんでしょうか。

恩田:これは初期、4月の終わりぐらいにサンプリングしたんですが、今回、原発事故に伴って降下したセシウムまたはヨウ素なんですけれども、こういった形で表層ほど高く、深くなると急激に少なくなると。5cmでほぼ全体の100%ぐらい取れるというような状況でした。現状はこういった形になっているということで、5cmでサンプリングすればほぼ全部の蓄積量が分かるということが分かってきたわけです。

高橋:これは、除染のときも上から5cm取れば、もう下はきれいだよということが言えるわけですよね。

恩田:そうですね。我々は非常に土壌を薄くはぐスクレーパープレートというものを使いまして、5mm間隔で薄く取っていくとはっきり分かってくるということなんですが、とにかく5cmで取る場合、大丈夫だというところですね。

高橋:これは非常に貴重な結果ですよね、実際の。

恩田:そうですね。4月の段階で取れたというところで。

高橋:役に立つ調査結果というように感じます。今日はそのほかにもいろいろ調査の結果を伺いたいと思います。一旦ここでCMが入ります。CMです。

~CM~

高橋:科学朝日、本日のゲストはこの方、筑波大学教授の恩田裕一さんです。改めましてよろしくお願いいたします。

恩田:よろしくお願いします。

高橋:本日のテーマは、「これからどうなる? 土地の放射能汚染」ということです。福島第一原発から出てきた放射性物質が、原発の北西方向に多く降り積もったことは、もう皆さんよく御存じだと思います。これが航空機で測定したセシウムの分布図になりますね。

恩田:そうですね。これは文部科学省が公開しております航空機モニタリングのセシウムの分布図なんですが、これ自体は航空機にセンサーを付けて測定したわけですが、それだけですと正確な値は出にくいのですが、これは文部科学省と大学連合のチームで、この付近一帯2,200箇所土壌を採取しました。その値と航空機の値をチェックするということによって、非常に正確な値が出ているということになります。こういった放射性物質の蓄積の分布図は、チェルノブイリのときは3年ぐらいたってからしか出ていませんでしたので、これは本当に研究者はもとより政府の方も非常に頑張って、もう全貌がほぼ明らかになっているという実態だと思います。

高橋:一番濃いところは黄色と赤いところになるわけですね。あのあたりは1平方メートルあたり100万Bq以上の地域になります。

恩田:そうですね。高いですね。

高橋:このあたりというのは、市街地は少なくて森とか畑とか田んぼが広がっている。積もった放射性物質というのは、風が吹いたり雨が降ったりすると移動するわけですね。

恩田:そうなんです。

高橋:これは朝日新聞の報道で使われた図なんですけれども、一度陸上に落ちても、そこからさらにこう、雨によって川に入ってきて、それが海に行くとか、それから地下水に入るということもあるんですよね。

恩田:そうですね。我々研究者を含め行政の方もそうなんですが、まず全貌を、どれぐらい降ったかという全貌を明らかにすることが、一義的に重要なんです。その後、降下したものがご指摘のように雨とともに川に入って海にいったりとか、あと、それが地下水にいったりとか、そういった形で再移動することが予想されるわけですね。そういうことを調べることが必要であると、つまり実際に降下した地域から外に出てくる可能性もありますので、その辺はしっかり調べる必要があるというところです。

高橋:その調査のために大学の先生方がチームを組んで調査に当たられたわけですね。

恩田:そうですね。そのあたりは、実際は文部科学省の委託という形でやらせていただいたんですが、まずその放射性物質が森林に付くと、それからどのように土壌にいくかということですね。そしてその土壌から川へどう流れるか。その場合はいろんなこの土地の条件がありますから、畑地であったり田んぼであったり森林であったりすると。さらにその土壌に付いた放射性物質が土壌水になったり地下水に入ってくると、その辺を調べると。さらには、こう土壌から流れ出した放射性物質が川を通じて海に出ると。そういったものについて我々を中心としまして、こういった問題に取り組むというのが6月の初旬から始めたということになります。

高橋:何人ぐらいのチームになるんですか、これ。

恩田:実際にかかわった人間はどれぐらいかというのはあれなんですが、ざっと30人ぐらいはいるんじゃないかと思います。

高橋:現地に行ってサンプルを取ってきて、さらにそれをきちんと放射能の量を量るというお仕事だったんですね。

恩田:そうですね。その辺はいろいろ分担しまして、それぞれの専門分野に応じましてやっております。例えばその森林での、実際に森林からどのように放射性物質が落ちるとか、その実態は我々を中心として現地調査をやっているんです。

高橋:筑波大学チームですね。

恩田:そうですね。実際その水の分析につきましては、以前から非常に高精度の分析をしている気象研の方にやっていただいた。

高橋:気象研究所。

恩田:気象研究所ですね。一方ではその、一旦降り積もったものが巻き上げられて大気に戻るということも可能性がありますので、そのあたりは東工大とか茨城大、気象研の方々ですね。後はこの土砂の中の放射性物質がどのような化学、化学形態で付いているかについては広島大学の先生方、また、それから川にどう流れるかにつきましては京都大学の先生方と一緒に、それぞれ分担しつつ、もう本当に短い時間に本当に必死でやったというような状況です。

高橋:ちょっとお話聞いただけでもものすごく大変な調査だなと。これだけ包括的にやるのは大きな仕事だと思いますね。それは福島県全域でやりたいのは山々ですが、とても現実的には無理ということで、そうするとどこの地域でやるかという、その選択がまずポイントになりますね。

恩田:そうですね。やはりこの調査というのは、この汚染された地域に住民が帰還できるような助けにならなきゃいけないということから、計画的な避難区域の中の一番外れの地域にあるんですが、川俣町の山木屋地区でこれをやらせていただいたということになります。

高橋:これ、川俣町がちょっと入っていないんですけれども、飯舘村のこの西隣の。

恩田:ここの部分ですね。

高橋:そこが山木屋地区。

恩田:山木屋地区というんですね。ここにつきましては、本当に町の方々も役場の方々もそうですし、あと地主さんの方々もそうですし、非常に協力的でして、ああいう観測棟を建てるには、通常その土地使用者の許可を得たりするのが非常に大変なんですけれども、もう本当に役場の方が動いていただきまして、あっという間にできたと。あと、実際に作業をやるのが大学だけじゃなくて、コンサルタント会社の方々にも入っていただいたんですが、もうとにかく一生懸命やっていただいたということでできたということですね。

高橋:この地図で見ると、さきほどの山木屋地区はどのあたりになるんですか?

恩田:山木屋地区はこのあたりなんですね。今回モデル研究ということもありまして、この山木屋から流れる川を通じて、これが阿武隈川本川になります。本川を通じて海にいくところの中に、1、2、3、4、5、6箇所ですね、調査地点を設けまして、水の放射性セシウムと、後はその浮いて流れる浮遊砂と我々呼んでいるのですが、川の濁りの成分ですね。それに従来から付いていると言われておりまして、それにつきまして調べたということになります。

高橋:この阿武隈川というのは、いわゆる中通りという福島の中心的な都市を貫いて北に流れているんですね。

恩田:そうですね。北に流れているんです。そのあたり、人口はもちろん密集しておりますし、放射性の蓄積量も不幸なことに高かった地域でもあります。

高橋:この地域で実際にどういう測定をされたかなんですが。

恩田:これ山木屋地区なんですが、ここに先ほど申しました様々な調査を行いました。森林につきましては、ここにスギ林、これは若い林と壮齢林と、あと、ここで広葉樹ですね。このマークが土壌からどれだけ流れ出しているかの区画を、牧場であったり畑であったり、やりました。そのほかに、これは巻き上げ量をやるためにエアフィルターを付けまして、それを測定した。ここは井戸があったり、水の渓流水をこの3箇所、ここの田んぼは試験的に耕作しまして、田んぼからどれだけ出るかっていうことについても調べています。

高橋:一番、私が気になっていたのは森林なんですよね。チェルノブイリのときに森林の汚染がなかなか消えなかったというようなことを聞いていましたので、福島の森はどうなんだろうと。この調査はこういうタワーを建ててやるんですね。

恩田:そうなんですね。おっしゃるように森林に、まず放射性物質が付着するということは、チェルノブイリの経験から分かっておりましたので、その状況を把握するためには垂直分布が分からなきゃいけないのでタワーを建てました。これは高さ12メートルなんですが、これはスギの50年生ぐらいのところですね。こういうタワーを建てて葉や枝のサンプリングを行うとともに、ここでも実際放射線量とかセシウムの量とかも調べることができました。

高橋:調べた結果はどうだったんでしょうか。

恩田:それは今後グラフ等も出てくると思うんですが、やはり葉にたくさんの放射性物質が付いていたっていうことになります。これは、まず空間線量の値なんですけれども、タワーを建てまして、1段ずつ測定していったような結果になります。調べたのがスギの若い林、これは20年生ぐらいですね。あと、こちらがスギのもう少しいった50年生ぐらいと、それと広葉樹とマツの混交林の3箇所におきましてこういった調査をしました。

高橋:これ、ちょっとこのグラフの形が違いますね、パッと見た印象で。

恩田:そうですね。これ3回のデータなんですが、これはスギの若い林なんですね。こちら、こうちょっと低いのはタワーの上は樹木の高さより上になっちゃっているので、葉っぱの値よりはむしろ大気中の値を取っているんです。この赤いものが7月の段階で空間線量を取った状態です。こちらを見ると分かりやすいのですが、葉がある樹木の上の方ですね。上の方の空間線量が高くて、地面の付近よりも高い。通常地面に付着しているとしますと、地面の方が高いはずなのに、上の方が高いということになっています。

高橋:多分上から降ってきて葉っぱに付いちゃったということですね。

恩田:そうですね。

高橋:下まではあまり積もらなかったということが分かるわけですね。スギ林の場合は。

恩田:積もっていないという、そうですね。これは若い林で、これが50年生のやつなんです。こちらも分かりやすくて、上の方が高くて、真ん中の方になるとちょっと低くなりまして。

高橋:低くなっていますね。

恩田:ここは若い林ほどは密になっていませんので、一部やっぱり下に直接落ちたものがありまして、下の方がちょっと高い。こういう形になっています。あともう一つ、これ7月、9月、10月となっていまして、空間線量もだんだん下がってきている。

高橋:そうですね、減っていますね。それはちょっと安心材料ですね。

恩田:これは広葉樹林ですね。広葉樹林はそれと比べるとずいぶんちょっと形が違いまして。

高橋:そうですね、形が違いますね。

恩田:上の方が低いんですね。表面、地表面が非常に高いということになります。これは1つには、3月の事故当時には芽吹いていなかったというのが大きくて。

高橋:広葉樹林だから、葉っぱがなかったんですね、あのとき。

恩田:そうなんですね、だからそんなふうになったんですね。それで下にこう非常に多くたまっていて、落ち葉にそれが実際には付いているということです。とはいえ、林の外と比べますと、やはり上の方はそこそこ高い値にはなっていますね。

高橋:今度は、これは。

恩田:線量だけですとほかのいろんな要因が考えられますので、今回はその調査にポータブルゲルマニウム半導体検出器というのを用いました。これは通常土壌や水を測るゲルマニウム検出器の可搬型の、現地に持っていけるタイプですね。そうしますと、実際セシウムの量とかが定量できる、測れるということです。そうしますと、先ほどの形と大体同じような形にこうなっているわけなんですね。

高橋:これも空間を測っているんですか。

恩田:そうですね。これ空間の値になります。空間中にあるカウントなんですが、これも同じような形で、スギの若い林、上の方がやっぱり高いと。つまりその線量が高い原因がこの場合セシウム134。

高橋:であるということが分かった?

恩田:134、そうですね。137もほぼ同じ形なんですが、これはもう確実に福島起源であるというを示しているわけです。

高橋:最初のデータはすべての放射能を引っくるめた量を見ていたと。

恩田:そうですね。

高橋:今度はセシウム134だけを見ていたと。

恩田:そうです。

高橋:でも傾向としては同じようなものであったと、こういうことですね。

恩田:これが壮齢林になりますが、やっぱり同じように上の方がこうセシウムが高くて、中ぐらいは、これは木の幹にあたるので低いんですが、こう下へいった。そういった線量が高いのが実際セシウムであるということがはっきりします。これはまず時間とともに減っているということになりますね。

高橋:そうですね。

恩田:これ、こちらも広葉樹ですね。上の方は地面に比べるとずいぶん低い値にはなっています。地面は非常に高いということになっておりますね。

高橋:広葉樹林の地面というのは相当線量があるということですね。

恩田:あるんですね。

高橋:少なくともむやみに入らない方がいいですよね。どうなんでしょうか。

恩田:ああ、そうですね。いや、ただ、それは森林だから高いわけではないんですよね。つまり空間線量、森林の中と外で測ったことがあるんですけれども、むしろ森林の中の方が線量が低かったりします。それはなぜかというと、上にまだ残っている場合は、下が、人が立つあたりはむしろ低いということになります。森林の外側の方が地面に付いていますから高いということもありますので、その葉っぱとかをむやみにこう触ったりとかしなければ。これはその葉っぱ等なのですが、我々リターと呼んでいるんですが、リターというのはごみっていう意味なんですが。

高橋:そういう意味なんですか。

恩田:そうです。通常そう言っていますが、そのスギの場合、林で言いますと、こういった葉が枯れて落ちてくるのがこう、層となって残っております。

高橋:スギの葉っぱなんですね、これ。

恩田:スギの葉っぱですね。それが残っているということで、そういうものに非常に付着しているという状況です。

高橋:雨の調査もなさっているんですよね。

恩田:そうですね。それで放射性物質の移行としまして、森林の上から下へどう移行するかというのを調べているわけなんですが、まずその以前に林の外ですね。我々林外部と呼んでいるのですが、のセシウムの濃度を見てみますと、こんな形で1Bq/L以下ということで、非常に高精度で測れる機械でない限り、いや、もう検出できない、普通は検出できない値ですね。これは気象研究所の高精度の検出器でようやく出るか出ないかというところになります。それに比べると林の中っていうのは値がずいぶん高くて。

高橋:急にすごくなりましたね。

恩田:急に大きくなっちゃうんですよね。これは期間ごとの値なんですけれども、多いときにはこのセシウム137なんて300Bq/Lですね。1リッター当たり300Bqとか、ときによって違うんですが。林の中では、林の葉や枝に付着したセシウムが雨とともにこう落ちていると、そういう状況が、はっきりと見えてきています。

高橋:これは数字にずいぶん差がありますけれども、これは雨の勢いとかなんですかね。

恩田:そうなんですね。これは。

高橋:強い雨だとたくさんセシウムも入ってくるということですか?

恩田:実はその逆なんです。

高橋:ああ、逆なんですか、そうなんですか。

恩田:逆なんですね。これが濃度になっていまして、実はこれ、雨の量が少ないほど濃度が高くなって、多いときがむしろ薄くなって薄まるみたいなこと、雨がどんどん。

高橋:そうなんですか。じゃあ、シトシトの方が濃度は高くなる?

恩田:濃度は高くなるんですが、量としてはこちらの場合やや多いということになる。だから、とにかく雨が降ればどんどんと流れ落ちるというわけでもないということで、ちょっとその辺はしっかり研究しなきゃいけないなというふうなところですね。

高橋:そうなんですね。こういう、まあ、イメージはできますね。葉っぱにいっぱい放射性物質が付いて、雨が降ればそれに混ざってくるし、そうすると地表にたまっていくと。

恩田:そういうことですね。

高橋:今、森の除染というのも話題になっていますけれども、でも森ってすごく広いですよね。それでどうやってこの除染というのを進めていくのかという点は、先生はどうお考えですか。

恩田:そうですね。早いうちですと、この木の枝や葉に付いているんですよね。そこで一番効率的なのは、木を伐採してしまうことです。

高橋:丸ごと切っちゃうんですか?

恩田:切っちゃうんですね。切って、また新しい木を植えればいいですので、「その後はどうする?」っていうふうに皆さんおっしゃるんですが、まず、ここで考えられる方策としてはそれを切ってしまって、あと同時に、表面のこういったリター、落ち葉ですね、落ち葉を取ってしまう。これはなぜいいかというと、落ち葉だけ取るには手作業で人力で入らなきゃいけないんですね。お金と手間がすごくかかってしまいます。木を切るっていうのは機械を入れて伐採しますので、手間がそれに比べればむしろかからない。お金的にも安いですし、除去される量がもう圧倒的に多い。特に計画的避難区域で線量を下げなければいけないというようなところでは、ぜひそういった一番効率的な方法を選んでいただければいいなと我々としては思っています。

高橋:切った木は使えるんでしょうか。

恩田:木への、木の材の中にも、放っておきますと少しずつ入ってきます。その辺は今、林野庁で調べられているようなんですが、数年たって入ってくる形なので、早いうちですと比較的汚染度は少ないということで、状況によってはまだまだ利用できるものもかなりあるんじゃないかと見ています。それが時間がたてばたつほど。

高橋:木の中に入ってきてしまうわけですね。

恩田:入ってきてしまうんですよね。だからそういった面でも早めに木を切って、除染として木を切ることがいろんな面で一石二鳥になるというふうに。

高橋:なるほど。その葉っぱだけ切って、それは汚染物質として処分をして、木の幹は材として使える。

恩田:使える部分も相当あるんではないかと思いますね。

高橋:そういうのを政府が早く計画を立てて方針を決めてほしいですよね。

恩田:ええ、そうですね。今、各地でそういったモデル事業が行われているようなので、そのあたりの結果もできるだけ早く出していただいて、これは時間との闘いですので、できるだけ早いことが望まれるんじゃないかなと思いますね。

高橋:森林のことは大分分かりましたので、この後CMをはさんで別のこともお伺いしていきます。ここで一旦CMです。

~CM~

高橋:科学朝日、本日は筑波大学教授の恩田裕一さんをお迎えしています。さて、放射性物質がどのように動き回るかを突き止めようとされている恩田さんですけれども、空気中に舞い上がる量がどれくらいかというのは、呼吸で私たちが吸い込むことによって内部被ばくを起こすという、それを避けるという意味で大変重要なデータだと思います。これはどうだったのでしょうか。

恩田:それについて調査は、私というよりは共同研究者の東工大の吉田先生とか、茨城大学の北先生、気象研の三上先生がやられた結果をちょっと代わりに報告させていただく形になるんですが、エアフィルターを使いまして、大気中にどれぐらい放射性セシウム等が巻き上げられているかというのを測定したのがその結果になります。この単位が1立方メートルあたり何mBqかということで、人が1日に呼吸する量が大体20立米と言われています。22立米です。22.2ぐらいですね。なので、これに20を掛ければいいぐらいなんですが、これ単位がmBqなんですね。ということは、この、例えばこれで1mBqっていうのは、それから22を掛ければ。

高橋:1日に22mBq。

恩田:ということは、つまり1Bqもいかないんですね。

高橋:そうですね。

恩田:なので、値としては非常に低い。この計画的避難区域の山木屋地区であってもその程度であったということです。比較的低い値ではあったんですが、その中で多少違いがあるというのがありまして、広葉樹の混交林で比較的高いと出ました。

高橋:高いですね。

恩田:ここのかっこにある数字は調査地点での空間放射線量です。今、このあたりの解析を先ほどありました、茨城大、東工大、気象研の先生方がやられています。

高橋:空間線量が高いところが高くなるのは分かるんですが、広葉樹林は空間線量2.8って書いてあるんですよ。

恩田:そうですね。これに比べると、そんなに高い値ではないんですね。その中で混交林でちょっと高いと。これはタワーの上にこういったエアフィルターを置いているんですね。タワーの上まで電源をお借りして引っ張っていまして、そういうことで、この辺はどうしてそういうふうになるのかについてもまだまだちょっと検討が必要だということで、今、引き続き調査と解析をやっているという状況です。

高橋:でも普通の人々が暮らすような場所では、非常に巻き上げの量は少ないというふうに理解してよろしいわけですね。

恩田:そうですね。結局この値、この1を標準としたとしても、22を掛けても、0.2とか、mBqの単位ですね。

高橋:Bqからシーベルトに直すときに、また小数点がいっぱい付くんですよね。

恩田:付くんですね。だから、なので、非常に少ないということは。

高橋:間違いがない。

恩田:現時点で間違いないというような言い方ですね。

高橋:それはちょっと安心する材料ですね。

恩田:そうですね。

高橋:次は、水ですね。先生のご専門の方の水系ではどういうふうになっていたのかということです。

恩田:これは、その土壌侵食量とともに、どういうふうに放射性物質が流れるかということをお示しした図です。先ほど5箇所の土壌侵食の測定区画のお話をしましたが、そこからどれぐらい出たかという、これは1カ月半ぐらいのデータなんです。こちらがタバコ畑、おそらくこれは、あえて表面の草を刈って一番出る形に、一番出るというか一番悪い状況をつくっていますね。行くたびに草を刈っています。この牧草地は草が生えている状況で、採草地も草が生えている状況ですね。後はスギの林、こちらは水田ですね。水田も同じように、通常のイネを育てています。イネを育てている中で、その田んぼからどれぐらい出てくるかというのを連続的に観測しています。

高橋:ほとんど出ていないですね、水田は。

恩田:そうですね。水田、これ水張ってはいるんですが、いわゆる雨の降ったときに、その田んぼから川に流れているっていうのが多少はあるんですが、通常時ではあまり多くないと。ただ、その前のしろかきをやるときがあります。しろかきをやるときは濁しますので、そのときは高い濃度のものが気を付けないと流れることになるんですね。そのときは、通常のときに比べるとずいぶん多い値になってしまいます。

高橋:そうすると、草を刈ってある何もない畑で緩勾配、緩い勾配のところから非常にたくさん出てきてしまうと。

恩田:はい。

高橋:何か急勾配の方がいっぱい川に流れそうな気がしますけど、どうなんですか。

恩田:そうですね。ちょっとそれ、これ表示が分かりにくくて申し訳ないです。これは完全に草を刈った状況で、これは草を生やしたままの状況という、そういう。

高橋:そこが大きな違いなんですね。

恩田:この辺ももうちょっと、実際の耕作をやってどうなるのかとかちゃんとやらなきゃいけないのですが、いずれにしてもこれ、値としては比較的大きいのですが、このときでも実際に今、吸着している量ですね。蓄積量との比でいうと0.26%ぐらいの量でしかないんですね。畑で裸地の条件にしたとしても、1カ月半で1%ほどいかないぐらいしか出ないということで、結局、畑やいろんなところからどんどんと川に流れてくるんじゃないかというと、それほどでもないということである。これ一番悪い条件を作ってこの程度ですね。

高橋:わりと落ちたところにとどまっているものが多いと、それが大半であると。

恩田:そうですね。特にこの林とか見ると、非常に低いということになりますね。

高橋:その先、流れた川がどうなっているかということもお調べになっているわけですよね。それはどういう結果なんでしょうか。

恩田:これは川から海にいくときの値なんですが、阿武隈川にどれぐらい流れたかっていうことなんですが、実際水の放射性セシウムは非常に低かったんですね。水中に溶けている値は0.05から0.2Bq/Lぐらい。だから非常に、川の中の水に溶けている量は少なかったんですけれども、それが川の中に、ちょっとこれも濁っているんですが、濁りの中にたくさん溶けていることが分かったということになります。

高橋:溶けている状況っていうのは、透明な水の中にセシウムがどれだけ入っているかということですか。

恩田:それが0.05から0. 2Bq/Lぐらいということ。

高橋:それはどういう形で入っているのか、セシウムだけ。

恩田:それは川の水をろ過します。ろ過して、具体的には0.45マイクロメーターのフィルターでろ過した残った水の中には非常に少ないんですけれども、こういった濁っている、この濁り成分ですね。濁り成分では非常に高くて、調査期間内でセシウム137で1万4,000~6万Bq/kg。

高橋:1万4,000Bq/kg

恩田:から6万Bq/kg。kg当たりです、濁り水だと。濁りの中から泥を取りだして、その値が最大で6万Bq/kgですね。セシウム137だけですね。134もほぼ同量入っていまして、これは実はその、下水汚泥の基準値が、御存じですか?

高橋:あれ、どうでしたっけ?

恩田:あれは8,000なんです。

高橋:8,000。ああ、それよりはるかに濃度が高い。

恩田:高いものが。

高橋:阿武隈川を流れている。それはちょっと悲しいですね。

恩田:ちょっと悲しいですね。ただ、その濃度が高いからすなわち危険、危険というか海の生物に直接影響高いかっていうと、そうとも限りませんで、この泥の中の粘土に吸着している部分ですね。それは非常に安定なんですね。ですから、この海に流れたとしても、その海で、そのまま堆積してしまうということになります。ただ、その濁りの中の有機物に付いているものがあるとすると、それは今後再分解する可能性がありますので、そのあたり、今、調査を始めたというところです。

高橋:あの、魚はこう濁り水の中にいた場合ですよ、その粘土に付いたセシウムも入れちゃいますよね、口の中に。それでどうなるんですか?その後。

恩田:それが基本的にはエラから出てきちゃうんですね。

高橋:そのまま出ちゃうんですか。

恩田:出てきちゃうんですね。

高橋:それであまり影響がないと。

恩田:ただ、有機物に付いているものは、いろんな藻類から小動物など、いろんなものにどんどん移っていって、餌としてこの中に入っていく。

高橋:消化される食べ物になっちゃうわけですよね、有機物だと。

恩田:そういうことで、実際この阿武隈川の川魚の濃度はやっぱり規制値を超えているものが多いということになりますね。

高橋:有機物にくっついてしまうのと、粘土にくっついてしまうのと、割合ってどれぐらいなんですか。

恩田:それが今調べているところです。

高橋:調べているところですか。

恩田:そうなんです。そこら辺ですね。それもいわゆる出水のときでどうかとか、藻類がどうかとか、いろんな状況がありますので、それをできる限りしっかり調べていきたいなというふうに思っているところですね。今、生物の専門家も一緒に、実際それが藻類にどのように移っていくかとかですね、そういったことも含めまして調査をしているということになります。

高橋:そうすると、粘土にくっついていてくれれば、割と安全なわけですよね。生物への影響は非常に少なくて済む。有機物にくっつくと困るので、何とか有機物にくっつかないようにする手段というのはあるんでしょうか。

恩田:そうですね。今、除染のために使われているゼオライトとかは、結局、有機物に付いている比較的不安定なものを吸着させるためにやっていることになりますね。

高橋:なるほど。

恩田:粘土に付いているものは非常に動きにくいですので、それは川だけではなくて、森林でもそうで、森林の中で循環するというのは、その有機物に付いているので、動いちゃうんですよね。粘土で土壌にしっかり吸着すれば移動はずいぶん少なくなるということで、それはいろんな畑、田んぼにそれぞれについて言える話でして、できるだけしっかり粘土に吸着すれば植物や作物にも移行が少なくなるということにもつながります。そういったことで、もう降ってしまったものは、これからどうするかということで、しっかり吸着させ、除去するのが一番いいんです。が、すべて除去できるわけでもございませんので、できるだけ動かない形に持っていくというのが、この環境については重要ではないかというふうに思いますね。

高橋:粘土をまけばそこに付いてきてくれるんですか。

恩田:実際、土はそういった粘土粒子が多いですので、そこにこう。

高橋:まくまでもなく大丈夫?

恩田:まくまでもない、大丈夫かなと思います。こういった川については、いろいろ今後考えていかなきゃいけないかもしれません。アイデアをですね。

高橋:そうすると水が川に入り込むようなところにそういう粘土質のものをフィルターのように置いておけば、そこでセシウムだけ取ってくれるかもしれない、そうなんですか。

恩田:ただ、それは濁りにすでに鉱物に付いているものと有機物に付いているものがありますので、その有機物をむしろくっつけるというより回収できればいいということになるのかもしれませんが、なかなかこう、大雨のときにしか川の水濁りません。濁りませんというか、大雨のときにとても濃度が高くなりますので、なかなか難しいところではありますね。大雨のときに濁った水が一気に流れるということもありますね。

高橋:それどうしたらいいんですかね。そうすると濁った水が大雨のときは海にいってしまうわけですよね。

恩田:そうですね。

高橋:海でそこで静かにしてくれれば、影響はあまりなくて済みそうだと。

恩田:とにかくその対策の前に、まずどういう割合でどういう形で付いているかというのを、我々としては調べて、それをぜひ対策に生かしていただけるようにというふうに思っているところですね。

高橋:そうですね。まずは実態調査が必要ですよね。

恩田:はい。

高橋:今は山木屋地区で集中的になさったわけですけれども、今後はどういう方向の調査をお考えなのでしょうか。

恩田:基本的には我々は、まずは環境中でどういうふうに移行するかということの把握が必要ですので、山木屋地区で調査を継続させていただければ継続したいとは思っています。その後、福島県だけではないですね、あの分布図を見てもかなり広範囲に拡散しておりますので、ほかの場所でもこう適用できるような一般化できるような形ですね。例えばその、どれぐらい土砂が出るかって、今回はその値だけをお示ししましたけれども、それが空間的にどうなっているかっていう、いわゆるリモートセンシングみたいなものを使いまして、広域分布を見るとか、あと将来予測ですね。

高橋:それ、ぜひお願いしたいです。将来のことが気になってしょうがないんですよね。

恩田:そうなんですよね。それはもう、いろんな方の共同研究、今回はたまたま私が呼ばれてお話ししているわけですが、いろんな研究者の方とか行政の方と協力しながらこういった問題に取り組んでいきたいというふうに思っているところです。

高橋:将来予測をするためには何がポイントになるんですか。

恩田:結局我々土砂の浸食量とか、樹木から落ちている量で、今回は1箇所ずつだということですね。それをまずはいろんな、いろいろなその濃度のところでやるっていうのは1つ重要で、最初に申し上げた放射性セシウムの降下量を土壌のいろんな濃度のところで測って、その航空機と較正したっていうお話をしましたが、それと同じようなことで、さまざまな濃度のところでデータを取るというのが第一義的に大事で、それを広域的に拡大するためには、土壌からどれぐらい流れるかという、それは浸食モデルというものがありますので、それに適用をしていって、それと土地利用の状態、雨の状態、そういうものを合わせて、このモデリングしていくという形になっております。それぞれのパーツ自体はいろんな先生がやられていますので、いろんな協力をして、英知を結集してこれをやっていくということによって、より良い将来予測ができてくるということになるかと思います。

高橋:モデルっていうのはある程度今あるわけですね。

恩田:そうですね。それぞれのパーツというか、もともと目的は違ったんですが、我々の分野で言えば土壌がどれだけ浸食されるかということで、後は河川の人は雨が降ったらどれだけ水と土砂が流れるというモデル、生態は生態についても、木についてもチェルノブイリのときにどれぐらいの量が下に落ちて、今度下に、下方に浸透していきますね。そういった森林内の物質循環モデルというのがあります。そういうのをさまざま組み合わせてやっていくと。そのためには、もちろん我が国の研究者だけでは層が薄いですので、諸外国の先生方、特に今、非常にフランスから共同研究の申し込みが多くて、ヨーロッパの方々はチェルノブイリの経験が豊富ですので、そういった方々と一緒にやっていって、最善な結果をできるだけ早く出していきたいなというふうに思っています。

高橋:事故直後は日本が情報をきちんと出していないということで、ずいぶん諸外国からも批判されましたので、研究者のレベルで協力関係を深めていっていただくのもすごく大事なことだと思いますね。

恩田:あとロシアの先生方とかももちろん、ロシアとかベラルーシとか、いろんな今までの経験を生かす形で、今後調査をできていければというふうに思っています。

高橋:そうですね。それから、その調査結果はぜひ、普通の方に分かるような形で、いち早くお知らせいただくということも今から強くお願いしておきたいと思うんですけれども。

恩田:そうですね。こういった機会も今後あると思いますし、あと分かりやすい形で何らかの情報を発信すること、これも1人ではそういうのができませんので、皆さんと相談しながらやっていければなというふうに思っております。

高橋:そうですね。ぜひよろしくお願いいたします。今日はご説明いただいて、大分頭の中に放射性物質がこう、どうやって動いていくのかっていうイメージができました。本当にどうもありがとうございました。

恩田:ありがとうございました。

高橋:科学朝日、本日はこのあたりで失礼いたします。次回もどうぞお楽しみに。