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メディアと数字/「10の何乗」をなぜ嫌う

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 以前この欄でも軽くぼやいたことがあるのだが、新聞等では指数表記(10の肩に数字を載せて桁数を示すやり方)が禁じ手とされているらしい。しかし、その記法は本当にそれほど難しいものなのだろうか? そのあたりが私にはどうしても納得できないので、今回この場をお借りして私の気持ちを訴えさせて頂きたい。

 大学に入学して理科系の実験や講義を選択すると、まず最初に「数値」がもつ意味を教え込まされる。あらゆる数値は、通常はこれだけを知っていれば事足りる「桁」、用途によっては必要となる「有効数字」、さらにはそれらがどれだけ信じて良いものかを示す「誤差」、の三つがセットになっているというのがその要点である。これは決して理科系だけに必要な約束事ではなく、世間にだまされない人生を送るために極めて大切な教えだと思うのだが、それが新聞などを通じて広まるどころか、まったく逆に禁じ手とされているならば、我が国の将来にとって由々しき事態だとしか思えない。

 まず「桁」から。日本の人口128,057,352人とか平成23年度一般会計歳入歳出予算総額106,398,677,202千円という数値を新聞で見かけたとする。少なくとも私程度の頭では、次の行を読み始めた瞬間、これらの数値はすべて完全に忘れ去られる運命にある。つまり私の知りたい必要度に対して情報過多なのだ。むしろ、日本の人口は約1億人、予算は100兆円と書いてもらった方がずっと頭に入る(ちなみに、日本の会計は欧米圏の記法を何も考えずにまねたせいで単位が千円となっているのは、無意味を通り越して重大な間違いを引き起こす危険な方式だとか思えない。上述の数字を兆円単位に概算するためだけに私は1分間以上の時間を要した)。これがまさに「桁」の大切さである。

 日本社会の様々なことに思いを馳せる上で、人口1億人、予算100兆円は重要な基礎データである。しかし、それが1.28億人、106兆円という精度でないと結論が異なってしまうような問題はどの程度あるものだろうか? 

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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)などがある。

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