米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞社員、ナチュラリスト
朝日新聞社で、長く科学記者として取材と執筆に当たってきたほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長などを務めた。2021年4月からイベント戦略事務局員に。ナチュラリストを名乗れるように、自然史科学や農林水産技術などへ引き続き関心を寄せていく。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
意識している人はほとんどいないのだろうが、ヤリイカには大小2タイプの雄がいる。大きな雄は筒状になった外套膜の長さが30センチほどで、小さな雄だと20センチほど。雌は両者の中間的な大きさなので、小さな雄は雌よりも体が小さい。
しかし精子に着目して調べると、小型雄の精子の方が大型雄の精子より大きいことがわかった。動物の同じ種や同一個体の中に、形や運動能力の違う複数タイプの精子ができることは報告があった。しかし、同一種でありながら体サイズの違う雄が異なる精子を作り分けているという事例が見つかったのは、初めてだという。東京大学大気海洋研究所に籍を置く日本学術振興会特別研究員の岩田容子さん、お茶の水女子大学講師の広橋教貴さんたちが突き止め、進化生物学の専門誌(BMC Evolutionary Biology)に発表した。
ヤリイカは冬の繁殖期になると、雄が精子の入ったカプセルを産卵前の雌に渡す交接と呼ばれる行動をする。2タイプのヤリイカの雄は、この交接の仕方が異なる。大型雄は雌をめぐる戦いに勝った個体が、雌の体を下から支えるように重なる。そして腕を伸ばして精子入りカプセルを雌の胴体の中にくっ付けて、その後も産卵まで雌を他の雄から守ることに忙しい。
一方、戦いを避ける小型雄は
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