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電力制度の改革論議の中で「発送電分離」という言葉がしょっちゅう出てくるようになった。これは、電力市場自由化のキーコンセプトだが、イメージがわかず、言葉だけが躍っている。これからもISO、RTOといったもっとわからない言葉が使われるだろう。注意したいのは、議論が上滑りし、「形だけの発送電分離」に小さくまとまることだ。ここ10年、日本でも電力市場自由化の議論が断続的に行われたが、中途半端な改革に終わっている。垂直統合、地域独占、原子力の大量停止、少ない自然エネルギー……。日本の電力制度を大きく変える時期に来ていることは間違いない。目を離さないで自由化の議論を監視したい。

 昨年12月27日、枝野経済産業大臣が突然、「電力システムに関するタスクフォースの論点整理」を発表した。枝野氏が議長を務めるタスクフォースで検討してきたものの整理だ。

「論点整理」の基本的視座は4点。1)需要逼迫時に需要抑制や供給促進のインセンティブが働く電力市場の形成。2)企業や消費者の自由な選択、創意工夫を最大限活用する電力市場の形成。3)需要サイドによる需給管理を最大限活用する電力市場の形成。3)需要サイドによる需給管理が可能な次世代スマート社会の構築。4)このような電力市場を支える公正で透明な競争環境の整備。

 この4点を踏まえて「低廉で安定的な電力供給」を実現する「より競争で開かれた電力市場」を構築するとされている。まさに日本の閉鎖的な電力市場の自由化を推し進めようとしている。

 1月末には、総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置し、本格的な議論が始まる。

◆進むか、電気の全国融通

 論点は10個に整理されている。電力業界がとりわけピリピリしているのが、送電線に強く関係する8番目の論点だ。曰く「送配電部門の中立性を確保し、電源間の公正競争のためのルール・仕組みを導入することが重要。そのため、会計分離の徹底、法的分離、機能分離、所有分離などのメリット、デメリットを十分に検証したうえで、さらなる送配電部門の中立化を行うべきではないか」。

 わかりやすくいえば、「現在、発電と送電の分離として行われている『会計分離』では不十分なので、もっとはっきりした分離である機能分離や所有分離という『本物の発送電分離』をしたらどうか」である。

 もし、そうなると、地域で発電、送電、配電を独占的にもつ一貫体制(垂直統合体制)や、地域独占営業は崩れてしまう。戦後60年続いてきた電力体制ががらりと変わる。

 このテーマは、電力システム改革専門委員会の下にできる「連系線の使用のあり方を扱う」孫委員会で議論する。実は、昨年9月から経産省の中で「極秘」で議論が進んでいた。しかし、それが報道され、「見つかったなら、しょうがない」と、オープンな委員会として正式発足することになったいわくつきの委員会だ。別に隠す必要もない内容に思うが、電力業界が送電線にいかに神経質になっているかがわかる。

 日本には、沖縄電力を別にして9電力会社があり、各社はそれぞれの地域でほぼ独占的に発電、送電、配電の事業を展開している。各電力会社は自社管内の送電網を網目状(メッシュ状)につくっているが、隣接する会社の送電網との連系線は1本か2本しかなく、容量も小さい。

 このため、いざというときには、足りないところへ大量の電気を送れない。昨年の震災直後には大停電も起きた。もっと連系線を積極的に使って、あるいは建設して、全国融通できるシステムづくりをめざすのが、問題の委員会である。

 全国融通は自然エネルギー増加にも有効だ。というか、それが進まなければ、北海道や東北、九州に偏在する風力発電の電気を東京や大阪の大消費地に送れない。連系線の運用は電力改革のカギを握っている。

◆遅れている日本の自由化

 世界では1990年代の初めから欧州を中心に電力自由化が進んできた。自由化の2本柱は「発送電分離」と「小売りの自由化」だ。

 日本の電力自由化の議論は2000年から本格化した。まず、2000キロワット以上の大口需要家への小売りを自由化した。

 2002年には発送電分離が議論された。発電と送電の事業会社を分けることで発電部門への新規参入をうながし、競争促進、電気料金の低減をねらうものだ。しかし、電力業界をあげての反対によって実現しなかった。業界は「地域に責任をもって供給する会社がなくなって安定供給体制が崩れてしまう」「分離すれば効率的な運用ができず、発電部門と送電部門の技術的協力が難しくなる」と主張した。

 その結果、最も軽い分離である「会計分離」に収束した。しかし、今もあいかわらず9電力会社が独占的地位を持つ状態が続いている。

 「小売り自由化」も、おかしな経緯をたどった。2000キロワット以上が自由化されたあと、自由化の枠を広げ、05年からは50キロワット以上の需要家で自由化された。大きなコンビニ程度の需要家も電力会社を選べるようになったのである。

 そして、「08年からは全ての需要家に自由化を広げる。ただその前に再評価をする」と決まった。いよいよ家庭が電力会社を選べる時代が来ると思われた。しかし、07年にそのための議論を始めたところ、電力業界が反発し、全面自由化をやめてしまった。

 一方、欧州連合では07年から家庭部門も自由化され、各家庭が外国の電力会社も選ぶことができるようになった。日本もそうなっていれば、原発事故のあとでは、大量の「電力会社の変更」が起きたかもしれない。自由化された電力市場では不買運動も起きる。

◆日本はISO?

 さて、今回の発送電分離の議論はどうなるか。分離されるかどうか、そしてその方法としては何が選ばれるか。会計分離、機能分離のほか、最も完全なのは所有権分離だ。欧州では、所有権分離に動いている。

 機能分離ではISO、RTOなどがある。ISO(Independent System Operator)は、送電部門の系統運用機能を独立的な機関が行うものだ。RTO(Regional Transmission Organization)は、ISOの機能に、広域性、送電拡張計画策定の責任を加えたものだ。欧州や米国で例がある。

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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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