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放射能を固める、という怖さ

尾関章 科学ジャーナリスト

 死角だった、と悔やまざるをえない。3・11の大震災と原発災害によって長く記憶にとどめられる2011年が幕を閉じ、復旧と復興に立ち上がろうという気分が広がった2012年1月に、意外なところから放射能が追いかけてきた。

 去年夏、福島県二本松市に新築された3階建て賃貸マンションの1階で放射線量を測ってみたら、戸外よりも高かったというのだ。東京電力福島第一原発の事故で出た放射性物質が計画的避難区域にある採石場の石を付着し、それを材料にしたコンクリートが土台づくりに使われた、ということらしい。1月15日に政府と市が発表した。

 1階の部屋に毎日居ずっぱりだと、1年間で10ミリシーベルトくらい浴びることになる、という計算もある。国際放射線防護委員会(ICRP)によると、職業人ではない人々の放射線量の限度は、自然界のものや医療に伴うものを除いて、平時で年間1ミリシーベルトとされる。決して見過ごせないレベルである。

 当然のことながら、これは、このマンション1棟の問題ではなかろう、ということになった。政府と福島県は、避難区域などにある30カ所ほどの採石・砕石場を調べ、それらが震災後6月末までの県内の公共工事に使われていないか、という調査をすることになった。放射性物質をかぶった石材が使われた工事のなかには、通学路の補修などもあるようだ。今後も、このマンションと同様の建造物が見つかる可能性は否めない。

 冒頭に「死角」と言ったのは、採石場の石のことである。去年3月、福島第一原発から放射性物質が環境中に漏れ出たことがわかったとき、それよりも気がかりなことが次から次に出てきた、という事情がある。

 振り返ってみると、事故当初は、放射性物質そのものが大気中に漂っていることが怖かった。次に水。事故5日後の3月16日に福島市の水道から、国の基準以下だったとはいえ、放射性物質が検出された。21日には、福島県や北関東の一部の農産物が出荷停止となり、一気に食の不安が募った。4月に入ると、事故原発から低濃度の放射能汚染水を放出せざるをえない事態となり、海水や水産物への影響も関心事となった。一方、新学期を迎えて校庭の土壌を心配する声も強まった。

 まずは、体を直撃するもの、まとわりつくもの、口に入るもの、そして、なによりも子どもたちを脅かすものを警戒したわけだ。それ自体は、きわめて自然のことである。その裏返しで、多くの人々が採石場の石が浴びた放射性物質にまでは思い及ばなかった、ということはあるのだろう。

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筆者

尾関章

尾関章(おぜき・あきら) 科学ジャーナリスト

1977年、朝日新聞社に入り、ヨーロッパ総局員、科学医療部長、論説副主幹などを務めた。2013年に退職、16年3月まで2年間、北海道大学客員教授。関心領域は基礎科学とその周辺。著書に『科学をいまどう語るか――啓蒙から批評へ』(岩波現代全書)、『量子論の宿題は解けるか』(講談社ブルーバックス)、共著に『量子の新時代』(朝日新書)。週1回の読書ブログ「めぐりあう書物たち」を開設中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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