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秋入学は歓迎、でも国際化の決め手ではない

山極寿一 京都大学総長、ゴリラ研究者

 東京大学が秋入学への移行を提案して、さまざまな議論が起こっている。単独実施はせず、12大学に呼びかけて協議会をつくって検討するという。経済界や教育界を巻き込んで多くの問題が論じられることになろう。歓迎すべきことだと思うが、ここで私なりの意見を述べておきたい。

 東京大学のみならず、日本の大学が憂慮しているのは世界の大学ランキングで急速に下降しており、国際競争に後れをとっているということだ。その原因は、留学生や外国人教員の比率が低いということが挙げられる。また、日本人学生の外国の大学への留学が近年目立って減っているという理由もある。こういった国際化が遅れているのは、欧米と日本では入学時期や学期のずれがあることが大きな原因とされている。しかし、それは本当だろうか。

 すでに多くの大学では、大学院の秋入学を認めており、それなりに世界から優秀な学生が入学してくる。とくに最近は中国からの留学生が多い。これは日本の大学院で最先端の技術や知識を学び、研究者としての資質を身につけたいからである。学部は人間として生きる教養と世界を見つめる目を鍛える場所であり、日本の大学が秋入学に移行したからといってすぐに留学生が増えるとは思えない。海外の学生が日本に興味をもち、日本の大学で学びたいと思わなければ、日本を留学の対象には選ばないからだ。

 日本の大学には、どこにもそれほどの魅力があるとは思えない。ましてや、日本の企業がどんどん海外に進出している現状では、日本の企業に就職するためにわざわざ日本で学ぶ必要はない。

 もし、英語の授業をして留学生の数を増やすことが目的なら、日本の大学が海外へ進出して分校を開けばいい。企業の役に立つ実践的な能力を育てたければ、国際的ビジネスの現場で講義をすればいい。事実、欧米の有名大学は近年次々に香港やシンガポールにビジネススクールを開校した。日本の大学も単独で難しいと言うなら、大学間連携で海外進出を果たし、そこで優秀な学生を集めればいい。その上で日本に興味のある学生を日本へ送り、日本の学生をそこへ派遣して国際的な交流を促進すればいい。

 一方、日本の学生の海外留学が減ったのは、世界に関心を向けなくなったからだ。

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