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インフル論文考―科学の鍵は「下から目線」

尾関章 科学ジャーナリスト

 バイオテロへの警戒感が高まるこの時代、高病原性の鳥インフルエンザが哺乳類でも感染する恐れを示した実験結果をそのまま世に出してもよいかどうか。

 米欧を拠点とする2グループが出した2論文について、米政府の委員会が「一部削除」を求め、世界保健機関(WHO)が開いた会議は「当面公表を控え、いずれ全面公開」で合意した。プレスリリースに沿って言えば「急いで部分公表するより、遅れても全文公表するほうが、公衆衛生にもたらす恩恵が大きい」と判断したのだ。

 このいきさつは、このWEBRONZA「科学・環境」欄(2月28日付)で、すでに米本昌平さんが書いておられるので、詳細には触れない。ただ、その議論の流れを追うと、科学技術に対する物事の決め方が、ひと昔前とは大きく違ってきたことを感じざるを得ない。それは、科学にあっても「下から目線」の納得がなければ何事も進まない、ということである。

 このことはWHOの会議が、全面公開の前に取り組むべき課題の一つに、「対話を重ねて、これらの研究の重要性とそれを公表する理由について人々の認識と理解を高めること」を挙げているのをみてもわかる。「人々の認識と理解」は、英語の“public awareness and understanding”を訳したものだ。すなわち、まずは世の中にわかってもらう努力をしなさい、という助言を受けたのだ。

 WHOのウェブサイトには、事務局長補のケイジ・フクダ氏とジャーナリストとのやりとりも載っている。そこには、もう少し踏み込んだ議論がある。

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