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ドイツの「福島から1年」

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 1年前と同様に、今年の3月11日も、私はベルリンで再生可能エネルギーに関する調査を行っている。この1年間に、日独両国で、いろいろなことが起きた。ドイツは、田舎町に行っても、Fukushimaが話題となる。何よりも、福島の事故をきっかけにして、10年内の原発廃止を決めた。ドイツでは、3月11日に全国で様々な取組が行われ、核廃棄物や中間貯蔵場関係の抗議行動も組織されている。

 この間、多くのマスコミが「福島から1年」の特集を行っている。3月初旬のTV討論では、原発廃止の根拠づけを行った「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」委員長のクラウス・テプファー氏(元環境大臣)は、ドイツには地震も津波もないが、原発事故が「ハイテク国家」の日本で起きたことを想起すれば、対処できない原発事故が実際に起こうることを示したと強調していた。

 週刊誌の『ツアイト』(3月1日号)は、福島で何か起きたのか、福島の原子炉はいまどうなっているのか、放射能汚染の現状について述べ、避難民や子供の生活については吉本ばななの報告を紹介している。経済面では、ドイツが決めた「エネルギー転換」は、バベルの塔であるという議論や、太陽光パネルの新規買取価格の低減(19セント/kWh)について紹介している。保守系の全国紙『フランクフルト・アルゲマイネ』は、「グリーン成長の幻想」(3月1日)、ドイツの「エネルギー転換」(3月9日)を紹介しつつ、日本については、52基の原発停止とコスト問題、再生可能エネルギーへの取組について、津波の犠牲者への「祈りの姿」の写真とともに取り上げている。

 ドイツ国内では、2022年に原発を廃止するという決定については、国民的な支持を得ており、一部に賠償を求める裁判が提訴されたが、大手電力会社もそれに従う方針である。

 問題は、原子力をなくした後の代替エネルギーと省エネの促進である。古い原発を順次廃止していき、近代的な火力発電(天然ガスと石炭)へ転換し、風力とバイオマス、そして太陽光などの再生可能エネルギーを拡大させることと並行して、省エネ、エネルギー効率化に取り組む方針は、明確である。一部にいわれたのとは異なり、フランスなどからの原子力電力に頼るのではなく、むしろドイツの火力発電から冬の暖房に電気を使うフランスへの送電は増えている。

 しかし、ドイツ原発廃止の代替策の、再生可能エネルギーの中心となる洋上風力発電と、送電網の抜本的な拡大は、予定どおりには進んでいない。様々な技術的な課題の解決と社会的調整には時間がかかる。

 ふりかえって、日本の「福島から1年」はどうであったのか。世界に対して「福島からの教訓」を発信できているのであろうか。3月11日の福島の事故について、時の首相の対応が適切であったかどうか、というようなレベルに関心が止まっているところに問題がある。

 まず第1に、福島の事故の原因と背景を明らかにする課題(原因論、背景論)が、未だに残されたままである。民間事故調の報告は公表されたが、政府と国会の報告は、1年たっても完成せず、政府の対策員会の記録も不完全である。

 第2に、いまだに10万人以上の人々が避難を強いられており、放射能汚染の現状、被害の現状と詳細を明らかにし、被害者救済の努力を続ける課題が残されている(被害論と救済論)。

 第3に、斑目原子力安全委員長が指摘するように、原子力発電所の従来の安全審査指針類に「瑕疵」があり、立地審査指針の基準も抜本的な見直しが必要であり、炉心溶融などの過酷事故の規制強化が必要である。地震国の日本で、54基もの原発を運転できる体制にはなかったのである(規制改革論)。

 第4に、原発への依存を減らし、省エネと再生可能エネルギーなど代替エネルギーの開発を行い、電力とエネルギー供給の制度改革を行う、中長期的な展望をもつ必要がある(代替エネルギー論)。

 以上、原発事故の原因解明と規制・基準改革なくして、原発の再稼働はありえず、国民を再び、事故の危険にさらすことは避けなければならない。

 54基の原発が全停止しても、省エネと節電、そして融電(電力会社間の電力の融通)で乗り切る、全国的な取組と体制づくり、そして電力システムと合理化と改革、全国送電網の抜本的強化が不可欠である。

 ドイツでも、「エネルギー転換」への取組は、全ての関係者、政府、国民、企業、エネルギー関係企業の協力なくしては不可能であり、そのための体制づくりが必要であると強調されている。

 「原発なし」で電力エネルギーを供給していく、「制度と技術」は世界にすでに存在している。省エネ節電、ピークカット、融電、再生可能エネルギーに関する全国民的な取組と協力こそが、「1年後の福島」の教訓であり、多くの犠牲を無駄にしない道である。

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