2012年04月10日
しかしこのうちまず前者の「時間政策」は、以下に述べるように近年ヨーロッパにおいて大きく展開している新たな政策トピックである。そして本稿の趣旨は、そうした「時間政策」と、地域や都市計画、まちづくり、環境などに関する「空間政策」を統合していくことがこれからの時代の課題ではないかというものだ。
もしかしたら、それはアインシュタインの相対性理論において「時間と空間」が互いに独立した存在ではなく相互に関連し合ったものとされるのと、どこかで通じる世界観かもしれない。そうしたことについて以下考えていこう。
1)時間政策とは何か
さて時間政策time policyとは、上記のようにヨーロッパ諸国で近年広まった政策で、大きく言えば人々の労働時間(正確には賃金労働時間)を減らし、その分を地域や家族、コミュニティ、自然などに関する活動にあて、つまり時間を再配分し、それを通じて全体としての生活の質を高めていこうという政策である(OECD〈2007〉)。
この背景には、日本もそうであるように現在の先進諸国においては失業が慢性化しており、しかもその根本原因には構造的な生産過剰――これだけモノがあふれる時代において、人々の物質的な需要がほぼ飽和し、生産ないし供給が過剰となっているという状況――があるという認識が働いている。そして、こうした構造的な生産過剰→慢性的な高失業率という状況を踏まえて、トータルの労働時間を減らすことで、生産の総量を調整し失業率を減少させるという考えから、「時間政策」がとられるようになったのである。
たとえばドイツでは、「生涯労働時間口座」という仕組みが導入され、多くのドイツ企業に広がりつつある。これは、一人一人が生涯労働時間口座という口座を作り、社会全体が個々人の生涯の労働時間に対して債務を負っていると考え、口座の時間を人生のどの時期にどのように使うかは個人の自由とするという仕組みである。具体的には、超過勤務を行った場合には、その超過時間分を時間ポイントとして「貯蓄」し、そうして蓄えた時間分を、後でまとめて有給休暇として使うことができる(田中〈2008〉参照)。
またオランダは、2006年から「ライフコース・セイビング・スキーム」(Levensloopregeling)と呼ばれる制度を導入したが、これは個人(被雇用者)は毎年の給与の最大12%を貯蓄し――その部分は非課税となる――、それを後の時期の休暇における生活費にあてることができるというものである(貯蓄額の上限は年間給与の2.1年分)。
以上のような政策は、「時間政策」という言葉が文字通り示すように、(賃金)労働の時間や家族で過ごす時間、地域での活動の時間あるいは余暇の時間等々といった、さしあたり個人にとっての「時間」の使い方やその配分に関するものである。
それは長期のレベルではいわば「人生の中のワークシェアリング」、つまり人生の中での労働と余暇の時間をフレキシブルに調整し、それを通じて生活全体の豊かさや「創造性」を高めることをめざした政策と言ってよいだろう。
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください