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  ここで「時間政策と空間政策」というテーマに関連する論点をもうひとつ挙げておきたい。

3)「生産性」概念の転換と時間・空間――エコロジー税制改革を手がかりに
 日本ではあまり知られていないが、環境税を導入しているヨーロッパの国々の多くは、意外にも環境税の税収の相当部分を社会保障に使っている。たとえば、ドイツは1999年に「エコロジー税制改革」に乗り出し、環境税を導入するとともに、その税収を年金にあて、そのぶん社会保険料を引き下げるという大胆な改革をおこなった。環境負荷を抑えつつ、社会保障の水準を維持し、かつ社会保険料を下げることで(企業にとっての雇用に伴う負担を抑えて)失業率を低下させ、かつ国際競争力を維持するという、複合的な効果をにらんだ総合政策である。

 その根底にある理念は次のようなものだ。すなわち、かつては、人手が足りず、自然資源が十分あるという時代だったので「労働生産性」(少ない人手で多くの生産を上げる)が重要だった。しかし今は全く逆に、人手が余り(=慢性的な失業)、自然資源が足りないという逆の状況になっている。そこでは「環境効率性(ないし資源生産性)」、つまり人はむしろ積極的に使い、逆に自然資源の消費や環境負荷を抑えるという方向が重要で、こうした「労働生産性から環境効率性へ」という大きな方向を進めていくために、「労働への課税から資源消費・環境負荷への課税へ」という政策を具現化するものとして上記のエコロジー税制改革がなされたのである。

 読者の方は気づかれたと思うが、これは本稿の初めで「時間政策」の背景として指摘した点、つまり現在の先進諸国における構造的な生産過剰と慢性的な失業という状況という、同一の問題に対応した政策展開である。エコロジー税制改革は、こうした状況認識を踏まえて、主として「空間」にかかわる環境政策と、主として「時間」にかかわる労働政策・社会保障政策を融合した内容となっており、ここでいう「時間政策と空間政策の総合化」の一類型と見ることもできるだろう。

 さらに考えれば、上記の「労働生産性」という生産性概念は、基本的に「○/時間」、つまり時間あたりの生産量などという発想のコンセプトであり、他方、「環境効率性」という概念は、資源あたり、あるいは土地あたりという、大きくは「空間」を分母にすえたコンセプト「○/空間」と把握することができるだろう(ちなみに環境政策の分野でよく知られた「エコロジカル・フットプリント」も、「土地」ないし空間を分母にとった概念だった)。したがってこのテーマは、「生産性」という基本概念を、時間・空間との関連でどう理解するかという、「経済」システムの根幹にかかわる主題でもあるのだ。

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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

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