吉田文和
2012年04月24日
再生可能エネルギーの固定価格買取制度で先行するドイツの経験を十分踏まえる必要がある。そのドイツ最大の太陽光パネルメーカーのQセルズが法的整理に入り、続いてアメリカのソーラー・トラストも破綻手続きを申請した。ここにきて、欧米系の太陽光パネルメーカーは軒並み赤字で経営危機に陥っている。この間、パネルの価格は技術革新と競争の激化で急激に低下し、中国製のシェアが拡大した。
他方で、ドイツなどの再生可能エネルギーの固定価格買取(FIT)価格も低減されて、現在ドイツ国会で検討中の太陽光FIT価格改定では、電力価格と同等とされるグリッドパリティをついに突破し、10kWまでの買取価格が19.5セントとなり、家庭用電力価格の25セントを大幅に下回った。さらに、10MW以上のメガソーラー用のFITはついに買取中止とされている。ドイツのパネルメーカーは、市場の半分を占める10kW-1000kW級が16.5セントと大幅に低減されることに危機感を持って反対しているが、今回の改定の意味するところは、ドイツの太陽光FITが家庭用の自家消費促進型のモデルに近くなったということである。昼間用の太陽光の余剰分が買い取られ、夜間は受電するという日本型のモデルに近くなる。
ドイツでは、再生可能エネルギーは電力の20%を占め、太陽光パネルは再生可能エネルギーの過半の投資が行われているにもかかわらず、再生可能電力中の比率は、風力(38%)、バイオマス(30%)と比べて15%にすぎない(2011年値)。一次エネルギー消費の比率にいたっては、わずか0.8%である。これでは、太陽光パネルはどう見ても費用対効果の悪いエネルギー投資である、という批判がドイツ国内で相次いだ。ドイツの太陽国パネルメーカーは、完全に過剰投資状態で、一種のバブルに陥り、中国製のメガソーラー用の低価格品が追い打ちをかけた。
太陽光発電の意義は、とくに家庭用の場合、エネルギーの消費者が同時に生産者ともなることができ、小規模分散型電源となり、さらに各家庭でのパネル設置により、平均15%程度の節電が行われるなどの、省エネ促進効果になるということである。
FIT制度の制定に当たっては、1)再生可能エネルギーの比率をどこまで高めるかという目標設定、2)優先接続、3)送電線整備が重要である、と私は指摘してきた。同時に、FIT買取価格は、消費者が広く負担するので、1)再生可能エネルギーへの投資ができる高所得者分も低所得者が負担することになるという問題、2)産業用電力の負担増加について、配慮する必要がある。これについては、高電力負担産業については、石油石炭税利用による補助が行われることになっている。
ドイツの場合、家庭用電力価格の25セント/kWh中の3.53セント分(14%)、産業用電力価格の13.58セント/kWh中の3.53セント分(26%)がFIT分となっている。高電力消費産業への特別措置はあるものの、FITによる国民負担は限界に達しているとい声が出ている。
日本では、まだ初期段階にある再生可能エネルギーの普及促進、国民負担の程度、費用と効果の比較検討、バブルの抑制、などの政策目標をバランスよく考慮することが、FIT制度の価格設定に当たって、大変重要である。
そのためには、各再生可能エネルギーの開発段階、コスト、今後の見通しについての詳細な調査と情報公開が不可欠である。ドイツでは、再生可能エネルギーと原子力の安全規制が環境省の管轄となっており、環境省のHPには、再生可能エネルギーについての詳細な情報開示がなされて、各エネルギーについて技術とコスト分析報告が公開されて、価格設定の根拠が示されている(注)。
(注) Vorbereitung und Begleitung der Erstellung des Erfahrungsberichtes 2011gemass § 65 EEG im Auftrag des Bundesministeriums fur Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit
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