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【北大HOPSマガジン】北海道から再稼働の条件を考える

吉田文和

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

5月5日の北海道電力泊原子力発電所3号機の定期検査による停止の前に、関西電力大飯原子力発電所3号機、4号機の運転を再稼働させる動きが急である。

 そもそも昨年3月7日に定期検査終了直前の調整運転に入った泊3号機は、3月11日の福島の事故を受けて、総点検のために、一旦運転停止すべきものであった。それがそのまま運転を続け、8月になり、営業運転を認めるという事態になった。

 そこで、私ども北海道の研究者50名は、緊急声明を出して、運転にかかる5つの条件を明らかにした(8月15日)。とくに、周辺の活断層の調査、第3者評価、地震と津波対策の前倒し、避難計画と範囲の大幅な見直しと拡大を求めた。これらの条件は、現在にいたって、ますます重要になっていると考える。

 そこで、現時点に立って、国、北海道、北海道電力の三者の役割と果たすべき義務に関して再提案したい。まず、国においては、福島の事故を防ぐことができなかった、これまでの原子力規制、避難計画、そして当時の事故への対応と情報公開の不備について、総点検し、規制体制と基準の見直しと出直しが必要不可欠である。

 にもかかわらず、事故から1年以上たっても、国の事故調査・検証委員会の正式な報告書はだされず、政府の各関係対策会議の議事録も作成されていない事実が明らかになった。

 さらに、新たな原子力規制庁も発足せず、事故を防ぐことができなかった原子力安全・保安院と原子力安全委員会がそのまま残った状態が続いている。福島の事故の重大性は、同じ基準と体制で運転が許されてきた日本の原子力発電所48基(54基マイナス福島6基)が、同じリスクに晒されているという事態である。

 3月11日当日、すでにメルトダウンが起きていたにもかかわらず、それを認めず、避難指示が遅れ、「ただちに健康に影響はない」と国民に繰り返してきた官房長官の言説が、SPPEDIの情報公開の遅れと相まって、福島原発周辺の自治体の避難を遅らせ、放射能被ばくを拡大させた責任は非常に大きい。

 その責任者の官房長官が現在、産業経済大臣となり、原子力規制・基準・規制体制の改革が実質上、何も行われていないにもかかわらず、「即席の基準」で、原発再稼働に動いていることは、まことに異常というほかはない。

 いわば、事故を防ぐことができなかった「戦犯」が、その責任を問われることなく、また体制を変えることなく、まるで事故がなかったかのように、「再出発」「再稼働」に動いているのである。大飯原発3号機、4号機の再稼働の条件が、そのまま他の原発の再稼働の条件になる恐れがある。だからこそ、大飯原発の再稼働を突破口にしようと見られる。

 国会の事故調査委員会で斑目原子力安全委員長が証言しているように(2月15日)、従来の安全審査指針類に瑕疵があり、立地審査指針の基準も抜本的な見直しが必要であり、炉心溶融などの過酷事故の規制強化が必要なことは明白である。

 そこで、国全体では、第三者性の高い原子力規制庁を設立して、新たな体制で、安全基準を作り直して、過酷事故対策、全電源喪失対策、避難にかかわる基準と指針の厳格な設定と実施が必要不可欠である。それに基づいて、全国の原発の総点検を、ストレステスト(第2次評価)などを含めて行うべきである。これらは、大阪府市統合本部のエネルギー戦略会議からもすでに提案されている(4月10日)。

 つぎに行政機関として、都道府県、とくに北海道の果たすべき役割について指摘したい。北海道電力は、北海道、後志管内泊村、共和町、岩内町、神恵内村との間で、「泊発電所周辺の安全確保及び環境保全に関する協定書」(1986年、3度改定)があり、その第14条に、北海道は「原子炉の一時停止」など適切な措置を求めることができるとなっている。しかし、この協定書は北海道と地元4町村しか含まれていない。

 福島の事故から明らかなように、放射能の直接の影響は、福島市や郡山市など60km以上の範囲に及び、さらに80-100km以上にも影響があった。泊原発から真東の手稲山まで60kmの人口200万人に近い札幌市も、当然、避難計画と「地元」の範囲に入るべきである。

 とくに、北海道は各自治体と協力して防災避難計画の策定、実施に力を注ぐべきである。また、地元の要請の強い、避難路の確保拡充、現在原発から2kmの至近距離にある、オフサイトセンターの立地と設備の再検討が急がれるべきである。豊かな自然と第1次産業を基礎とする北海道にとって、放射能汚染の防止は、何よりも最優先課題である。

 3基の原子力発電炉を有する北海道電力は、福島の事故を受けて、地震・津波への対応として、以下の対策を行うとしている。

《1》発電所の外から電力を供給できるようにする→2015年めど

《2》移動発電機車を追加配備する→2012年めど

《3》電動の海水ポンプと代替海水取水ポンプを確保する→2012年めど

《4》電気設備の浸水対策の実施→2015年めど

《5》安全上重要な機器が設置されたエリアの浸水対策→2013年めど

 このほか防潮堤の建設(2014年)なども加えている。

 しかし、これらの対策には、福島第1原発では設置していたベント(フィルター)、免震対策本部などは含まれておらず、原子力安全・保安院が指示している周辺活断層の調査と再評価も入っていない。

 とくに、福島第1原発で最悪シナリオ作成の根拠となった使用済み核燃料の貯蔵状況については、すでに1号機、2号機は満杯に近く、3号機に移している。これらは、格納容器に入っておらず、その冷却と地震・津波対策、電源確保についての情報開示が不十分である。泊原発に関わる放射能のリスク管理の上で、最大の問題である。

 次に泊原発の再稼働問題については、第1号機、第2号機のストレステストは、第1次評価のみであり、テロ対策や過酷事故対策を含む第2次評価は提出されていない。また原発ゼロのケースも含めた電力需給の見通しについても公表されていない。とくに、関西電力が大阪府市の要請に基づいて開示した、電力需給見通し、設備状況、需給調整契約、燃料代とコスト、人件費にかかわるデータ、広告や寄付金についてのデータは、北海道電力においては開示されていない。

 北海道電力は、原子力発電以外の電源について、天然ガス火力発電所は、石狩新港に立地予定計画(160万kW)を明らかにしているが、再生可能エネルギーについては、5%の枠にこだわり(740万kWの発電容量に対して36万kW)、20万kWの追加枠もあくまで東京電力との試験運用であるという。

 その20万kWの枠に対して、187万kWの風力、90万kWの太陽光発電の応募があった。それだけ合計しても、277万kWとなり、原発3機分の容量を超える。再生可能エネルギーの稼働率を仮に3割程度と計算しても、90万kWの電源が得られる。そのための送電線の拡大に、道内では2000億円、本州との接続に5000億円もかかるという試算が示されているが、詳細は不明である。根拠の不明確な計算で、再生可能エネルギーの高コストが強調されていると疑われかねない。

 関連して、後志管内京極町に建設中の揚水発電所(20万kW×3機)は当初、泊原発との連携運用を想定されていたが、その運用方法についても情報開示が遅れている。風力や太陽光の変動負荷対策用としても揚水発電所の位置づけが可能であるはずだ。そうすれば、5000億円もかけて本州に送る必要性は低くなる。

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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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