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昨年、話題となった「『光より速い素粒子発見』 国際実験 相対性理論と矛盾」(9月24日付朝日新聞1面)。「超光速ニュートリノ」はその後の再実験でも同様の結果と伝えられたが、昨年末から今年始めの機器のチェックで2つの「誤りの可能性」が見つかった。別の装置による追試実験では「ニュートリノの速度は光速と同じ」だった。このためか、3月末に実験リーダー2人が辞任した。マスコミでは「タイムマシンができるかも」と騒がれた「超光速ニュートリノ」の扱いは寂しくなりつつある。5月に行われる再々実験でほぼ最終決着となると思われるが、「超光速ニュートリノの虚々実々(上下)」(2011年10月15日17日)の続報として、これまでの経緯をまとめておく。

「異例の結果」はどう受け止められたか?

拡大2011年9月23日にスイス・ジュネーブのCERNで行われた「超光速ニュートリノ」公開セミナー。席はぎっしり詰まり、立ち見まで出た=CERN提供

 スイス・ジュネーブの欧州合同原子核研究機関(CERN)から発射された素粒子「ニュートリノ」を730キロ離れたイタリアのグランサッソ国立研究所の検出器で捕まえるというOPERA国際共同実験で、ついでにニュートリノの速度を測ってみたら、光よりも60.7ナノ秒早く着き、超えるはずのない光速度を0.0025%上回っていた、という結果が昨年9月23日発表された。アインシュタインの特殊相対論を破る結果はあまりにも常識から外れていた。論文でも「われわれは……結果の……解釈を試みないことにする」と異例の表現だった。CERNでの実験結果を報告セミナーは満員=写真=、インターネットの動画中継もされて世界中の物理学者や科学ファンが注目した「大事件」だった。

 この結果を鵜呑みに信じる専門家はほとんどいなかった。その状況は「超光速ニュートリノの嘘々実々」で紹介した。とはいえ、こんな面白いものを物理屋はほっておかない。OPERAグループの論文を引用して書かれた論文は、これまでに220本以上(SPIRESという素粒子物理系の論文データベースですぐ分かる)。「光速度を超える可能性はこれ」、「超光速ニュートリノがあればこういう物理が生まれる」、「超光速ニュートリノから宇宙の時空構造はこうあるべきだ」……物理屋は、いろいろなことを次々に考える。

再実験、そして機器の検証……その結果は

 OPERA実験グループもじっとしていなかった。昨年10月から11月、これまでよりも短いパルスのニュートリノで速度を調べる再実験をおこなった。結果は9月発表とほぼ同じで改訂論文を11月18日に発表、ここまでは、「超光速」にまだ自信があった。

 ついで、12月から時間測定に使われたGPS(全地球測位システム)、OPERA実験の時刻決定の中核となるマスタークロック、それらをつなぐ回路など機器の徹底的検証が始まった。実験では、グランサッソ国立研究所の時計を衛星によるGPSの時計と同期させているが、マスタークロックは地下にあり地上と長さ8.3キロの光ファイバーで結ばれている。ニュートリノの信号とその時間を測る信号が回路の中をどう走るのかが詳しく調べられた。

 翌年3月に発表された報告書によると、次の2つの「問題」が12月の中旬までに見つかった。

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筆者

内村直之

内村直之(うちむら・なおゆき) 科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授

科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程満期退学。1981年、朝日新聞入社。福井、浦和支局を経て、科学部、西部本社社会部、科学朝日、朝日パソコン、メディカル朝日などで科学記者、編集者として勤務し、2012年4月からフリーランス。興味は、基礎科学全般、特に進化生物学、人類進化、分子生物学、素粒子物理、物性物理、数学などの最先端と科学研究発展の歴史に興味を持つ。著書に『われら以外の人類』(朝日選書)など。【2015年10月WEBRONZA退任】

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