2012年05月04日
「異例の結果」はどう受け止められたか?
スイス・ジュネーブの欧州合同原子核研究機関(CERN)から発射された素粒子「ニュートリノ」を730キロ離れたイタリアのグランサッソ国立研究所の検出器で捕まえるというOPERA国際共同実験で、ついでにニュートリノの速度を測ってみたら、光よりも60.7ナノ秒早く着き、超えるはずのない光速度を0.0025%上回っていた、という結果が昨年9月23日発表された。アインシュタインの特殊相対論を破る結果はあまりにも常識から外れていた。論文でも「われわれは……結果の……解釈を試みないことにする」と異例の表現だった。CERNでの実験結果を報告セミナーは満員=写真=、インターネットの動画中継もされて世界中の物理学者や科学ファンが注目した「大事件」だった。
この結果を鵜呑みに信じる専門家はほとんどいなかった。その状況は「超光速ニュートリノの嘘々実々」で紹介した。とはいえ、こんな面白いものを物理屋はほっておかない。OPERAグループの論文を引用して書かれた論文は、これまでに220本以上(SPIRESという素粒子物理系の論文データベースですぐ分かる)。「光速度を超える可能性はこれ」、「超光速ニュートリノがあればこういう物理が生まれる」、「超光速ニュートリノから宇宙の時空構造はこうあるべきだ」……物理屋は、いろいろなことを次々に考える。
再実験、そして機器の検証……その結果は
OPERA実験グループもじっとしていなかった。昨年10月から11月、これまでよりも短いパルスのニュートリノで速度を調べる再実験をおこなった。結果は9月発表とほぼ同じで改訂論文を11月18日に発表、ここまでは、「超光速」にまだ自信があった。
ついで、12月から時間測定に使われたGPS(全地球測位システム)、OPERA実験の時刻決定の中核となるマスタークロック、それらをつなぐ回路など機器の徹底的検証が始まった。実験では、グランサッソ国立研究所の時計を衛星によるGPSの時計と同期させているが、マスタークロックは地下にあり地上と長さ8.3キロの光ファイバーで結ばれている。ニュートリノの信号とその時間を測る信号が回路の中をどう走るのかが詳しく調べられた。
翌年3月に発表された報告書によると、次の2つの「問題」が12月の中旬までに見つかった。
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