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福島原発事故から1年余りが過ぎました。この1年間に実測データがいくつも公表されていますが、実測データが報道されるときには、常に最大値が取り上げられ、1人、2人の値に焦点が当てられます。このように例外的に高い数値の人に対しては、個別にその原因を調べて対応策を考えることが大切です。一方、国や県レベルで全体の体系的な対策を考えるときは、大多数の住民の被ばく量を踏まえる必要があります。今回はそういう視点に立って、住民の被ばく線量について、公表された調査データから分析してみます。

外部被ばく

 外部被ばくの測定は、「個人の行動記録」と環境の放射線量をもとに個人の外部被ばく線量を推定する方法と、個々人に「線量計」をつけてもらって直接に測定する方法があります。個人の行動記録は、原爆被爆者、JCO事故の周辺住民などで使用され、線量計は職業として被ばくする医療職、研究者、原発従業員など放射線業務従事者に使用されています。

 「個人の行動記録」として、福島県民健康管理調査では、先行調査地域(川俣町山木屋地区、浪江町、飯舘村)での事故直後4ヶ月間の累積外部被ばく線量の推計がまとまっています。20歳未満の1,693人を含む9,747人のうち、1mSv未満が5.636人(57.8%)、10mSv未満で9,676人(99.3%)、最大は23.0mSvでした。被曝線量が多い先行調査地域で、しかも被曝線量が最も多い事故直後から4か月間の被曝でも99%以上の方は10mSv以下の被ばく線量と報告されています。避難の目安の20mSvの半分以下になります。

 「線量計」による直接の測定として福島市は、2011年9月~11月にかけて中学生以下の子どもと妊婦、合わせて36,767人を対象に線量計(ガラスバッジ)を身に着ける方法で、累積外部被ばく線量を測定しました。その結果、3カ月間の合計線量は、0.5mSv未満が32,076(87.2%)、1mSv未満が36,657名(99.7%)、最大値は2.7mSvでした。2.5mSv以上の方は5人いましたが、いずれもガラスバッジを「屋外へ置き忘れた」「自転車に放置した」「空港で荷物のX線検査に通してしまった」といった事情のあることがわかりました。

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 この3か月の測定値を年間で表現しますと52%が1mSv未満、87%が2mSv未満、99.7%が4mSv未満となっています。

内部被ばく

 被ばくには、外部被ばくに加えて食事や呼吸によって放射性物質を体内に取り込む内部被ばくがあることは、福島事故後に広く話題になっています。内部被ばくの測定には、甲状腺のような「個別の組織」の測定と、ホ-ルボデイカウンターによる「全身の放射能」の測定があります。いずれも測定している時点の放射能(ベクレル)を測っているのですが、対象とする放射性物質の種類(ヨウ素、セシウムなど)の体内分布や代謝速度などを考慮して内部被ばく線量(シーベルト)に換算して表現されています。

 内部被ばくについて一番心配されたのは、

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筆者

長瀧重信

長瀧重信(ながたき・しげのぶ) 長崎大学名誉教授(放射線の健康影響)

長崎大学名誉教授。1932年生まれ。東京大学医学部卒業。東大大学院、米ハーバード大学などで学んだ後、東大医学部付属病院外来医長などを経て、長崎大学医学部教授(内科学第一教室)、放射線影響研究所理事長を務めた。長崎大学時代に被爆者の治療、調査にあたった経験を踏まえて、旧ソ連チェルノブイリ原発事故がもたらした健康被害の調査活動や東海村JCO臨界事故周辺住民の健康管理にかかわった。 【2016年11月12日、逝去】

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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