2012年05月11日
これまでの道筋を振り返ると、多くの人たちがトキの保護にかかわり、さまざまなドラマがあった。そうした歩みは多くの書物で紹介されており、児童向けノンフィクションに贈られる福田清人賞を受けることが4月に決まったばかりの『トキよ未来へはばたけ ニッポニア・ニッポンを守る人たち』(国松俊英著、くもん出版)でも、詳しく読むことができる。
野外でのトキ誕生をどう感じたか、身近な人々に尋ねてみて、私が心ひかれた答えの一つは「いいね。みんながトキに気をつかうことで、田んぼがきれいになるからね」というものだった。この場合の「きれいな田んぼ」とは、多くの生きものが集い、周囲には里山の多様な景観が広がる水田といった意味あいだろう。
トキは、植物質ではなくさまざまな動物質の餌を食べる。その復活にあたっては、餌としてのドジョウやカエル、バッタなどが豊富にいなければならない。そうした生きものが自然の中で途切れることなく季節ごとの増殖を繰り返していけば、その一部をトキが利用できる。野生のトキを支えるには、そんな田んぼの存在が欠かせない。
戦後の一時期に毒性の強い農薬が多用された結果、魚や虫などが農村地帯から姿を消していった。レイチェル・カーソンが著書『沈黙の春』で告発した生きものの消えた自然は、国内においても現実のものとなり、農薬はトキを絶滅に追い込んだ一因として数えられるようになった。
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