メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

節電というけれど…。誰も知らない家庭のホントの「需要カーブ」

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

節電の夏になりそうだ。「エアコン我慢」など、また家庭の節電PRが始まるだろう。しかし、おかしなことがある。節電の基礎になる「夏のピーク日の家庭の電力需要カーブ」がはっきりしないのである。家庭の消費はピークである昼過ぎが少ない「谷底」になっていると思われるが、電力会社は「詳しいデータはない」として出さない。元のデータがなければ節電の計画も検証もあいまいになる。昨年の東電がそうだった。

 今年は関西で大幅な節電が必要とされているが、このままでは、秋になって「節電に頑張っていただいたけれど、家庭部門の貢献はよくわからなかった」ということになりかねない。各社ともスマートメーターを一部導入している。まずはそのデータをだすことだ。「需要データを需要家の手に」。これが節電の第一歩である。

拡大図1: 猛暑だった2010年夏ピーク日の東電管内の電力需要カーブ(資源エネルギー庁資料)

 電力需要のピークは、暑い日の午後2~4時だ。この時間帯の消費を抑えれば停電が回避できる。家庭の平均像でいえば、昼は留守の家が多い。電力需要の谷底になって、社会全体の需要のピークカットをするような形になっているのではないか。しかし、そこがはっきりしない。効率的な節電には、家庭やビルなど各分野ごとの詳しい需要データが必要だが、それが整備されていない。

 夏の暑い日の社会全体の需要カーブはしばしば図1のようなものが示される。これは、猛暑だった2010年の夏の東電管内の全体の需要カーブだ。資源エネルギー庁による。

 しかし、大口需要家、小口(中規模)、家庭に分かれた内訳は正しい数字ではない。東電は大口の詳しいデータはもっているが、小口と家庭は合計したものしかないという。それで一応「こんなものではないか」と分割したものだ。

 そして、東電はこうした図をもとに、肝心のピーク時について、大口、小口、家庭が「おおむね3分の1ずつ」といっている。

 昨年の夏、東日本を中心に大規模な節電が行われた。この結果はどうだったか。ピーク需要をみると、東電では猛暑の一昨年夏(5999万キロワット)から18%減の4922万キロワットだった。東北電力で一昨年比16%減。それほど節電の必要がなかった関電では11%減だった。

拡大図2: 各分野の節電の推定。2010年と2011年。東京電力管内。(日本エネルギー経済研究所の資料から)

 東電のピーク時(一昨年の5992→去年の4922万キロワット)について、東京電力は、大口は2050→1450万キロワットに29%減、小口は2150→1750万キロワットに19%減、家庭は1800→1700万キロワットへ6%減と発表した。図2。

 数字は先述の資源エネルギー庁のものと、かなり異なる部分がある。一昨年のピーク時の大口の貢献が大きくなっている。

 そしてここでも、小口と家庭は合計でしかわからないところを、「こうだろう」と割り振りしたものだ。

 ほかの電力会社もこの種のデータを出すときは同じことをしている。

 しかし、私は「家庭のピーク時は6%削減」に疑問を感じた。あれだけ、家庭で「昼のエアコンを我慢しよう」とPRしていたのである。それがたったの6%減?

 夜も昼も含めた「8月全体の電力量」では、家庭は、一昨年より18%も削減している。つまり、停電には関係ないところでものすごく節電して、大事な昼過ぎには、節電しなかった、となっているのである。

 私の考えは、もともとの家庭の需要カーブの形も、一昨年のピークの1800万キロワットも、昨年ピークの1700万キロワットも、すべておかしな数字だと思っている。昼はもっと「へこんでいる」し、家庭部門がピーク時に占める割合も3分の1よりもっと少ないのではないかと思っている。

拡大図3: 家庭の電力消費カーブ。日本生活協同組合連合会のモニタリング。2002年。

 「この6%削減」という、昨年夏の節電のまとめを発表した東電の記者会見で、私は、「家庭全体の一日の詳しい需要カーブを出して欲しい。そうしないと本当の節電貢献は分からない」といった。

 担当者の答えは「ない」というものだった。しかし、かなり多くの家庭にはスマートメーターをつけてモニターしているではないか。時間データも入ったデータを収集しているはずだ。

 そのサンプル調査の需要カーブでいいから示して欲しいともいったが、それも「ない」との答えだった。

 しかし、東電は今年の夏から「スマートメーターが入っている家庭では時間別料金を導入したい」といっている。もっているのである。この昨年までのデータを出して欲しい。

 電力会社はとにかく家庭の電力データをあまり出したがらないのである。

 電気をつくるコストは夜と昼では大きく異なる。「発電コストが高い昼過ぎに消費が少なく、それ以外の時間帯に消費が多い」ということがわかれば、「家庭の電気代は高すぎるのではないか」など、さまざまな疑問がでるからではないかと思っている。

 電力会社は出さないが、いくつかのモニタリングの結果が公表されている。2002年に日本生活協同組合連合会が、全国でモニター調査をしたデータがある。図3。昼間は、需要カーブが大きくへこみ、夕方以降に高くなっている。

 夏の暑い日の家庭のデータとして、公表されているものを集めたのが、図4である。先述の生協のモニタリングの夏のデータも含まれている。昼には留守がちで、帰宅したあとにエアコンのスイッチを入れるという生活がはっきり見える。考えてみれば、当然の形だ。

 しかし、形は似ているが、「1世帯あたりの電力使用量」は全くことなる。資源エネルギー庁のものは非常に多い。そのデータでつくった「家庭の総需要」が図1である。だから、私はピーク時の家庭の寄与度は、本当のところはまったく分かっていないと思う。

拡大図4: 家庭の真夏の電力消費カーブ。夕方にピークがある。

 家庭の需要は、結局のところ、ピーク時の貢献はそれほど大きくないと思える。昼のピークを押し上げているのは、工場などの大口、ビルや商店などの小口だ。そして、家庭は「昼には消費がへこんでいる」のでそもそもピークカットに貢献しているのではないか。

 かつて、「電力需要のピークは、各家庭で、夏の甲子園大会の決勝戦をエアコンをかけて見るから」ということが言われた。今や「都市伝説」である。

 「大口、小口、家庭の需要カーブの形と貢献割合」をもっと詳しく知りたい。それがなければ、効率的な節電計画は立てられない。昨年、東電管内では15%の節電要請が出されたが、「大口、小口、家庭のどれもが15%削減すれば全体でも15%の削減になるから同じこと」というずさんな説明で済まされていた。

 しかし、これでは検証ができない。秋になって、「どこの部分がどれだけ節電したのか」について分析できない。昨年のように、「家庭は6%だけだった」とおかしなツジツマあわせに終わるだろう。

 各電力会社は、家庭の需要動向をサンプル調査しているはずだ。時間データが入るいわゆるスマートメーターも、かなりの数をつけている。そこからみえる需要カーブの形と需要量を示して欲しい。

 日本原子力産業協会の服部拓也理事長は、昨年9月に開かれたシンポジウム(朝日地球環境フォーラム2011)で「節電のデータ開示は十分ではない。この夏どうだったのか、総括されていない。国民の協力でどこまでできたのか、どこにしわ寄せがあり、どうカバーしたのか、コストがどれだけ上がったか、開示しないと議論が進まない」と述べていた。大きな進歩のないまま、今年は節電の舞台を東京から関西に移しただけで同じような、「データなき節電議論」が行われている。

 家庭の需要データを東電に求めたのが、東京都世田谷区だ。保坂展人区長は、昨年、「世田谷区だけ、あるいはそこを多く含む部分だけの電力需要を同時進行で教えて欲しい。電力危機が起きそうになったら、メールなどで世田谷区民に緊急に知らせて、電力消費を抑える協力をしたい」と申し入れた。

 世田谷区はほとんどが住宅だ。「全世田谷区」のデータが分かれば、東京の家庭の全体像がほぼ正確にわかる、と期待した。しかし、東電は拒否した。お金がかかかるとか、さまざまな理由を挙げていた。世田谷区は、そうした東電の姿勢、そして一方的な電気料金値上げのやり方に怒って、ついに、今年、区内の施設を東電以外から電気を購入することに決めた。

・・・ログインして読む
(残り:約411文字/本文:約3695文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

竹内敬二の記事

もっと見る