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ドイツの研究者と、こんな議論をしたことがある。日本は福島の事故のあと、15%程度の節電を達成したし、計画的ではないが、事実上の脱原発状態になった。これに比べて、ドイツは省エネの計画もあり、2022年までの脱原発のスケジュールを決めたが、なかなか計画通りにはすすんでいないという。つまり、脱原発に関しては、戦略性、計画性のドイツに対して、戦略性、計画性のない日本という違いがあるのだが、他方で実際は、「実施の遅れのドイツ」に対して、省エネと事実上の脱原発状態の日本という対比が見られるのである。この対比をどのように理解し、日独のそれぞれの脱原発という課題に対して、示唆するものは何かを考えてみたい。

 省エネに関しては、日本は東日本大震災での2万人にも及ぶ犠牲者を前に、国民一人一人の意識が変わり、節電に努め、多少の不便を我慢したということが背景としてまず指摘できる。さらに体系的・戦略的な省エネの深堀をすすめ、産業構造の変革の展望とのかかわりで、省エネの一層の深化を図る必要がある。

 日本は1次エネルギー投入と最終消費エネルギーを比較した場合、約30%程度のエネルギーロスがある。第1は、火力発電所の発電ロスであり、石炭火発、LNG火発の複合ガス化発電、コンバイドサイクル発電など、高効率化をすすめることである。また、日本は縦割りのために熱電併給が遅れ、排熱の利用の余地が大きく、とくに北方都市では期待される。第2に、生産プロセスの省エネに関しては、トップランナー方式の採用で、省エネ技術と運用を普及する必要がある。消費過程の省エネと節電も、まだまだ余地がある。日本でしか普及していないウオッシュレットトイレや自動販売機だけでも、原発1基分の電力を消費しているといわれる。

 これに対して、ドイツは省エネ建築基準がつくられ、新設については実施されているが、既設分については、改築補助金制度があるものの、所有者の負担があるので、なかなか進展していない。ドイツの省エネにかかる大きな課題は。自動車利用による化石燃料消費と二酸化炭素排出問題であり、ドイツの主要産業としての自動車産業の力が大きく、新幹線など鉄道の整備も遅れている。この点では、日本の公共交通網と新幹線整備利用は比較優位にあり、一層すすめられる必要がある。

 つぎに脱原発についてはどうか。ドイツは10年間での脱原発を決めたが、その理論的な裏付けを行った「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」報告が指摘するように、エネルギー利用に関する技術的経済的な判断の前提に、社会的倫理的判断が優先されるべきであるという立場が重要である。

 しかし、日本では福島事故から1年以上たっても、政府や国会の事故調査・検証委員会の報告は出されず、事故の背景・原因・経過そして教訓もいまだ明らかになっていない。にもかかわらず、今まで通り、経済産業省の審議会で、今後のエネルギーの基本方針を決めようとし、根本的問題を回避し、原発の比率をどうすべきか、という議論を延々と続けているのである。まず、決め方を変えなければならないのである。

 スイスの原子力安全規制局は、福島事故から半年たって、独自の調査に基づき、39の「福島の教訓」(ドイツ語)をまとめ、その前半部分で、福島事故の構造的発生原因を厳しく指摘していることは、webronza5月16日付けで紹介したとおりである。そこで指摘されている、電力会社の安全軽視文化、経済的理由で安全が制限された問題、規制の曖昧さと責任の不明確さ、保安院が経済産業省のもとにあるという利益相反、集団主義の危険性(「原子力ムラ」問題)などは放置され、いまだに原子力規制庁はできず、原子力安全委員会の責任者は変わっていない。

 にもかかわらず、政府は「即席基準」によって、関西電力大飯原発3号機、4号機の再稼働をめざし、周辺町村や京都府、滋賀県、大阪府市の反対にあっている。「電力不足」を理由に原発再稼働を行おうとする政府に対して、省エネとピークカット、融電、自家発電、などあらゆる手段を使って、原発ゼロでこの夏を乗り切れるかが、いまやこの国の一大争点となっているのである。

 これに対して、ドイツの脱原発の進行状況はどうか。ドイツはもともと社会民主党と緑の党の連立政権時代の2002年に2022年までの脱原発を決 めていたこともあり、火力発電所の近代化計画や熱電併給発電、そして再生可能エネルギー利用については、計画的に実施してきた。今回の決定は、それに戻る決定であるが、原発に代わる電源としての再生可能エネルギーの送電網の建設が大きく遅れている。とくに原発の立地が多い南部ドイツに対して、北部に多い風力発電力を送る送電網を新たに4500km建設しなければならないにもかかわらず、その建設がほとんど進んでいないという。送電線の通過地点の反対が強いのである。

 また、20年近い歴史をもつ、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)制度も、いま大きな転換点にある。とくに、ドイツ国会で審議中の新たな提案では、太陽光電力の買取価格が大幅に下がり(10kWまでで19セント/kWh)、電力料金を下回るグリッドパリティになっている。大規模なメガソーラーも買取は今後行わない方針である。FITの価格も変動する市場価格制の電力料金に上乗せされるプレミアムFITに移行する方向である。

 これに対して、日本は今年から本格的なFIT制度が始まろうとしている。すでに買取価格も決定され、発電事業者側の要望通りの高い価格水準と期間に設定された。電力の約20%を再生可能エネルギーで賄っているドイツと、これからの日本とでは、発展段階が異なることを踏まえたうえで、ドイツのFITの経験と教訓を日本は十分に学ぶ必要がある。

 日本の太陽光発電の買取価格が42円/kWh、20年という水準は、ドイツの2倍以上であり、とくにメガソーラーについては、安価な中国製のパネルを使えば、有利な投資対象となるので、この分野への参入が相次いでいる。

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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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