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ロボットはW杯を制覇できるか?〈上〉

ランドマークとしてのロボカップ計画

北野宏明

北野宏明 ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

 FIFAワールドカップ(W杯)2014のアジア最終予選のスタートが近づき、サッカーファンは少しずつ緊張が高まっている日々だ。今日は、もう一つのサッカーワールドカップのお話をさせていただこうと思う。皆さんは、ロボカップ(RoboCup)というプロジェクトのことを聞いたことがおありでしょうか?

 これは、私も含む日本人研究者数人が中心となって1990年代初めに構想され、97年から実行に移された。「2050年までに、完全自律型のヒューマノイドロボット(人型ロボット)で、FIFAワールドカップの優勝チームとFIFAの公式ルールで試合を行い、勝利する」という目標を掲げている。97年に名古屋で第1回大会が開かれ、現在では35カ国以上から数千人の研究者が参加する大プロジェクトになっている。

拡大RoboCup中型ロボットリーグのフィールド。これは、車輪型ロボットのチームの対戦。ロボットは完全自律型で人間は一切介入しない=筆者撮影

 RoboCupが、サッカーを題材とした理由は、ロボット工学と人工知能の分野で21世紀の基幹技術になりそうなもの(分散自律処理、実時間応答システム、不完全情報下での意思決定システムなど)を想定し、それらを包含し、誰にでも一言で理解してもらうことが可能で、さらに研究者自身が熱くなれるテーマとして選ばれた。

 これから必要となる技術は、チェスや将棋のように、すべての状況が理解でき、順番に駒を動かすような問題ではない。不確実な情報をもとに刻一刻と変化する状況下で、ベストではないかもしれないがベターな判断を下し、それを実行できる技術体系だろう、というのが、我々の分析であった。いろいろなテーマの候補があったが、最終的に次世代技術の要素を最も含んでいて、世界中で受け入れられるテーマとして、サッカーが選ばれたのである。よく、私がサッカーファンなのでそれを選んだのだと誤解されるが、実は逆で、サッカーは極めて論理的な分析の結果として選択された題材なのである。私がサッカーファンになったのは、RoboCupを通じて、サッカーの面白さに気がついてからなのである。

拡大試合前に、ヒューマノイドロボットの調整をするドイツの大学院生=筆者撮影

 サッカーで世界チャンピオンになったとして、それが何の役に立つかと考える人もいるであろう。もちろん、なにかに直接役に立つわけではない。このプロジェクトの本質は、実は、サッカーに勝つことではなく、その過程で生み出される技術を世の中にインパクトのある形で広めて行くことにある。我々は、これをランドマーク・プロジェクトと呼んでいる。

 つまり、人類の歴史に残るような目標を掲げるが、それ自体は「記念碑(ランドマーク)」にすぎない。

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筆者

北野宏明

北野宏明(きたの・ひろあき) ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長兼所長。1984年国際基督教大学教養学部理学科卒業後、日本電気に入社。88年米カーネギー・メロン大学客員研究員。91年、京都大学で博士号(工学)を取得。1993年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、犬型ロボットAIBOなどの開発にかかわった。2008年に現職。NPO法人システム・バイオロジー研究機構会長を兼務。Computers and Thought Award (1993)、ネイチャーメンター賞中堅キャリア賞(2009)などを受賞している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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