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「放射線学」を大学入試の必須科目にしよう

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

 私の故郷・静岡県島田市が、全国に先駆けて広域ガレキ処理の受け入れを表明し、その結果大規模な反対運動が起きたことを記事に書いた(WEBRONZA2012年2月22日)。

 その後、全国各地で同様な反対運動が、多数起きている。5月22日には北九州市で、試験焼却を阻止しようとする男性2人が公務執行妨害で逮捕される事件にまで発展した。

拡大北九州市小倉北区のがれき搬入施設前で4月22日、トラックの前に座り込む反対派市民らを警察官が排除した=藤脇正真撮影

 このような反対運動の裏には、騒動をあおり立てる外部の人間の存在と、政治に対する不信感がある。

 私は、島田市役所に数回足を運び、騒動を鎮静化する方法を、参与や環境課、教育委員の方々と話し合った。その中で、「根本的に解決するにはこれしかない」という具体策を提案した。本稿ではその内容を紹介し、更に文部科学省への提案を述べたい。

 まず、反対する多くの市民の心理は次のようなものであった。放射線の正体がよく分からない→分からないから何となく怖い→そこに付け込まれて恐怖心をあおられた→(わずかでも放射性物質が付着しているなら)ガレキ受け入れは絶対反対、となっていった。

 これがエスカレートして、子供の尿から0.1ベクレル/リットルのセシウムが検出されたことで「もうこの子は死ぬ」と毎晩泣いていたり、「島田市は放射能汚染により死の街になる」から愛知県より西に引っ越そうとする人も現れた。

 このようなことに対する根本的な解決策は、市民全員が「放射線とその影響」に対する正しい知識を持つ以外にはあり得ない。島田市は、有名な医大の先生を招いて講演会を開催したりしたが、それでは解決しない(やらないよりマシではあるが)。

 私の提案した具体策は次の通りである。

 まず、小学校、中学校、高校の先生全員に、「放射線とその影響」に関する研修を受けてもらう。理科の先生だけではない。国語、社会、英語など文系の先生にも全員、研修を受けてもらう。

 そして研修を受けた先生が、小学校、中学校、高校の教室で、自分の言葉で、生徒に分かるように、「放射線とその影響」を教えるのである。その際、先生は、ガレキ受け入れに、「賛成」とか、「反対」などの意見は言わない(言う必要が無い)。

 もし島田市が「放射線とその影響」というような市民講座を開く場合は、上記の先生(特に小学校の先生が良い)が講師を務める。

 時間はかかるかも知れないが、上記がもっとも確実な解決策だと私は考えている。島田市役所や教育委員の皆さんにも概ね賛同して頂けた。今後、島田市は、理科の先生が中心となってテキストを編纂し、研修会を開くことを計画している。ここまで関わった以上、私も協力は惜しまないつもりだ。

 以上は島田市の取り組みであるが、これを全国に広げるべきだと考えている。

 そこで、文部科学省へ提案したい。「放射線学(仮称)」を、小学校、中学校、高校、大学の必須科目にしたらどうか。そして、大学入試センター試験で全員が受ける科目とし、センター試験を課していない大学では個別試験で必ずこの分野の問題を出すようにする。

 「放射線学(仮称)」には、理科、社会(歴史、政治)、算数、道徳などの要素が詰まっている。一つの科目として教えるのが相応しい。

 世界の中で日本は唯一の原子爆弾の被爆国である。その上、レベル7の原発事故を起こした国になった。日本人は、今後、数十年以上、放射性物質と付き合っていかなくてはならない。これは被災地か否かは関係ないことである。

 一つの例が広域ガレキ処理の問題だ。こういう問題に対して、誰もが正しい知識を共有した上で、同じテーブルに着いて、賛否を議論するという姿が望まれる。今問題になっている原発再稼働についても、誰もが同じ知識を共有した上で議論することが必要だ(現在そうなっているとは思えない)。

 「放射線とその影響」に関する知識は、日本人全員にとって、もはや必要不可欠な教養である。したがって、小中高および大学すべてにおいて、学ぶべきだと考える。

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筆者

湯之上隆

湯之上隆(ゆのがみ・たかし) コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

1987年京大修士卒、工学博士。日立などで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、各種雑誌への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。 【2016年8月WEBRONZA退任】

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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