2012年06月11日
いまも15万人以上の人々が避難生活を送り、福島第1原発そのものが放射能汚染の発生源となり、いまだに収束の目途も立っておらず、第4号機の使用済み核燃料プールも依然として危険な状態を脱していない。福島の事故の組織的・技術的問題点と教訓を明らかにし、日本全国で対応策を取ることがいままさに求められているのである。
しかしながら、政府は「電力不足」を理由に「即席の基準」をつくり、関西電力の大飯原発3号機、4号機を再稼働しようとしている。周辺自治体や関西広域連合の知事も、これを認める方向である。大飯原発の再稼働は、「電力不足」に対する例外的措置なのか、他の原発の再稼働の前例となるのか、ストレステストの1次評価のみで十分なのか、これらの点が今後大きな問題となる。
福島の事故からやがて1年半近くになるというのに、いまだに政府と国会による事故調査・検証委員会の報告書はできず、当時の関係者の聞き取り調査が続いている。また当時の政府の各対策委員会の議事録も作成さていないことが明らかになっている。
これに対して、半年で150回もの公聴会を開いて報告書をまとめたアメリカのスリーマイル島原発事故の例や、事故調査ではないが、2カ月で脱原発の理論づけを行ったドイツの倫理委員会報告の事例を見れば、彼我の差は明かである。
日本の事故調査の最大の問題は、事故後の対応に焦点が当てられ、「犯人」探しが行われる傾向があり、かつ事故を起こした技術的欠陥に中心がおかれ、制度的・組織的欠陥問題を避けていることである。日本は、ハイテクとされる原子力技術と発電システムを、地震と津波の多い日本の条件で維持管理していく組織的・技術的能力を持ち合わせていないことが明らかになってきたのである。
このことを明確に指摘しているのが、スイス原子力安全規制局の報告「福島の教訓」(2011年10月)である。スイスは5基の原発を持ち、電力の40%を賄っているが、福島の事故を受けて、原発新設を禁止し、2034年ころまであと20年間運転するという。したがって、単純な「脱原発」ではなく、原発を続けていくうえで、福島の事故の教訓を徹底的に分析して汲み取ろうとしている。特別のチームをつくり、外国である日本から可能な限り情報を集め、2011年8月までに収集した資料をもとに39の教訓をまとめている。とくに、「事故を招いた一連の組織的・技術的不適切さ」に焦点を当てて、体系的に分析しているところが重要である。日本に欠けているのは、この視点である。そこで、改めて、この報告要旨を4つの柱に再整理して(1)制度上、組織上の欠陥、(2)過酷事故、(3)非常時対応の欠如・欠陥、(4)設備機器の欠陥・不備、?予防的措置の欠陥・不備)、全文紹介しておきたい。
日本の原子力安全・保安院が取りまとめた「技術的知見」(2012年3月)なるものが、ここで指摘された問題群のほんの一部の技術的問題しか扱っていないことは明らかであり、また政府事故調査委員会の中間報告も、制度上・組織上の欠陥については、ほとんど扱っていない。したがって、本報告書は、まさに日本の事故調査のあり方を問い直し、今後の原子力規制と再稼働に向けての抜本的改革と課題を明らかにして行くうえで、是非とも参照する必要がある。
付録資料
「福島の教訓2011年3月11日」
スイス原子力安全規制局 2011年10月29日
第5章 付録:教訓の要約
スイス原子力安全規制局は、福島原発事故の包括的分析を行い、その結果を2つの報告で公表している。その調査結果によれば、事故を招いた一連の組織的、技術的不適切さを示している。この分析からの知見をここに、39の教訓としてまとめる。これは、一方で事実による裏付けがあるが、他方で仮説に基づいている(2011年8月までに得られた情報)。一連の教訓は、内容的に限界はないが、これまでの深められた分析を要約している。
【問題群1 制度上、組織上の欠陥】(訳注)
教訓1 学習する組織を発展させない欠陥
国内および国際的事故の経験が十分に考察されていない。2007年のIRRS(IAEAの総合的規制評価サービスIntegrated Regulatory Review Service)委員会が求めた事故について、何も公式の検討がなされず、国外の事故から改善措置が日本の原発でとられていない。(訳注 国外のスリーマイル島事故、チェルノブイリ事故、国内のJCO事故、柏崎刈羽事故などの分析、教訓を活かしていない)
教訓2 貧弱な企業文化
経営者は、偽造と隠蔽を助長する企業文化のもとにあるように見える。(訳注 「やらせ」問題)
教訓3 経済的配慮から安全を制限した
経営企業は、2010年の年報において、コスト節約プログラムのもとで設備検査の回数を減らしたと述べている。
教訓4 保安院が経済産業省に依存している欠陥
保安院は、経済産業省の一部である。これは利益相反であり、結果にいたる決定構造の不透明性をもっている。(訳注 保安院が独立した検査能力も権限もない)
教訓5 検査における全体システムの構造的欠陥
日本の検査機関の役割と責任は不明確に規制されてきた。(訳注 もたれあい問題)
教訓6 不十分な検査の深さ
検査機関は、設備の建設と運転に当たり、津波と安全などをただ表面的にしか検討しなかったという大きな誤りを犯した。(訳注 書類審査中心)
教訓7 企業の安全文化の欠陥
安全検査がなおざりにされ、あるいは偽造された。その結果は欠陥のあるメインテナンス管理であった。
教訓8 意思決定到達の欠陥
海水注入がもっと早く行われるべきであった。多くの理由で、会社・検査機関・政府(首相)が不十分な意思疎通のために、時機に適した決定を妨げた。決定のために必要な設備のパラメーターが連続的に検査されなかった。
教訓15 グループ力学の危険性(訳注、原子力ムラ問題)
これまでの企業経営で、リスクを過小評価し、警告と事実を無視し、企業の運営内部で可能なかぎり集団主義、自己満足、自信過剰に陥っていた(訳注「原子力ムラ」問題)。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください