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【菅直人氏インタビュー(下)】 原発の確実な安全性確保は不可能だ

聞き手=竹内敬二、服部尚(ともに朝日新聞編集委員)

――東電本店で訓示された記録映像で、音声が消されていた映像がありますね。

 代わりの映像を誰かが持っているのではないですか? サイトには流れているのだから。私は別にそれを止めたことは一度もありません。200人の前で話したわけですから、ある程度、演説みたいになってしまうわけです。それが音声だけ無いなんていうのは変ですよ、普通で言うと。どこかにあるでしょう。

――ちょうどそのころですね、4号機のプールの話も。

 4号機のプールに水があるかないかというのが大きな焦点になっていました。確か3月16日に自衛隊のヘリコプターがそばを通ったときにビデオカメラで撮った映像があって、そこにキラッと水面が光ったわけです。それを翌日の朝だったかに持ってきて、「水があります」と言うわけですね。北澤俊美防衛大臣(当時)と一緒に何回も見たのを覚えています。

「さようなら原発1000万人アクション」の集会であいさつする菅直人前首相=2012年6月12日、衆院第一議員会館

 それだって、確実にあると言えたかどうか。水面がキラリと光ったぐらいですから。だから、4号機で爆発したのは、もしかしたらプールの中の燃料がメルトダウンして、原子炉と同じようにジルコニウムなどが溶け出して水素が生じたのか、それ以外の理由で出たのか、全く分かりませんでした。保安院も原子力安全委員会も分からない。なぜ爆発したか。さすがに隣の3号機から来るなんて考えていませんから。原子炉が空っぽなのに爆発が起きるとしたら、それはプールしかない。もし起きていたら大変なことだということですよね。

――原子力災害対策本部の議事概要では、菅さんは「4号機のプール(の水温)が上昇し、懸念される状況にある」と発言された記録があります。他方で、朝日新聞が入手した議事メモでは菅さんの発言として「4号機はこのプールが沸騰。なくなった。それで発熱して火事になっている」とあります。

 (議事概要では)この前に海江田大臣のところで、「3号機と4号機の使用済み燃料プールの水温も上昇してきており、早急な対応が必要。可及的速やかに注水を行うよう、東京電力に対し、措置命令を行った。さらに、今朝5時45分ごろ、4号機の原子炉建屋で再び出火が確認された。現場には近づけないが、その後、炎は自然に消えた模様」とあります。プールの水温が上昇ということは、プールに水があるということです。この後に、私がプールの水が無いなんていうことを言うはずはない。論理的に考えて。

 たぶんメモを書いた人の理解が何か違っているのですよ。海江田大臣は水温が上昇してきて注水が必要だと。上昇しているというのは水が蒸発するということですから。だから注水が必要だということをきちんと言っている。それと全く矛盾するようなことを言うことはありません。

――次に何が起こるかわからない状態から、何となくちょっと光明を感じた時期はいつごろですか。

 見えない敵が攻めてきたのが最初の1週間ぐらい。3月17日以降、効果はともかく、自衛隊が水を上から落とし、ここで最低限の反撃態勢がだんだんと固まってきた。これは非常に大きかった。消防もいろんな部隊も、命がけでやろうという気にみんななって、アメリカ軍も、日本がやる気ならいくらでも応援するというような。やはり日本の姿勢を見ていたわけです。そういう意味で原子炉に水が注入され始めたところが転機でしたね。もちろん水が入っても、それがどんどん漏れ出るわけだから、海へ出たりもするし、4号機のプールでもう1回地震が起きたらどうなるかとか、まだ危ない状態は続いたけれども、少なくとも1号機、2号機、3号機に水が入り出した時点が、やっと防衛線が曲がりなりに引けたという感じでした。

――歴史として、記録として、原発事故を残すには、どういうことを調べたらいいと思われますか? 

 一番情報が詰まっているのは、東電の現場でやりとりをしている記録です。全部明らかになればよく分かるのではないでしょうか。吉田所長と誰かのやりとりだって入っているだろうし、当然「撤退」という言葉を使うか使わないかはともかく、「退避」であるか何であるか、いろんな言葉遣いも含めて、それが全部表に出れば分かるでしょう。東電が徹底的に隠している。東電が操作しているのです。業務上過失か何かの訴訟を怖がっているという説もある。彼らがシナリオを作り替えていると感じます。あえて第3者的に言えばね(笑)。吉田所長は所長としての権限もあるから、ギリギリいい判断を含めてやっていたけれども。

――事故解明とは別に、政府は原発の再稼働を進めようとしています。安全を確保するために、安全規制はどうあるべきでしょうか。

 原子力安全規制庁のことを私も調べていますが、米国のNRC(原子力委員会)には、海軍の出身者が結構います。米国は原子力潜水艦と原子力航空母艦を持っていて、軍の人が乗っている中に原子炉があるわけだから、場合によったら安全性も原発より厳しい。そこの技術屋がNRCに入ったりしている。日本は原子力安全・保安院にそうした能力のある集団が決定的に不足していた。新しい規制庁を作ること自体はいいが、プロフェッショナルエンジニアリングかな? そういう資格があるそうですが、それに匹敵する人間がいないですね。

――人材をどうやって集めるかが課題だと。

 それも含めてどうするかですよ。自公案でもいいから、その議論をしなきゃいけない。極めて政治的な話になって恐縮ですが、自民党は、総理大臣を隔離しよう隔離しようとしている。そのことは悪くないのですが、「全部菅総理の責任だったからうまくいかなかった」というので、今度は総理が口を出せないことにしようという方向ばかりが見える。今回のような形でやらざるを得なかったのが逆に異例なことであって、本来はもっとしっかりした態勢があればよかったんです。規制機関のスタンスがいくらしっかりしていても、その能力が低ければ、結局は東電にお伺いを立てて、東電が言った通りの答弁書を出すみたいなことになってしまいます。

――ベントが遅れた話に戻りますが、東電がやると言い始めたのはいつごろですか?

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