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ヒッグス、万一はずれたらもっとスゴイ

尾関章 科学ジャーナリスト

 歴史的な出来事である。ヒッグス粒子らしきものが見えた、という科学ニュースを伝えた朝日新聞1面トップの見出しのことである。「ヒッグス粒子か発見」とある(東京本社発行最終版)。

 ふつうなら「ヒッグス粒子発見」、もしくは「ヒッグス粒子発見か」であろう。日本語としてはこなれない「か発見」が出てきたところに、今回の発表の微妙なニュアンスがある。

 実験の舞台となった欧州合同原子核研究機関(CERN、ジュネーブ郊外)が7月4日に出した発表をもとに、そのニュアンスを読み解いてみよう。

 それによると、今回、陽子と陽子を正面衝突させる巨大加速器LHCの実験で、二つの国際チームATLASとCMSが、いずれも新しい粒子を観測した。その質量は125~126GeV(ちなみに、陽子1個の質量は1GeV弱)ほどだった。その確率は、どちらも99.9999%以上。逆に言えば、見間違いをしている可能性は100万分の1に満たない、ということである。

 これは、素粒子物理学の常識に照らせば「発見」と言ってよい数字である。だが、発表資料に書かれたロルフ・ホイヤーCERN所長の表現は、”the discovery of a particle consistent with the Higgs boson(ヒッグス粒子であるとみて矛盾を生じない粒子の発見)”だった。わかりやすい日本語にすれば「ヒッグス粒子らしきものの発見」である。

 この慎重な言い回しの理由については、4日に東京大学であったATLAS日本グループの記者会見で説明があった。

 ヒッグス粒子探しでは、ヒッグスそのものではなく、それが壊れて現れる粒子を捕らえようとする。壊れ方は一つではなく、いくつもある。物理学者は五つの壊れ方に注目しているが、今回の発表は、このうち主に三つの壊れ方のデータをもとにしている。残る二つについては十分な解析結果が得られていないのだ。その結果、新しい粒子を見たのは確かだが、それがヒッグス粒子とは断定しない、という判断になった。こうした事情が、「か発見」という異例の見出しを生んだのである。

 ここで忘れてならないのは、

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筆者

尾関章

尾関章(おぜき・あきら) 科学ジャーナリスト

1977年、朝日新聞社に入り、ヨーロッパ総局員、科学医療部長、論説副主幹などを務めた。2013年に退職、16年3月まで2年間、北海道大学客員教授。関心領域は基礎科学とその周辺。著書に『科学をいまどう語るか――啓蒙から批評へ』(岩波現代全書)、『量子論の宿題は解けるか』(講談社ブルーバックス)、共著に『量子の新時代』(朝日新書)。週1回の読書ブログ「めぐりあう書物たち」を開設中。

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