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震災の陰に隠れた「光合成の鍵」発見の大きさ

米山正寛 朝日新聞記者(科学医療部)

 脱原発、脱温暖化の流れが強まるなか、植物の光合成をまねて太陽光からエネルギーをとり出す人工光合成に期待が集まっている。このときに重要な役割を果たす触媒「光化学系II(PSII)複合体」の立体構造が、日本で突きとめられた。欧州勢との抜きつ抜かれつの競争を制しての発見だった。

 報告したのは、岡山大学自然科学研究科の沈建仁教授と大阪市立大学複合先端研究機構(理学研究科兼務)の神谷信夫教授らの研究グループだ。論文は昨年4月、英科学誌ネイチャーの電子版に出た。大震災直後の発表とあって、国内での報道がわずかだったのは残念なことだった。

拡大光化学系II(PSII)複合体の全体構造=研究グループ提供

 ところが年末に、米科学誌サイエンスがこの成果を2011年の科学10大ニュースの一つに選んだ。日本発のニュースでは、ほかに、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の話題が選ばれている。PSII複合体の立体構造発見は、ネイチャー、サイエンスという英米の有力科学誌の双方から評価を受けたかたちだ。注目度は一気に高まった。

 では、PSII複合体とはどんなものだろうか。

 私たちは今、太陽のエネルギーを、太陽電池や温水パネルを使って電気や熱に変換して利用している。しかし自然界の植物は、太陽のエネルギーを化学エネルギーに変えて、でんぷんなどの有機物をつくり出す。呼吸に不可欠な酸素を発生させ、食べ物のおおもととなる糖をつくるのだから、まさに地球上の生命を支える母なる反応である。

 植物の光合成は、光エネルギーを使って水分解などを起こす明反応と、その産物と二酸化炭素から糖を合成する暗反応とから成る。第1段階の明反応で、水から酸素を発生させ、さらに電子をとり出す触媒がPSII複合体である。

 池や海の水は、いくら光が当たっても分解しない。植物が水を分解できるのは、葉緑体の中に高効率の触媒であるPSII複合体を備えているからだ。19個のたんぱく質を含む複雑な膜たんぱく質で、その中核部分にマンガン4個とカルシウム1個があることは知られていたが、正確な化学組成と原子配置は不明のままだった。

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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞記者(科学医療部)

朝日新聞科学医療部記者。「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長などを務め、2018年4月から再び朝日新聞の科学記者に。ナチュラリストを夢見ながら、とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せて取材活動を続けている。

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